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ニンゲン生きづら!
➃
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翌日、俺は寝不足のまんまコンビニへ行き、普段と変わらないように仕事をしていた。
「あきら君、大丈夫?なんなら、今日一日休んでもよかったのに…」
「いえ、休んでもろくな事考えないし、仕事してる方が気が紛れるんで」
「そぉ?それならいいのだけれど…」
ゆきさんは心配そうに俺の様子を見ていた。
それが分かっていたから、俺は昨日のことを思い出さないように仕事に没頭していた。
客の対応やゴミ出し、品出し…とにかく、振り切るようにして体を動かすことに集中した。
「お見合いした次の日に、張り切ってるのねぇ」
「でもあきら君、昨日のお見合いはうまくいかなかったみたいじゃない」
買い物をしている近所の客の噂話が聞こえてくる。
悪意がないということはわかっているのだけれど、こうやって良くない話で噂をされると結構心に刺さるものがあるな。
「じゃあ、私ちょっと出かけてくるから店番お願いね」
「ういっす、いってらっしゃい、気を付けて」
ゆきさんは午後から花屋の奥さんとお茶をしに出かけた。
この店は昼を過ぎると一気に暇になる。
俺は最後の客が捌けると、カウンターに椅子を持って来てそこに座り、漫画を読み始める。
だが、内容が一向に頭に入って来ない。
「あー…くっそ!あんなんただの失敗のひとつだろ」
今まで俺は多くの失敗をしてきた。
勉強も人付き合いも、ニンゲンってだけで見下されることも多かったし、今更、見合いで失敗して、しかもこっちから断ったことくらい何でもないはずなのに。
「なのに、なんでこんな気にしてんだよ…」
皇牙が男だから?ハスキーだから?それとも、あいつの気持ちをちゃんと聞こうとしなかったから?ゆきさんにもポン爺にも内緒にされていたから?
「あぁ~、理由がわかんねぇ…」
行き場の無い気持ちにむしゃくしゃして、俺は自分の財布から150円を出してレジを打ち、コーヒーサーバーからコーヒーを淹れた。
こんなこと、他所のコンビニでやったら即クビだろうな。
ここに入ったばかりの時は、1日中真剣にレジの前で硬直したように立っていたけれど、ゆきさんから
「このお店、お昼の間は本当にお客さんが来ないから、お代は頂いちゃうけど、コーヒーとか飲んでのんびり店番してくれていればいいからね?」
なんて言われて強い衝撃を受けた。
それくらいのんびりした店だってことは商店街付近の客なら誰でも知っているみたいだし、商店街の中の他の店も暇な時間はどこでも大体こんな感じらしい。
まあ今の俺としては忙しいくらいに客が来てくれたほうがよっぽどありがたいんだけどさ…。
結局頭の中でもんもんと昨日のことを拭えないまま、時間は2時、3時と過ぎていった。
夕方になれば、惣菜屋が作った惣菜を店に置きに来てくれて、それを目当てに一人暮らしの客や、夕食にもう一品という主婦が買いに来たりする。
そろそろ置きに来てくれるはずだと、俺は腰を上げて店の整理を始めた。
するとそこに1人の客がやって来た。
うちのコンビニは自動ドアじゃない。
だから客が来ると、喫茶ムゥのようにドアに備え付けたベルが来客を知らせてくれる。
「らっしゃーせー」
俺は力は抜けているけど、決して気は抜けていない絶妙な声で来店歓迎の挨拶をする。
3時だから、子供がお菓子でも買いに来たのかもしれないな、なんて思いながら、俺は棚と向かい合って客の方を見ることもなかった。
「あの…」
どうやら来店した客が声をかけてきたらしい。
声は低いけど老けていない…子供じゃないのか。
「ああ、すいません、惣菜ならまだもう少し…、…って、皇牙!?」
客の方に顔を向けると、そこに居たのは昨日見合いで断り、振り切ったはずの皇牙だった。
