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チュートリアル
第三話
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ゲイリーオブワールド(通称GOS)は、剣と魔法でモンスターと戦う正統派のロールプレイングゲームであり、その手のジャンルの礎とも言える。
子供のころ夢中になって、その後も思い出したように再プレイをするほどのめりこんだものだ。
内容は物語の主人公である勇者が王命によってノースイッドを離れ、打倒魔王のために仲間を集めて旅をするというオーソドックスなものだが、特徴的なのは主人公以外の仲間というのがジェラードの酒場で主人公が選んだ膨大な選択肢によって決定するというものだ。
武術の心得は必要か? 魔法は使えた方がいいか? とかそういう感じだ。
再ゲームのたびに心行くままに選択肢を選んで『今回はどんなやつが旅の仲間になってくれるかな?』とワクワクしたものだった。
「ジェラードの酒場だ……」
実物を見たとき、そこがジェラードの酒場だとすぐに分かった。
椅子やテーブル、カウンターの位置までおんなじだ。中央にある酒樽の数なんかも同じ。
そして――
「いらっしゃいませー」
カウンターに居座る一階の受付嬢の女性。
ゲームのようなデフォルトサイズではなく、本当の人間の女性のように生き生きとし、こちらに魅惑的な笑顔を向けてくる。
しかしその面影はたしかに、ゲーム序盤で目にした女性キャラクターを模したものだった。
「す、すみません」
よく知るキャラクターを前に、さすがに声が上ずるぐらいには緊張が高まったが、
「はい、どうされました~」
「も、門番の人からここで説明を受けろと言われまして……」
「ああ、それなら二階におあがりください。そちらに説明の方がいらっしゃいます」
女性の対応が、心なしか事務的なものに変わった気がする。
「ど、どうも」
なんだか居心地が悪くて、俺はさっさと二階へ上がった。
二階にも受付嬢がいた。
先ほどより少しきつい目つきをしているが、黒髪の似合う知的できれいな女の人だった。
「あの、すみません」
「どうしたおじさん、ここにおっさんを相手にするような娼婦はいないよ」
知的? 否、初対面とは思えない無遠慮な態度である。
「門番の人から説明を受けろと言われてきたんですが」
「なんだあなた、冒険者になりたいの?」
冒険者――俺は冒険者になりたいのか?
どうだろうか? まだ『なんとなくノリできた』みたいな感覚なのだが。
しかしここはGOSのジェラードの酒場、当然の流れではあるのだろう。
「いえ、別に冒険者になりに来たわけではないのですが……」
「まあ別に無理になる必要はないけど、説明はしてあげる。規則だしね。門番からここに来るように説明されたってことは、あなたはノースイッドに知り合いやツテがない、であってる?」
「あってます」
「ノースイッドではツテがない人が職を見つけるのは難しいの。なんのツテもないなら冒険者登録しないと仕事もない。ここジェラードの酒場で冒険者登録を済ませれば仕事を紹介してあげるってシステムになってるの」
仕事斡旋システム……つまりハ〇―ワークみたいなものだろうか。
「冒険者って、どんなことをするんですか?」
「んー、モンスター退治以外にも町の警備や清掃なんて仕事もあるわね」
とりあえず肉体労働をしろってことだろうか。
デスクワークで座ったまま延々と仕事をしてきた俺には、なかなかきつそうなことに思える。
「それって必ずやらないといけないのですか?」
「別にしなくてもいいよ? なんなら自力で仕事を見つけてもいい。まあほぼ無理だろうけど。宿代が尽きてから頼りに来てもいいし」
宿代……あまり考えたくないが……俺は今金を持っているのだろうか?
手にはさっきコンビニで買ったつまみや菓子しかない。財布はあるが――
「ちなみに、日本のお金ってここで使えますか?」
「ニホン? それはなに?」
やっぱりダメみたいですね。
「いえ、変なこと聞いてすみません。登録の方お願いします」
「わかった、書類をとってくるからそこに座って待ってて」
黒髪女性は顎でテーブル席を指してカウンターの奧に消えていった。
俺は数時間ぶりに椅子に座り、ほうと息を漏らした。
疲れていたのもあるけど、ほぼ溜息だった。
「冒険者……か……」
冒険者――ゲーム内でのそれはいわば傭兵に近い存在だったと思う。
お金を払って雇い、勇者と一緒に旅をする仲間――ということになるが、どうもここの冒険者というのは一種の役職でしかなさそうである。
勇者と一緒に旅をするのはより優れた冒険者であり、俺みたいに急にここに訪れた一般人ではないのだろう。
俺は特別なんかではない?
じゃあ勇者はどこに? 少なくとも俺ではなさそうである。
ストーリーではまずこの国の王と勇者が玉座にて会話をするところから始まっていたはずだ。
魔王を討ち、世界を救ってくれという王の命令を受けて、主人公が玉座を立ち去るところからはじまる。
つまるところ俺は、町中でさまよっている一般モブ程度の存在なのではなかろうか?
