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チュートリアル
第二話
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「は?」
俺は夢を見ているのかもしれないと、直感で思った。
日中は惰眠をむさぼり、そのまま夢を見続けているのだと。
そうか、だから無慈悲な上司の命令も実は夢に違いな――そう思いながらポケットに入っているスマフォを手に取ると、上司の通話履歴を見つけた。
ついでに自分のほっぺをつねってみる。
普通に痛い。
夢じゃない。
「ついさっきまでコンビニにいたのに……どこだここ?」
あたりを見回すが、どれも見覚えのない景色だ。
そんな景色のなかで、一つだけ動くものを見つける。
それはこちらに歩いてくる人影のようだった。
「このままじゃわけがわからないし……とりあえず話をしてみたほうがいいよな……?」
普段なら見知らぬ誰かに声をかけることなんてしないが、どうにも状況が普通ではない。
おそらく助けが必要だろう。
「すみません、そこの人」
「なんだ?」
男は立ち止まり、こちらの顔を見た。
特徴のない人相で、同年代の男性のようだ。
ただ服装は、古汚いというか、異国の民族衣装のような恰好をしている。
「なんだお前、武器も持たずに一人か?」
ぶき?
「いきなりすみません、ここって何処でしょうか?」
「どこ? どこもなにもただの街道だろ? なに言ってんだ」
かいどう?
「あの、ここがどこなのかさっぱりで……」
「迷子か? あっち見てみろよ。すぐそこがノースイッドの町だぞ」
のーすいっど……。
ノースイッド。
なぜかその単語は、すっと頭の中に落ちてきた。
そして男が指さす方に目を向けたとき、その情景がすぐ見覚えのあるものだと気が付いた。
自分がよく知る、ゲームのことを思い出したのだ。
シリーズの三作目にして絶大な人気を誇る有名なRPGゲーム――ゲイリーオブワールド(通称GOS)。
ゲーム好きならまず知らない人はいない。
ノースイッドとはゲームの序盤に訪れる大きな町のことだ。
「ノースイッドですか……」
「なんだお前、ノースイッドを知らないのか?」
「いや、知ってます」
たまたま同じ名前だったにしては、町の外観があまりにも酷似している。
ここは、ゲームの中の世界なのか?
「変な奴だな……。服装も変わってるし、お前どこから来たんだ?」
「気が付いたらここにいまして……」
「なんだそりゃ? モンスターから逃げて場所がわからなくなったか?」
相手の男が不振がっているのがわかる。
ここは、無理にでも話を合わせた方がいいかもしれない。
「はい、その通りです……」
「はぁ、もしやどこぞの村から追い出されたはぐれものか?」
「はい、その通りです」
まあ似たようなものだろう。
俺は社会のはぐれものだ。
「……そうか」
すると男の目が、なにか可哀そうな者を見ているかのような憐憫な目に変わった。
「じゃあ、ノースイッドまですぐそこだ。一緒に行ってやる」
「あ、はい。ありがとうございます……」
どうしてそんな目をするのだろう?
・・・・・
「近くで見るとでかいですね……」
町の正門前までやってきていた。
凱旋門のような堅牢そうな門の左右に二人の鎧を着た兵士が立っている。
細かなオブジェクトなども含めて、ゲームで目にした光景によく似ている。
ただそれは紛れもなくリアルで質量のある実体だ。決してゲームグラフィックなどではない。
「ちょっとそこで待ってろ。門番に口をきいてやる」
そう言うと彼は門番の一人に近寄っていく。
どうやら顔見知りのようで、顔を合わせた二人は親しげに会話をしだした。
「バンさん、お久しぶりです」
「お勤めご苦労さん。何とか帰ってこれたよ」
「無事で何よりです。冒険者としてこれで一人前ですね」
「おう、ありがとな」
いまさらながら、日本語である。
「それでそこの人だけど、街道で迷子になってたところを見つけたんだ。モンスターから逃げて自分がどこにいるのかわからなくなったらしい」
「なるほど、いつものやつですね」
「たぶんそうだろう。最近は本当に多いからな」
「わかりました。あとはこちらで対応します」
「ああ、丁寧に教えてやってくれ」
『いつもの』とか『最近は多い』とか、なんのことだ?
