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47 高橋由里,29
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四十七
「あっ、うん。」
リリィの声で物思いに沈みそうだった由里の意識がそがれる。軽く息を吐き、心を切り替えて、由里は次のページをめくった。
「えっと……。サプライズは日常のスパイス。平穏な日常にちょっとしたサプライズを用意しましょう。マンネリは浮気の元になってしまいます。いつでも相手に新鮮な気持ちを持ってもらうことを心がけましょう。」
《サプライズ?》
由里の音読に、質問を返し本の内容に食いつきを見せるリリィ。
由里はこの世界に来てから初めて和やかにリリィと会話が弾んでいるような気がしていた。
「えっとね、サプライズっていうのは、相手をびっくりさせたりすることかな…?」
《あら?でしたら、私は得意ですよ、サプライズ。》
「そうなの?」
《ええ、皆を驚かせるのがリリィ・マクラクランというものです。》
自信満々なリリィの宣言に、由里は半信半疑だった。
(……きっと、リリィのやることって、皆にとって呆気にとられるっていうか、絶句とか度肝を抜かれるっていう感じのことじゃないかな……。)
少なくとも喜びを伴うサプライズではないだろう。
由里は自分の知るリリィという悪役令嬢の人となりからそう結論付けた。
《何だか面白そうな本ですわね。》
リリィが本の内容を気に入ったようで、弾んだ声を上げる。
ただ由里は読めば読むほど本の内容は由里にとっては実践が難しいと感じざるを得ないので、リリィの意見には同意できなかった。
「そうなの?」
《ええ、他にも聞かせていただけるかしら?》
「分かった。」
それから、由里はリリィに本の読み聞かせを続けた。
適当にページをめくって、リリィに説明できそうな内容なら読み上げる。
就寝時間まではまだ余裕がある。
リリィに読み聞かせと説明を続けながら、由里は頭の片隅で考えていた。
この世界に少しでも味方が欲しいと。
先日、猫の一件の後、着替えて戻った由里に、メイド長が温かい飲み物を差し出してくれた。
それを飲みながら、由里は身体だけでなく心も暖かくなるのを感じていた。
お礼を言って頭を下げる由里にメイド長は、ミハイル団長からの指示だと教えてくれた。
あの団長さんは本当に面倒見がよく、気が利く人だ。
由里の中で団長さんの株はうなぎ上りだった。
愛され女子は無理でも、せめてあの律儀で真面目で誠実で公平な団長さんに何とか味方になってもらうことはできないものか……。
そのために何か有益な情報はないのかと、由里はリリィに読み聞かせる傍らでもう一度本の内容を復習していた。一度は読んで内容に挫折した本だが、何か見落としがある可能性もある。
(……でも、リリィだと難しいかな……?)
皆が一様にリリィを見つめる険しい視線を思い出し、由里の心に弱気が広がっていく。
だが、嘆いてばかりもいられない。何せ、リリィだけでなく、由里自身の未来もかかっていることなのだ。例え、リリィ・マクラクランの外見をしていたとしても、出来ればあの団長さんだけには敵に回って欲しくない。
(……味方とまでは行かなくても、せめてこれ以上嫌われない方法とか……。少しでも、印象が良くなる方法とか?)