「よ、よう…あきら…昨日ぶり」
皇牙は気まずそうな表情で、尖った白い耳を忙しなく動かしながら、俺に話しかけた。
「な、なに来てるんだよ!今日仕事は!?」
別に皇牙の仕事のことなんて俺には関係ないのに、突然の訪問に驚いた俺の口からは咄嗟にそんな言葉が出た。
「昼から有休をもらったんだ。昨日のことがずっと心残りで、午前中も正直仕事に集中出来なかった。笑っちゃうよな。」
そう言って自嘲していた皇牙だったが、期待に満ちていた見合いの時の表情よりも明らかに疲れて、憔悴しているようにも見えた。
「バカだな…そんくらいのことでこんな…」
自分も同じように気に掛かっていたとは言えず、口を付くのはそんな悪態ばかりだ。
「そんくらいのことじゃない!俺にとっては本当に大事な事だったんだ!」
そう言って泣きそうな顔をする、俺よりも15cmは背が高いであろう年上の男の姿に、どうしようもない気持ちを抱いた。
するとそこに惣菜屋のキツネ族の配達員の女の子が来た。
「どうもお、惣菜屋あじさいです~。今日もここの棚でよかったですかあ?」
「あ!はい、そこにお願いします!ハンバーグが人気なんで手に届きやすいここに…」
皇牙が俺の腕を掴もうとしたタイミングに来た惣菜屋に慌てて対応に向かった。
「あきらっ!」
皇牙が吠えるように大きな声を出し、俺もキツネの女の子も吃驚してそっちを見た。
「わ!す…すみません。あとは適当に並べておいて下さい」
「あ、はい~、わかりましたぁ」
俺はそう言い置いて慌てて立ち尽くしている皇牙の方に向かって耳打ちをした。
「皇牙!いきなり大きな声出すなよ、配達員の子も吃驚してるだろ?」
「でも、俺…どうしていいかわからなくて…」
「わかった、わかったから。なら7時に外で待ってろ、その頃には仕事終わるし、ゆっくり話せるから、な?」
本当は締めの作業で8時までが勤務だが、もうそれはゆきさんにお願いするしかないと思って皇牙に提案した。
「わかった…じゃあ7時になったらまた来るよ」
そう言ってトボトボ店の外へ出ていく皇牙の後ろ姿が頼りなく、放っておけなく見えて
「(あいつ、大丈夫か…)」
と、恐らく仕事を終えてすぐ来たのであろうスーツを着たままの背中を、内心ハラハラしながら見送った。
「あきら君、大丈夫?なんなら、今日一日休んでもよかったのに…」
「いえ、休んでもろくな事考えないし、仕事してる方が気が紛れるんで」
「そぉ?それならいいのだけれど…」
ゆきさんは心配そうに俺の様子を見ていた。
それが分かっていたから、俺は昨日のことを思い出さないように仕事に没頭していた。
客の対応やゴミ出し、品出し…とにかく、振り切るようにして体を動かすことに集中した。
「お見合いした次の日に、張り切ってるのねぇ」
「でもあきら君、昨日のお見合いはうまくいかなかったみたいじゃない」
買い物をしている近所の客の噂話が聞こえてくる。
悪意がないということはわかっているのだけれど、こうやって良くない話で噂をされると結構心に刺さるものがあるな。
「じゃあ、私ちょっと出かけてくるから店番お願いね」
「ういっす、いってらっしゃい、気を付けて」
ゆきさんは午後から花屋の奥さんとお茶をしに出かけた。
この店は昼を過ぎると一気に暇になる。
俺は最後の客が捌けると、カウンターに椅子を持って来てそこに座り、漫画を読み始める。
だが、内容が一向に頭に入って来ない。
「あー…くっそ!あんなんただの失敗のひとつだろ」
今まで俺は多くの失敗をしてきた。
勉強も人付き合いも、ニンゲンってだけで見下されることも多かったし、今更、見合いで失敗して、しかもこっちから断ったことくらい何でもないはずなのに。
「なのに、なんでこんな気にしてんだよ…」
皇牙が男だから?ハスキーだから?それとも、あいつの気持ちをちゃんと聞こうとしなかったから?ゆきさんにもポン爺にも内緒にされていたから?