「じゃあ俺は行くから、あとのことはそこの門番の指示に従ってくれ」
振り向いた彼は、門番の男を指さして言った。
そういえば門番は彼のことをバンと言っていた。まあ、名乗ってもいない彼を名前で呼ぶなんて図々しいことはしないけど……。
「お手数おかけしました」
「気にすんな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございました」
バンは軽く俺の肩をたたくと、町の中へと入っていった。
あまりにもあっさりとした別れだった。
「それではまず確認しますが――」
そして話し相手は先ほどの門番になる。
何を言われるのか心して聞くことにしよう。
「ほかの村から出てこちらにやってきた、でお間違いないですか?」
……なんのことかわからないけど、ここまできたら話を合わせるしかないだろう。
「……はい、間違いないです」
「村長や両親などからの紹介状はお持ちですか?」
「いえ、なにもないです」
門番の男も、先ほど助けてくれた男と同様に憐憫を帯びた目で俺を見た。
「それではこの門をくぐってすぐ左の道へ進んでください。そこにジェラードの酒場がありますのでそちらで説明してます。門番から聞いてきたと伝えれば話を聞いてくれるはずです」
「はい、わかりました」
その場で特に疑問を口にはしなかった。
ジェラードの酒場――その単語も、俺には聞き覚えがあったからだ。
自分に合った職業を得るための場所。仲間を集めて、冒険者として世界を旅するための出発点となる場所。ゲームと同じだ。
もしここがゲームの中の世界なら、俺のこれからのこともそこで決まるのだろう。
ほのかな興奮があった。
わけのわからない状況なりに、『これは会社で仕事をするよりも面白いことになるんじゃ?』と淡い期待があったのは事実だ。
でも、すぐにその考えは甘かったことに気づかされることになる。
俺は夢を見ているのかもしれないと、直感で思った。
日中は惰眠をむさぼり、そのまま夢を見続けているのだと。
そうか、だから無慈悲な上司の命令も実は夢に違いな――そう思いながらポケットに入っているスマフォを手に取ると、上司の通話履歴を見つけた。
ついでに自分のほっぺをつねってみる。
普通に痛い。
夢じゃない。
「ついさっきまでコンビニにいたのに……どこだここ?」
あたりを見回すが、どれも見覚えのない景色だ。
そんな景色のなかで、一つだけ動くものを見つける。
それはこちらに歩いてくる人影のようだった。
「このままじゃわけがわからないし……とりあえず話をしてみたほうがいいよな……?」
普段なら見知らぬ誰かに声をかけることなんてしないが、どうにも状況が普通ではない。
おそらく助けが必要だろう。
「すみません、そこの人」
「なんだ?」
男は立ち止まり、こちらの顔を見た。
特徴のない人相で、同年代の男性のようだ。
ただ服装は、古汚いというか、異国の民族衣装のような恰好をしている。
「なんだお前、武器も持たずに一人か?」
ぶき?
「いきなりすみません、ここって何処でしょうか?」
「どこ? どこもなにもただの街道だろ? なに言ってんだ」
かいどう?
「あの、ここがどこなのかさっぱりで……」
「迷子か? あっち見てみろよ。すぐそこがノースイッドの町だぞ」
のーすいっど……。
ノースイッド。
なぜかその単語は、すっと頭の中に落ちてきた。
そして男が指さす方に目を向けたとき、その情景がすぐ見覚えのあるものだと気が付いた。
自分がよく知る、ゲームのことを思い出したのだ。
シリーズの三作目にして絶大な人気を誇る有名なRPGゲーム――ゲイリーオブワールド(通称GOS)。
ゲーム好きならまず知らない人はいない。
ノースイッドとはゲームの序盤に訪れる大きな町のことだ。
「ノースイッドですか……」
「なんだお前、ノースイッドを知らないのか?」
「いや、知ってます」
たまたま同じ名前だったにしては、町の外観があまりにも酷似している。
ここは、ゲームの中の世界なのか?