リリィというアドバンテージマイナスの要素を鑑みて、由里の希望のハードルはどんどん下がっていく。しかし、行きついた先がほんの些細な願いになったとしても、由里は投げ出すわけにはいかなかった。なので、由里は諦めずに本をめくり続けた。
この本で身に着けた知識が、いつか少しでも自分の未来の役に立つと信じて。
奇しくも、リリィ・マクラクランの中に高橋由里が入ったことでリリィが大人しくしていることが、既にとんでもないサプライズになって周囲を疑心暗鬼に陥らせているのだが、本人たちはもちろん気づいていない。話し相手もお互い以外にいない今の状況では、気づくことすら無理であろう。
身体は一つ、魂は二つのリリィ・マクラクラン=高橋由里は、ピンクの本の内容をあれこれ話題にしながら、宛がわれた自室でしばし平穏な時を過ごしたのであった。
「あっ、うん。」
リリィの声で物思いに沈みそうだった由里の意識がそがれる。軽く息を吐き、心を切り替えて、由里は次のページをめくった。
「えっと……。サプライズは日常のスパイス。平穏な日常にちょっとしたサプライズを用意しましょう。マンネリは浮気の元になってしまいます。いつでも相手に新鮮な気持ちを持ってもらうことを心がけましょう。」
《サプライズ?》
由里の音読に、質問を返し本の内容に食いつきを見せるリリィ。
由里はこの世界に来てから初めて和やかにリリィと会話が弾んでいるような気がしていた。
「えっとね、サプライズっていうのは、相手をびっくりさせたりすることかな…?」
《あら?でしたら、私は得意ですよ、サプライズ。》
「そうなの?」
《ええ、皆を驚かせるのがリリィ・マクラクランというものです。》
自信満々なリリィの宣言に、由里は半信半疑だった。
(……きっと、リリィのやることって、皆にとって呆気にとられるっていうか、絶句とか度肝を抜かれるっていう感じのことじゃないかな……。)
少なくとも喜びを伴うサプライズではないだろう。
由里は自分の知るリリィという悪役令嬢の人となりからそう結論付けた。
《何だか面白そうな本ですわね。》
リリィが本の内容を気に入ったようで、弾んだ声を上げる。
ただ由里は読めば読むほど本の内容は由里にとっては実践が難しいと感じざるを得ないので、リリィの意見には同意できなかった。
「そうなの?」
《ええ、他にも聞かせていただけるかしら?》
「分かった。」
それから、由里はリリィに本の読み聞かせを続けた。
適当にページをめくって、リリィに説明できそうな内容なら読み上げる。
就寝時間まではまだ余裕がある。
リリィに読み聞かせと説明を続けながら、由里は頭の片隅で考えていた。
この世界に少しでも味方が欲しいと。
先日、猫の一件の後、着替えて戻った由里に、メイド長が温かい飲み物を差し出してくれた。
それを飲みながら、由里は身体だけでなく心も暖かくなるのを感じていた。
お礼を言って頭を下げる由里にメイド長は、ミハイル団長からの指示だと教えてくれた。
あの団長さんは本当に面倒見がよく、気が利く人だ。
由里の中で団長さんの株はうなぎ上りだった。
愛され女子は無理でも、せめてあの律儀で真面目で誠実で公平な団長さんに何とか味方になってもらうことはできないものか……。
そのために何か有益な情報はないのかと、由里はリリィに読み聞かせる傍らでもう一度本の内容を復習していた。一度は読んで内容に挫折した本だが、何か見落としがある可能性もある。
(……でも、リリィだと難しいかな……?)
皆が一様にリリィを見つめる険しい視線を思い出し、由里の心に弱気が広がっていく。
だが、嘆いてばかりもいられない。何せ、リリィだけでなく、由里自身の未来もかかっていることなのだ。例え、リリィ・マクラクランの外見をしていたとしても、出来ればあの団長さんだけには敵に回って欲しくない。
(……味方とまでは行かなくても、せめてこれ以上嫌われない方法とか……。少しでも、印象が良くなる方法とか?)
リリィというアドバンテージマイナスの要素を鑑みて、由里の希望のハードルはどんどん下がっていく。しかし、行きついた先がほんの些細な願いになったとしても、由里は投げ出すわけにはいかなかった。なので、由里は諦めずに本をめくり続けた。
この本で身に着けた知識が、いつか少しでも自分の未来の役に立つと信じて。
奇しくも、リリィ・マクラクランの中に高橋由里が入ったことでリリィが大人しくしていることが、既にとんでもないサプライズになって周囲を疑心暗鬼に陥らせているのだが、本人たちはもちろん気づいていない。話し相手もお互い以外にいない今の状況では、気づくことすら無理であろう。
身体は一つ、魂は二つのリリィ・マクラクラン=高橋由里は、ピンクの本の内容をあれこれ話題にしながら、宛がわれた自室でしばし平穏な時を過ごしたのであった。
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