「いや、まだそう判断するのは早い……!」
少なくとも俺には、ゲームの知識がある。
特別、GOSというゲームをこれまでやりこんできたはずだ。
その知識を駆使すれば、この世界でもうまく立ち回れるにちがいないのだ。
「お待たせ。それじゃあいくつかアンケートをとるから、正直に答えて」
早々に戻ってきた黒髪女性の手には、白紙のカードが握られていた。
そこから俺は、ゲームの時とは比べ物にならないほどの質問を彼女から投げかけられることになる。
子供のころ夢中になって、その後も思い出したように再プレイをするほどのめりこんだものだ。
内容は物語の主人公である勇者が王命によってノースイッドを離れ、打倒魔王のために仲間を集めて旅をするというオーソドックスなものだが、特徴的なのは主人公以外の仲間というのがジェラードの酒場で主人公が選んだ膨大な選択肢によって決定するというものだ。
武術の心得は必要か? 魔法は使えた方がいいか? とかそういう感じだ。
再ゲームのたびに心行くままに選択肢を選んで『今回はどんなやつが旅の仲間になってくれるかな?』とワクワクしたものだった。
「ジェラードの酒場だ……」
実物を見たとき、そこがジェラードの酒場だとすぐに分かった。
椅子やテーブル、カウンターの位置までおんなじだ。中央にある酒樽の数なんかも同じ。
そして――
「いらっしゃいませー」
カウンターに居座る一階の受付嬢の女性。
ゲームのようなデフォルトサイズではなく、本当の人間の女性のように生き生きとし、こちらに魅惑的な笑顔を向けてくる。
しかしその面影はたしかに、ゲーム序盤で目にした女性キャラクターを模したものだった。
「す、すみません」
よく知るキャラクターを前に、さすがに声が上ずるぐらいには緊張が高まったが、
「はい、どうされました~」
「も、門番の人からここで説明を受けろと言われまして……」
「ああ、それなら二階におあがりください。そちらに説明の方がいらっしゃいます」
女性の対応が、心なしか事務的なものに変わった気がする。
「ど、どうも」
なんだか居心地が悪くて、俺はさっさと二階へ上がった。
二階にも受付嬢がいた。
先ほどより少しきつい目つきをしているが、黒髪の似合う知的できれいな女の人だった。
「あの、すみません」
「どうしたおじさん、ここにおっさんを相手にするような娼婦はいないよ」
知的? 否、初対面とは思えない無遠慮な態度である。
「門番の人から説明を受けろと言われてきたんですが」
「なんだあなた、冒険者になりたいの?」
冒険者――俺は冒険者になりたいのか?
どうだろうか? まだ『なんとなくノリできた』みたいな感覚なのだが。
しかしここはGOSのジェラードの酒場、当然の流れではあるのだろう。
「いえ、別に冒険者になりに来たわけではないのですが……」
「まあ別に無理になる必要はないけど、説明はしてあげる。規則だしね。門番からここに来るように説明されたってことは、あなたはノースイッドに知り合いやツテがない、であってる?」
「あってます」
「ノースイッドではツテがない人が職を見つけるのは難しいの。なんのツテもないなら冒険者登録しないと仕事もない。ここジェラードの酒場で冒険者登録を済ませれば仕事を紹介してあげるってシステムになってるの」
仕事斡旋システム……つまりハ〇―ワークみたいなものだろうか。
「冒険者って、どんなことをするんですか?」
「んー、モンスター退治以外にも町の警備や清掃なんて仕事もあるわね」
とりあえず肉体労働をしろってことだろうか。
デスクワークで座ったまま延々と仕事をしてきた俺には、なかなかきつそうなことに思える。
「それって必ずやらないといけないのですか?」
「別にしなくてもいいよ? なんなら自力で仕事を見つけてもいい。まあほぼ無理だろうけど。宿代が尽きてから頼りに来てもいいし」
宿代……あまり考えたくないが……俺は今金を持っているのだろうか?
手にはさっきコンビニで買ったつまみや菓子しかない。財布はあるが――
「ちなみに、日本のお金ってここで使えますか?」
「ニホン? それはなに?」
やっぱりダメみたいですね。
「いえ、変なこと聞いてすみません。登録の方お願いします」
「わかった、書類をとってくるからそこに座って待ってて」
黒髪女性は顎でテーブル席を指してカウンターの奧に消えていった。
俺は数時間ぶりに椅子に座り、ほうと息を漏らした。
疲れていたのもあるけど、ほぼ溜息だった。
「冒険者……か……」
冒険者――ゲーム内でのそれはいわば傭兵に近い存在だったと思う。
お金を払って雇い、勇者と一緒に旅をする仲間――ということになるが、どうもここの冒険者というのは一種の役職でしかなさそうである。
勇者と一緒に旅をするのはより優れた冒険者であり、俺みたいに急にここに訪れた一般人ではないのだろう。
俺は特別なんかではない?
じゃあ勇者はどこに? 少なくとも俺ではなさそうである。
ストーリーではまずこの国の王と勇者が玉座にて会話をするところから始まっていたはずだ。
魔王を討ち、世界を救ってくれという王の命令を受けて、主人公が玉座を立ち去るところからはじまる。
つまるところ俺は、町中でさまよっている一般モブ程度の存在なのではなかろうか?
「いや、まだそう判断するのは早い……!」
少なくとも俺には、ゲームの知識がある。
特別、GOSというゲームをこれまでやりこんできたはずだ。
その知識を駆使すれば、この世界でもうまく立ち回れるにちがいないのだ。
「お待たせ。それじゃあいくつかアンケートをとるから、正直に答えて」
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