俺とクロのカタストロフィー

munetaka

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44.雪国の除雪が面倒で親に「ロードヒーティングにしてよ」と言うと「労働ヒーティングだから大丈夫」とダジャレで返されたことあるやついる?

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翌朝、肩を軽く叩かれる感覚で目が覚めた。薄いまぶたを開けると、舞の心配そうな表情が視界に飛び込んできた。

「颯、起きて。大変なことになってる」

その緊迫した声音に、寝ぼけていた意識が一気に覚醒した。

「どうした?」

「朝起きたら電気が点かなくて、停電してるみたい。それに、スマホも圏外で繋がらないの。颯のスマホはどう?」

俺は枕元に置いたスマホを手に取り画面を確認した。アンテナの表示はゼロ、完璧に圏外だ。

「こっちも駄目だ。電波が完全に途絶えてる」

二人して顔を見合わせ、不安が互いの目に影を落とす。舞が小さくため息をついて、「とにかく、下に降りましょう」と促した。

リビングに降りると、良雄が部屋の明かりを何度もスイッチで確認しているところだった。

「おはよう、颯。やっぱり停電か……ちょっと配電盤を見てくるよ」

良雄が玄関先の配電盤へ向かうのを見届ける間に、祖母が棚から電池式のラジオを取り出して、慎重にダイヤルを合わせ始めた。やがて小さなスピーカーからアナウンサーの硬い声が流れ出した。

『道内全域で、昨夜未明より大規模な停電が発生しています。原因は道内各地の送電設備の異常と推測されますが、詳細な原因は未だ不明で、復旧の見通しは立っておりません。また、一部地域では水道やガスの供給も停止しています。携帯電話も道内全域で使用不能となっているため、救急や消防などへの通報はお近くの公衆電話をご利用ください……』

祖母は静かに首を振りながら、小さな音量でラジオをつけっぱなしにした。

「幸いうちは水もガスも止まっとらんから、ご飯はちゃんと作れるよ」

祖母は明るい表情で微笑みながら台所に立った。食卓には温かな味噌汁と焼き魚、漬物が並び、俺たちはみんなでそれをありがたくいただいた。食べながら祖母が言った。

「冷蔵庫と冷凍庫の中身が腐らないように、ビニールに入れて外の雪に埋めといたから大丈夫だよ」

朝食後、俺たちは自警団の朝の見回りを済ませ、家に戻って昼食をとった。その後、祖父と良雄は町内会の代表として役場へ出向き、舞とリンと湊は祖母と一緒に婦人会の集まりに出席することになった。家には俺とクロが残された。

特にやることもないので、クロを連れて家の前の除雪を始めると、しばらくして隣の家の幼馴染、桜ねえが訪ねてきた。

「颯、様子を見にきたよ。電気も携帯もダメだし、そっちも不便でしょ?」

桜ねえは厚手のコートにマフラーを巻き、白い息を吐きながらこちらを覗き込んだ。

「こっちはまだ水とガスは大丈夫だけど、電気がないのは不便だね。灯油がなくなったら大変だ」

「ああ、それだと困るよね……」

話しているうちにふと、俺は倉庫に昔使っていた薪ストーブが眠っていることを思い出した。

「そうだ、桜ねえ。うちの倉庫に薪ストーブがあった気がするんだけど、一緒に見に行かないか?」

俺たちはクロを連れて倉庫に向かい、埃をかぶった荷物をかき分けて、隅に置かれていた古い薪ストーブを見つけた。だが、肝心の薪がまったく見当たらない。

「薪がないと使えないね……」

俺たちはいったん薪ストーブを使うことを諦めた。桜ねえは「また何かあったら声を掛け合おうね」と言い残して自分の家へ帰っていった。

しばらくして祖父と良雄が戻ってきた。町役場での話し合いの結果を、二人は落ち着いた表情で説明した。

「町長が各町内会に呼びかけて、町全体で自警団を組織することになった。昨日手伝ってくれたオーストラリア人たちにも正式に参加してもらう。役場に英語ができる職員がいるから、颯がわざわざ通訳する必要もなくなるぞ」

それを聞いて俺は安堵した。あのオーストラリア人たちは誠実で頼りになる存在だと、昨日の作業を通じて実感していたからだ。

祖母と舞、リン、湊も婦人会から戻ってきて、その様子を話してくれた。

「婦人会のおばあちゃんたちはね、『電気がなくたって昔の人は生活してたんだから、私たちも大丈夫』って全然気にしてないの。みんな前向きだったわ」

舞は笑いながらそう話した。

日が暮れると、女性陣が電池式ランタンの薄明かりの中で夕飯を準備し始めた。電気炊飯器が使えないため少し困惑していたが、祖母が手際よく土鍋を取り出してご飯を炊いてくれた。その土鍋の炊きたてのご飯は、驚くほど美味しく、みんなで大喜びした。

食後に風呂を沸かしたが、暗闇の中で入るのは怖いという話になった。リンと湊は相談した結果、二人で風呂に入ることになり、電気ランタンを脱衣所に置いてかろうじて足元が見える状態にして入浴したらしい。

二人が風呂から出た後、舞が俺のところにきて、小さな声で囁いた。

「颯、一人でお風呂に入るの怖いから、一緒に入ってくれない?」

舞の頼みに俺は微笑みながら頷き、二人で風呂場に向かった。ランタンのわずかな明かりの中で湯につかり、静かな時間を過ごした。

風呂から出ると、祖父が電池や灯油を節約するために今日は早めに寝ようと言った。家族みんなも同意し、それぞれが自室に戻って布団に潜り込んだ。

まだ夜八時を少し過ぎたばかりだが、窓の外は完全な闇に包まれていた。静まり返った家の中、俺は腕の中で舞の温もりを感じながら小さく囁いた。

「明日はまた忙しくなりそうだ。少しでも休んでおこう」

「そうね……」

舞は俺の胸に顔を埋め、小さく息を吐いた。すぐ横でクロが静かに寝息を立てている。俺たちは漆黒の闇の中、それぞれの鼓動を感じながら、深い眠りの淵へと沈んでいった。
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