「変な奴だな……。服装も変わってるし、お前どこから来たんだ?」
「気が付いたらここにいまして……」
「なんだそりゃ? モンスターから逃げて場所がわからなくなったか?」
相手の男が不振がっているのがわかる。
ここは、無理にでも話を合わせた方がいいかもしれない。
「はい、その通りです……」
「はぁ、もしやどこぞの村から追い出されたはぐれものか?」
「はい、その通りです」
まあ似たようなものだろう。
俺は社会のはぐれものだ。
「……そうか」
すると男の目が、なにか可哀そうな者を見ているかのような憐憫な目に変わった。
「じゃあ、ノースイッドまですぐそこだ。一緒に行ってやる」
「あ、はい。ありがとうございます……」
どうしてそんな目をするのだろう?
・・・・・
「近くで見るとでかいですね……」
町の正門前までやってきていた。
凱旋門のような堅牢そうな門の左右に二人の鎧を着た兵士が立っている。
細かなオブジェクトなども含めて、ゲームで目にした光景によく似ている。
ただそれは紛れもなくリアルで質量のある実体だ。決してゲームグラフィックなどではない。
「ちょっとそこで待ってろ。門番に口をきいてやる」
そう言うと彼は門番の一人に近寄っていく。
どうやら顔見知りのようで、顔を合わせた二人は親しげに会話をしだした。
「バンさん、お久しぶりです」
「お勤めご苦労さん。何とか帰ってこれたよ」
「無事で何よりです。冒険者としてこれで一人前ですね」
「おう、ありがとな」
いまさらながら、日本語である。
「それでそこの人だけど、街道で迷子になってたところを見つけたんだ。モンスターから逃げて自分がどこにいるのかわからなくなったらしい」
「なるほど、いつものやつですね」
「たぶんそうだろう。最近は本当に多いからな」
「わかりました。あとはこちらで対応します」
「ああ、丁寧に教えてやってくれ」
『いつもの』とか『最近は多い』とか、なんのことだ?
「じゃあ俺は行くから、あとのことはそこの門番の指示に従ってくれ」
振り向いた彼は、門番の男を指さして言った。
そういえば門番は彼のことをバンと言っていた。まあ、名乗ってもいない彼を名前で呼ぶなんて図々しいことはしないけど……。
「お手数おかけしました」
「気にすんな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございました」
バンは軽く俺の肩をたたくと、町の中へと入っていった。
あまりにもあっさりとした別れだった。
「それではまず確認しますが――」
そして話し相手は先ほどの門番になる。
何を言われるのか心して聞くことにしよう。
「ほかの村から出てこちらにやってきた、でお間違いないですか?」
……なんのことかわからないけど、ここまできたら話を合わせるしかないだろう。
「……はい、間違いないです」
「村長や両親などからの紹介状はお持ちですか?」
「いえ、なにもないです」
門番の男も、先ほど助けてくれた男と同様に憐憫を帯びた目で俺を見た。
「それではこの門をくぐってすぐ左の道へ進んでください。そこにジェラードの酒場がありますのでそちらで説明してます。門番から聞いてきたと伝えれば話を聞いてくれるはずです」
「はい、わかりました」
その場で特に疑問を口にはしなかった。
ジェラードの酒場――その単語も、俺には聞き覚えがあったからだ。
自分に合った職業を得るための場所。仲間を集めて、冒険者として世界を旅するための出発点となる場所。ゲームと同じだ。
もしここがゲームの中の世界なら、俺のこれからのこともそこで決まるのだろう。
ほのかな興奮があった。
わけのわからない状況なりに、『これは会社で仕事をするよりも面白いことになるんじゃ?』と淡い期待があったのは事実だ。
でも、すぐにその考えは甘かったことに気づかされることになる。
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