俺とクロのカタストロフィー

munetaka

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45.車を運転していてガソリンがなくなりそうと助手席の友達に言ったら「ランプ点いてからもしばらく走るから大丈夫」と言われる確率は100%

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翌朝、まだ薄暗いなか家の前に車が停まる気配がして目が覚めた。時計を見ると朝の六時を少し回ったところだ。窓から覗き込むと、黒いハイブリッドカーが雪を踏んで静かに停車した。運転席から降り立ったのは、見慣れた爽の姿だった。

「あ、爽だ!」

隣で起きていた舞も気づいて、嬉しそうに窓越しに手を振った。だが、それよりも早く玄関の戸が勢いよく開き、上着も羽織らずに湊が走り出た。彼女は爽に一直線に駆け寄り、そのまま力強く抱きついた。爽も驚きながら、しっかりと湊を抱き締め返していた。

やがて爽は湊を連れて家に入り、玄関で靴を脱ぎながら顔を上げた。

「ただいまー。雪道の運転疲れたよー」

俺たちはリビングから玄関に集まり、安堵の笑みを交わした。

祖母は早速、爽に朝食を出してくれた。温かい味噌汁に焼き魚、土鍋で炊いたご飯がテーブルに並んだ。朝食を取りながら、俺たちは爽の話に耳を傾けた。

「札幌も今は全面停電で、携帯も繋がらなくてさ。すぐに自衛隊が投入されて政府機能を維持してるけど、正直かなりの非常事態だよ。道庁職員はここ数日交代もなく泊まり込みで対応してきたけど、今は現場の運営は官僚と自衛隊が主導する形で回ってる。それで道庁の職員はやっと順番に休暇を取れるようになったんだよね」

「それは大変だったな……無理せずここでゆっくり休んでくれよ」と祖父がねぎらった。

「高速道路がまだ通行可能だったのは助かったよ。ただ、一部で道路が崩れて片側通行になっている場所もあったけどね。でも、渋滞はほぼなかったから、雪道だし街灯も点いてないから速度は出せなくて、いつもの3倍くらい時間かかったけど」

爽はほっとした表情を浮かべて湯飲みを口に運んだ。

「でも、札幌市内以外ではガソリンスタンドが完全に休業していて……ハイブリッドとはいえ、帰りのガソリンがギリギリで少し心配かも」

さらに爽は続けた。

「札幌ではガソリンスタンドも手動でポンプを動かして給油は続いてるけど、給油待ちの車が大行列だし、セーコーマートが倉庫に残ってるものだけで販売を続けてるから、あちこち長蛇の列ができてたよ。ガソリンスタンドとセコマ以外の店は停電でどこも営業を停止してるから仕方ないけどね」

「政府内の動きはどうなっているんだ?」と父が訊ねると、爽は申し訳なさそうに首を振った。

「ごめん。国交副大臣の担当業務で職務上知った情報は公表できないだよね。ただ、政府も自衛隊も全力を挙げて対応していることだけは間違いないよ」

爽は昨日の夜に札幌を出て、ここに到着するまで一睡もしていないとのことだったので、朝食後すぐに二階の俺の部屋で昼まで休むことになった。

その後、祖父と父と俺の三人はクロを連れて町内の見回りに出かけた。自警団の巡回をしつつクロの散歩も兼ねられて一石二鳥だった。

町内の家々を回っていると、どの家でもプロパンガスと灯油の残りが心配という話になった。帰りの車の中で祖父は不安そうな俺を励ますように言った。

「うちは灯油タンクを満タンにしてあったから春までかなり節約すればギリギリもつかな」

昨日、倉庫で薪ストーブを見つけたことを話すと、祖父は目を輝かせた。

「薪ならいくらでも用意できる。それを使って暖房を薪ストーブに切り替えれば、灯油は風呂の分だけで十分持つだろう」

昼食を家で食べ終えると、祖父は早速薪を調達しに軽ワゴンで出かけることになった。物々交換用に何か持っていけるものはないかと考えていた祖父に、俺がレトルトカレーとパックご飯のストックを提案すると、それを喜んで積み込んで出かけた。

午後は眠りから覚めた爽に、これまで祖父の家に来てからの出来事を詳細に説明した。爽は真剣な表情で頷きながら聞き入り、最後にこう提案した。

「明日は帯広にレンタカーを返しに行って、そのついでに帯広の状況を確認しに行ってみない?」

俺もすぐに同意した。

夕方近くになって、祖父が戻ってきた。軽ワゴンの荷台は薪が天井までぎっしり積まれていた。それを見て俺と爽は笑顔で手伝い、倉庫に運び込んだ。

家の中に戻ると、父が既に灯油ストーブを外してリビングに薪ストーブを設置していた。建築業に従事している父は、こういう非常時にとても頼りになる存在だ。

薪ストーブに火をつけると、ゆらゆら揺れる暖かな炎がリビングを満たした。灯油ストーブとはまた違うじんわりとした暖かさに、みんなホッとした表情になった。

夜になり、寝る場所を調整することになった。爽の到着で人数が増えたため、湊はリンが一人になるのを嫌がり、舞も加わって女性三人が一緒の部屋になった。爽は俺とクロのいる二階の部屋を使うことになった。舞は寂しそうな表情を一瞬見せたが、「女子三人でお泊り会みたいで楽しい」と前向きに受け止めていた。

夕食は電池式ランタンを囲みながら祖母たちが作ってくれた温かな料理を食べ、ラジオのニュースに耳を傾けた。ラジオからは全国の群発地震の影響で送電網が寸断されていること、群発地震が大阪や新潟などでも発生していることが告げられていた。まだ復旧の見通しは立っていないという。

夕食後、舞と一緒に風呂に入った。舞は暗闇を怖がっていたので、脱衣所に置いたランタンの明かりで慎重に足元を照らしながらゆっくりと湯船に浸かった。

風呂から上がると家族はそれぞれ自室に戻り、八時過ぎにはもう就寝することになった。爽とクロが同じ部屋で眠っている。

外はまだ完全な闇だが、薪ストーブの余熱が微かに家中を温めている。この厳しい状況でも、家族が揃ったことで俺の胸には小さな希望が生まれていた。明日はまた新たな一日が始まる。俺は深い安堵とともに静かな眠りに落ちていった。
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