俺の知ってるゲームとは違うんですがそれは

ヒトヨヒトナリ

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チュートリアル

第六話

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 ・・・・・

「すみません、ドブ掃除に来ました」

 家から出てきたおばあさんは、訪ねてきた俺を一目見ると豪快に笑った。

「ようやく来たね! 今日はもう来ないもんかと思ったよ!」

 思い切り背中を叩かれる。

「今日は頼むよ兄ちゃん!」
「……!」

 兄ちゃん。そうだ、俺はおじさんなどではない。まだ29歳だ。

「道具は用意してあるからさっそくはじめてくれ」

 挨拶もそこそこに、すぐに指示された溝の清掃を開始した。
 無心に、汚れた泥を掻き出して、残った汚れを水で洗い流していく。
 吐き気を催すほどの臭いと汚れだったが、我慢して作業を続けた。

 そして数時間後――

「ふう、なんとか終わった」

 頼まれた清掃についてはなんとか終わらせることができた。
 頭を使わない単純作業は元々嫌いじゃなかったし、そういう意味では自分に合っていたのだろう。
 ただひたすらに臭いだけで……。

「ご苦労さん。お湯を沸かしてあるから手足の汚れはここで落としておいで」

 おばあさんは桶一杯のお湯と、それから飲み水を用意してくれた。

「たすかります」
「はい、これが仕事達成の証明書だよ。手際がよくて助かったよ」
「ありがとうございます」

 こうして冒険者になってはじめてのクエストが完了した。

 ・・・・・

「お疲れ様でした。こちらが報酬の10ゴールドになります」

 受付嬢から渡された布袋に入っていたのは10と書かれた硬貨が一枚だけ。
 サイズ的には500円玉ぐらいだが、果たしてこれはどれくらいの価値なのだろう?

「そういえば宿が決まってないんですけど、これで泊まれるところってあるんですか?」
「うちで紹介している宿ですと相部屋で3ゴールドと、個室で8ゴールドのやつがありますね。盗難とかが怖いなら個室をおすすめします。場所は――」

 宿代の設定はゲームと同じだった。

 ・・・・・

「と、泊まりたいんですが、部屋はありますか?」

 夕暮れ、酒場で聞いた宿にやってきていた。
 エントランスにいたのは壮年の男性で、頬に傷があり、鋭い目つきをしていた。百戦錬磨の老兵のようである。
 怖すぎる……。

「……素泊まり8ゴールド。朝飯付きなら10ゴールドだ」
「きょ、今日は素泊まりでお願いします」

 さっきもらったばかりの硬貨を手渡す。
 自分の手が震えていたのは言うまでもない。

「はい、2ゴールド釣りだな。204号室だ、汚さないでくれよ。ここにある水差しは無料だから自由に持って行っていい。風呂は共同のが一階にある」
「あ、ありがとうございます」

 背後を警戒しながら、与えられた部屋へ向かった。

 部屋にたどり着き、荷物を置いて、ベッドに腰を落ち着かせる。
 ようやく、肩の荷が落りた気分だった。
 安心したせいか、おなかがすいてきた。

「コンビニで買ったお菓子とつまみがあるか……それをたべようかな」

 ビールは――すっかり気も抜けて、温くなっていた。
 食事を終えたところで、風呂も利用した。運よく誰かと出くわすこともなかった。

 夜も更け、早めにベッドに入る。
 窓の外は明かりが少なく、ここが俺の住んでいた町ではないのだと改めて思い知らされた。

 しかしわけがわからない状態から、よくここまでこれたものだ。
 冒険者登録を済ませ、仕事をこなして屋根がある部屋に泊まることもできている。
 
 
 この調子で明日も――

「ってんなわけあるか!」

 ベッドから飛び起きる。
 そんなのんきなことを言ってられる状況なわけがない。
 生きるか死ぬか、そんな瀬戸際に自分が立たされていることをいい加減自覚しなければならないのだ。

「現状の確認と、これからのことを考えないと……」

 明日も同じ調子で過ごせるとは限らない。
 気を緩めるにはまだまだ問題が山積みだ……。

「まず整理するとここは……GOSの世界であってるよな……?」

 確信があるわけではないが、町の作りとか、周辺のモンスターの情報とかを鑑みるに、まずそれは間違いない。

「でも完全に同じってわけじゃないな……」

 町の大きさとか建物の数とかは明らかに多い。規模が違う。
 ゲームの世界だからってコマンドを選択すれば敵が倒れてゴールドが手に入る、なんて甘い仕様ではない。

 でも俺は勇者なんかじゃないからラスボスを倒す必要はないだろう。

 俺は、どうするべきだろう?

「帰る方法を探す? いやでも――」

 帰る? あの世界に?

「冷静に考えると元の世界に帰ったところでまだ残業の日々が待ってるだけだ。それに夜勤をサボったわけだし……上司にこっぴどく叱られるだろうし……最悪クビになるかも……」

 だったら、無理して帰らなくてもよくね?

「そうだよ! 帰る必要なんてないじゃん! 俺にはゲームの知識があるし異世界チートし放題なんじゃないか!?」

 天啓を得た!

「まてまて、冷静になれ……。そもそも異世界チートなんてどうやればいいんだ?」

 思えば、今までの人生、自分の思惑通りに事が進むことは全くなかった。
 投資にエントリーした瞬間、その銘柄が暴落して大損をこいたこともある。
 とにかく俺は間の悪い人間なのだ。
 ここはもっと慎重に、今後の立ち振る舞いについて考えるべきだろう。

「思いつく限り上げてみるか……。現代の食べ物の知識で、この世界ではまだ未知の料理を作って店を開くっていうのはどうだ? 安い原価の料理ならぼったくれるだろ?」

 いや、最初は儲けることができても、簡単な料理ならすぐにパクられるだろう。
 料理人でもない俺が独り勝ちできるとは思えない。

「食べ物以外だとどうだ? 医療関連とか、工作関連とか、インフラ技術を発展させて現代知識無双なんてことができる――」

 わけがない。俺にはなんの専門知識もないのであった。
 無理だ。どんな技術を扱うにしても、知識が必要だ。
 のらりくらりで人生の大半を無駄に過ごしてきた俺には、そういった知識は皆無だった。

「そうだ、このスマフォを利用してどうにかできないか? 音楽とか動画も見せられるし、こんな精密機械はどこにもないだろ!?」

 スマフォの電源を入れようとしたらバッテリー切れのマークが一瞬でて真っ暗になった。

「ってどこで充電すればいいんだこれ!?」

 だめだ、何を考えてもチートできる材料がない。
 なにか変わったことをするにしても、なんの後ろ盾もない今の状態だとあぶない奴らに目を付けられるかもしれない。
 
「……とにかく、今は金をためるしかなさそうだな……」

 当面、この世界のお金を稼ぎながらここの常識ってやつを知っていくしかないのかな。

「……ふぁ……。明日も早いし……寝よ」

 疲れてたせいか、急激に眠くなってきた。

 寝て起きたら俺の住んでたアパートだったなら幸い……。
 もしまたこの部屋にいたら、その時は覚悟を決めるしかなさそうだ。
 
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