俺の知ってるゲームとは違うんですがそれは

ヒトヨヒトナリ

文字の大きさ
2 / 13
チュートリアル

第二話

しおりを挟む
「は?」

 俺は夢を見ているのかもしれないと、直感で思った。
 日中は惰眠をむさぼり、そのまま夢を見続けているのだと。

 そうか、だから無慈悲な上司の命令も実は夢に違いな――そう思いながらポケットに入っているスマフォを手に取ると、上司の通話履歴を見つけた。

 ついでに自分のほっぺをつねってみる。
 普通に痛い。
 夢じゃない。

「ついさっきまでコンビニにいたのに……どこだここ?」

 あたりを見回すが、どれも見覚えのない景色だ。
 そんな景色のなかで、一つだけ動くものを見つける。
 それはこちらに歩いてくる人影のようだった。

「このままじゃわけがわからないし……とりあえず話をしてみたほうがいいよな……?」

 普段なら見知らぬ誰かに声をかけることなんてしないが、どうにも状況が普通ではない。
 おそらく助けが必要だろう。

「すみません、そこの人」
「なんだ?」

 男は立ち止まり、こちらの顔を見た。
 特徴のない人相で、同年代の男性のようだ。
 ただ服装は、古汚いというか、異国の民族衣装のような恰好をしている。

「なんだお前、武器も持たずに一人か?」

 ぶき?

「いきなりすみません、ここって何処でしょうか?」
「どこ? どこもなにもただの街道だろ? なに言ってんだ」

 かいどう?

「あの、ここがどこなのかさっぱりで……」
「迷子か? あっち見てみろよ。すぐそこがノースイッドの町だぞ」

 のーすいっど……。
 ノースイッド。
 なぜかその単語は、すっと頭の中に落ちてきた。
 そして男が指さす方に目を向けたとき、その情景がすぐ見覚えのあるものだと気が付いた。

 自分がよく知る、ゲームのことを思い出したのだ。
 シリーズの三作目にして絶大な人気を誇る有名なRPGゲーム――ゲイリーオブワールド(通称GOS)。
ゲーム好きならまず知らない人はいない。
 ノースイッドとはゲームの序盤に訪れる大きな町のことだ。

「ノースイッドですか……」
「なんだお前、ノースイッドを知らないのか?」
「いや、知ってます」

 たまたま同じ名前だったにしては、町の外観があまりにも酷似している。
 ここは、ゲームの中の世界なのか?

「変な奴だな……。服装も変わってるし、お前どこから来たんだ?」
「気が付いたらここにいまして……」
「なんだそりゃ? モンスターから逃げて場所がわからなくなったか?」

 相手の男が不振がっているのがわかる。
 ここは、無理にでも話を合わせた方がいいかもしれない。

「はい、その通りです……」
「はぁ、もしやどこぞの村から追い出されたはぐれものか?」
「はい、その通りです」

 まあ似たようなものだろう。
 俺は社会のはぐれものだ。

「……そうか」

 すると男の目が、なにか可哀そうな者を見ているかのような憐憫な目に変わった。

「じゃあ、ノースイッドまですぐそこだ。一緒に行ってやる」
「あ、はい。ありがとうございます……」

 どうしてそんな目をするのだろう?

 

   ・・・・・

「近くで見るとでかいですね……」

 町の正門前までやってきていた。
 凱旋門のような堅牢そうな門の左右に二人の鎧を着た兵士が立っている。
 細かなオブジェクトなども含めて、ゲームで目にした光景によく似ている。
 ただそれは紛れもなくリアルで質量のある実体だ。決してゲームグラフィックなどではない。

「ちょっとそこで待ってろ。門番に口をきいてやる」

 そう言うと彼は門番の一人に近寄っていく。
 どうやら顔見知りのようで、顔を合わせた二人は親しげに会話をしだした。

「バンさん、お久しぶりです」
「お勤めご苦労さん。何とか帰ってこれたよ」
「無事で何よりです。冒険者としてこれで一人前ですね」
「おう、ありがとな」

 いまさらながら、日本語である。

「それでそこの人だけど、街道で迷子になってたところを見つけたんだ。モンスターから逃げて自分がどこにいるのかわからなくなったらしい」
「なるほど、いつものやつですね」
「たぶんそうだろう。最近は本当に多いからな」
「わかりました。あとはこちらで対応します」
「ああ、丁寧に教えてやってくれ」

『いつもの』とか『最近は多い』とか、なんのことだ?

「じゃあ俺は行くから、あとのことはそこの門番の指示に従ってくれ」

 振り向いた彼は、門番の男を指さして言った。
 そういえば門番は彼のことをバンと言っていた。まあ、名乗ってもいない彼を名前で呼ぶなんて図々しいことはしないけど……。

「お手数おかけしました」
「気にすんな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございました」

 バンは軽く俺の肩をたたくと、町の中へと入っていった。
 あまりにもあっさりとした別れだった。

「それではまず確認しますが――」

 そして話し相手は先ほどの門番になる。
 何を言われるのか心して聞くことにしよう。

「ほかの村から出てこちらにやってきた、でお間違いないですか?」

 ……なんのことかわからないけど、ここまできたら話を合わせるしかないだろう。

「……はい、間違いないです」
「村長や両親などからの紹介状はお持ちですか?」
「いえ、なにもないです」

 門番の男も、先ほど助けてくれた男と同様に憐憫を帯びた目で俺を見た。

「それではこの門をくぐってすぐ左の道へ進んでください。そこにジェラードの酒場がありますのでそちらで説明してます。門番から聞いてきたと伝えれば話を聞いてくれるはずです」
「はい、わかりました」

 その場で特に疑問を口にはしなかった。
 ジェラードの酒場――その単語も、俺には聞き覚えがあったからだ。
 自分に合った職業を得るための場所。仲間を集めて、冒険者として世界を旅するための出発点となる場所。ゲームと同じだ。
 もしここがゲームの中の世界なら、俺のこれからのこともそこで決まるのだろう。

 ほのかな興奮があった。
 わけのわからない状況なりに、『これは会社で仕事をするよりも面白いことになるんじゃ?』と淡い期待があったのは事実だ。

 でも、すぐにその考えは甘かったことに気づかされることになる。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...