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チュートリアル
第一話
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俺は普通だ。
いや、たぶんスペック的には普通よりもちょっと……いやかなり下の方だろうか。
自己肯定感が喪失している。誇りもプライドもない。
子供のころから何をやってもぱっとしなかった。
勉強もスポーツも中途半端というよりは、ダメ寄りの方で、ユーモアのある話もできないし、これと言って他人に自慢できるようなものもない。
典型的な日陰者だ。
そんな日陰者でも、進学するし、定職に就くし、29歳にもなる。残念なことに……。
まあとにかく、俺はいい大人にはなった。良い大人になった気はしないが……。
いやいや、よくないな。考えることがすぐにネガティブになる。
そんなだからこの年になっても恋人なんてできないし、いまだに童貞なのだ。
まずはそんなどこにでもいる、深見トオルという男について語ったわけだが――
「おじさん、休みなのにお仕事なの?」
夜のコンビニで夜食を物色しているところだった。
振り向くと、そこにはまだ年端も行かない男の子が立っていた。
どうやらスーツ姿の俺を見ての発言らしい。
いやまて、おじさんだと?
29歳はおじさんだろうか。
己に問う。
しかしちょうど商品棚のガラス部分に写りこんだ自分の顔が目に入って、少し納得した。
うつろな瞳にこけた頬、くたびれた中年男のような顔が浮かび上がっている。
俺はおじさんなのかもしれない。
「こら、やめなさい」
近くにいた母親らしき女性が、子供の手を引いて離れていった。
『うちの子がすみません……』なんて謝罪はなかった。
別に謝ってほしかったわけじゃないけれど、得体のしれない不安感にかられたのは事実である。
なんらかのフォローがあってもよかったと思うのだが。
「会社いかないと……」
今日は日曜日。時刻は20時。
これから俺は勤め先の夜勤に入る。
2週間ぶりの休みのはずだった。久しぶりの休日、することもなくただ惰眠をむさぼっていた。
というより、動く体力が残されていなかった。
だというのに、もう日も暮れたころに上司から電話がかかってきた。
『お前、これから夜勤頼むわ。取引先から電話があるかもしれないからさ、対応してくれ。普段なんにもできないんだから、それぐらいできるだろ?』
上司はこともなげに任務を言い渡した。
もちろん拒否権はない。
スマフォというツールは便利だ。
便利すぎる故、他人が安易にプライベートに介入できる。
電話を無視すればいいだって?
そんなことをすれば、俺への上司の評価は地に落ち、最悪職を失うことになりかねない。
俺は弱くて、どうしようもない人間だ。
そんな俺が今の会社を辞めて再就職できる保証など、どこにもないのだ。
夜食に菓子やらつまみ、そして一本だけビールを買った。
本来酒は飲めないけど、会社に着いてすぐに一本ぐらいならばれないだろう。夜勤のオフィスにいるのは俺だけなのだ。
その時間だけは自分のやりたいようにできる。
珍しくポジティブな考えにまとまって、俺はコンビニを出た。
すると――妙なことが起こった。
暗い夜道に向かって一歩足を踏み出したとき、そこにあるはずのものがなかった。
地面がなかったのだ。
俺の足は空を切り、がくんとそのまま体ごと前のめりに倒れこんだ。
何の前触れもなく、穴に落ちたのだ。
自由落下。
落ちる。どこまでも落ちていく。
そんな危機的状況なのに、俺は妙に達観した気持ちで「コンビニの前にそんな穴などあったろうか?」なんてことを考えていた。
気が付くと、そこは荒野だった。
いや、たぶんスペック的には普通よりもちょっと……いやかなり下の方だろうか。
自己肯定感が喪失している。誇りもプライドもない。
子供のころから何をやってもぱっとしなかった。
勉強もスポーツも中途半端というよりは、ダメ寄りの方で、ユーモアのある話もできないし、これと言って他人に自慢できるようなものもない。
典型的な日陰者だ。
そんな日陰者でも、進学するし、定職に就くし、29歳にもなる。残念なことに……。
まあとにかく、俺はいい大人にはなった。良い大人になった気はしないが……。
いやいや、よくないな。考えることがすぐにネガティブになる。
そんなだからこの年になっても恋人なんてできないし、いまだに童貞なのだ。
まずはそんなどこにでもいる、深見トオルという男について語ったわけだが――
「おじさん、休みなのにお仕事なの?」
夜のコンビニで夜食を物色しているところだった。
振り向くと、そこにはまだ年端も行かない男の子が立っていた。
どうやらスーツ姿の俺を見ての発言らしい。
いやまて、おじさんだと?
29歳はおじさんだろうか。
己に問う。
しかしちょうど商品棚のガラス部分に写りこんだ自分の顔が目に入って、少し納得した。
うつろな瞳にこけた頬、くたびれた中年男のような顔が浮かび上がっている。
俺はおじさんなのかもしれない。
「こら、やめなさい」
近くにいた母親らしき女性が、子供の手を引いて離れていった。
『うちの子がすみません……』なんて謝罪はなかった。
別に謝ってほしかったわけじゃないけれど、得体のしれない不安感にかられたのは事実である。
なんらかのフォローがあってもよかったと思うのだが。
「会社いかないと……」
今日は日曜日。時刻は20時。
これから俺は勤め先の夜勤に入る。
2週間ぶりの休みのはずだった。久しぶりの休日、することもなくただ惰眠をむさぼっていた。
というより、動く体力が残されていなかった。
だというのに、もう日も暮れたころに上司から電話がかかってきた。
『お前、これから夜勤頼むわ。取引先から電話があるかもしれないからさ、対応してくれ。普段なんにもできないんだから、それぐらいできるだろ?』
上司はこともなげに任務を言い渡した。
もちろん拒否権はない。
スマフォというツールは便利だ。
便利すぎる故、他人が安易にプライベートに介入できる。
電話を無視すればいいだって?
そんなことをすれば、俺への上司の評価は地に落ち、最悪職を失うことになりかねない。
俺は弱くて、どうしようもない人間だ。
そんな俺が今の会社を辞めて再就職できる保証など、どこにもないのだ。
夜食に菓子やらつまみ、そして一本だけビールを買った。
本来酒は飲めないけど、会社に着いてすぐに一本ぐらいならばれないだろう。夜勤のオフィスにいるのは俺だけなのだ。
その時間だけは自分のやりたいようにできる。
珍しくポジティブな考えにまとまって、俺はコンビニを出た。
すると――妙なことが起こった。
暗い夜道に向かって一歩足を踏み出したとき、そこにあるはずのものがなかった。
地面がなかったのだ。
俺の足は空を切り、がくんとそのまま体ごと前のめりに倒れこんだ。
何の前触れもなく、穴に落ちたのだ。
自由落下。
落ちる。どこまでも落ちていく。
そんな危機的状況なのに、俺は妙に達観した気持ちで「コンビニの前にそんな穴などあったろうか?」なんてことを考えていた。
気が付くと、そこは荒野だった。
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