「あぁ~、理由がわかんねぇ…」
行き場の無い気持ちにむしゃくしゃして、俺は自分の財布から150円を出してレジを打ち、コーヒーサーバーからコーヒーを淹れた。
こんなこと、他所のコンビニでやったら即クビだろうな。
ここに入ったばかりの時は、1日中真剣にレジの前で硬直したように立っていたけれど、ゆきさんから
「このお店、お昼の間は本当にお客さんが来ないから、お代は頂いちゃうけど、コーヒーとか飲んでのんびり店番してくれていればいいからね?」
なんて言われて強い衝撃を受けた。
それくらいのんびりした店だってことは商店街付近の客なら誰でも知っているみたいだし、商店街の中の他の店も暇な時間はどこでも大体こんな感じらしい。
まあ今の俺としては忙しいくらいに客が来てくれたほうがよっぽどありがたいんだけどさ…。
結局頭の中でもんもんと昨日のことを拭えないまま、時間は2時、3時と過ぎていった。
夕方になれば、惣菜屋が作った惣菜を店に置きに来てくれて、それを目当てに一人暮らしの客や、夕食にもう一品という主婦が買いに来たりする。
そろそろ置きに来てくれるはずだと、俺は腰を上げて店の整理を始めた。
するとそこに1人の客がやって来た。
うちのコンビニは自動ドアじゃない。
だから客が来ると、喫茶ムゥのようにドアに備え付けたベルが来客を知らせてくれる。
「らっしゃーせー」
俺は力は抜けているけど、決して気は抜けていない絶妙な声で来店歓迎の挨拶をする。
3時だから、子供がお菓子でも買いに来たのかもしれないな、なんて思いながら、俺は棚と向かい合って客の方を見ることもなかった。
「あの…」
どうやら来店した客が声をかけてきたらしい。
声は低いけど老けていない…子供じゃないのか。
「ああ、すいません、惣菜ならまだもう少し…、…って、皇牙!?」
客の方に顔を向けると、そこに居たのは昨日見合いで断り、振り切ったはずの皇牙だった。
「よ、よう…あきら…昨日ぶり」
皇牙は気まずそうな表情で、尖った白い耳を忙しなく動かしながら、俺に話しかけた。
「な、なに来てるんだよ!今日仕事は!?」
別に皇牙の仕事のことなんて俺には関係ないのに、突然の訪問に驚いた俺の口からは咄嗟にそんな言葉が出た。
「昼から有休をもらったんだ。昨日のことがずっと心残りで、午前中も正直仕事に集中出来なかった。笑っちゃうよな。」
そう言って自嘲していた皇牙だったが、期待に満ちていた見合いの時の表情よりも明らかに疲れて、憔悴しているようにも見えた。
「バカだな…そんくらいのことでこんな…」
自分も同じように気に掛かっていたとは言えず、口を付くのはそんな悪態ばかりだ。
「そんくらいのことじゃない!俺にとっては本当に大事な事だったんだ!」
そう言って泣きそうな顔をする、俺よりも15cmは背が高いであろう年上の男の姿に、どうしようもない気持ちを抱いた。
するとそこに惣菜屋のキツネ族の配達員の女の子が来た。
「どうもお、惣菜屋あじさいです~。今日もここの棚でよかったですかあ?」
「あ!はい、そこにお願いします!ハンバーグが人気なんで手に届きやすいここに…」
皇牙が俺の腕を掴もうとしたタイミングに来た惣菜屋に慌てて対応に向かった。
「あきらっ!」
皇牙が吠えるように大きな声を出し、俺もキツネの女の子も吃驚してそっちを見た。
「わ!す…すみません。あとは適当に並べておいて下さい」
「あ、はい~、わかりましたぁ」
俺はそう言い置いて慌てて立ち尽くしている皇牙の方に向かって耳打ちをした。
「皇牙!いきなり大きな声出すなよ、配達員の子も吃驚してるだろ?」
「でも、俺…どうしていいかわからなくて…」
「わかった、わかったから。なら7時に外で待ってろ、その頃には仕事終わるし、ゆっくり話せるから、な?」
本当は締めの作業で8時までが勤務だが、もうそれはゆきさんにお願いするしかないと思って皇牙に提案した。
「わかった…じゃあ7時になったらまた来るよ」
そう言ってトボトボ店の外へ出ていく皇牙の後ろ姿が頼りなく、放っておけなく見えて
「(あいつ、大丈夫か…)」
と、恐らく仕事を終えてすぐ来たのであろうスーツを着たままの背中を、内心ハラハラしながら見送った。
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