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46 高橋由里,28
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四十六
由里がこちらの世界に来て感じたことの中に、この世界では本というのは貴重なものだということがある。この世界での本は絶対的な流通量は少なく、貴族階級や富豪、あとは学問の学び舎や修道院などで独占されている物も多く、一般庶民では手が届きにくい高級品のような物であるらしい。印刷技術などの問題だと思うが、由里にもその辺の詳しいところは分からない。
(……世界史って、語句を覚えるだけで精一杯だったから。)
世界史の勉強で活版印刷という言葉は覚えたが、仕組みは全く知らない。その前は写本が一般的だったくらいの知識しか由里にはない。
ただ、この世界では本というのはその頃と同じ扱いのようである。
そのため、買うのが難しいというのは作るのも大変だということになる。そんな大変な思いをして、きっと予算や手間などもたくさんかかるのだから、本を作る過程で内容もかなり厳選されるだろう。由里の世界にあるような、ちょっとした暇な隙間時間に片手間で読み捨てられる様な本など皆無であろう。
由里が元の世界から一緒に持って来た恋愛ハウツー本は、元の世界では中古屋に売っても十円の値が付くか付かないかの本だが、それは由里の世界が印刷・流通・出版技術の整った世界だったから存在したもので、こちらの世界にはそんな出所も分からない情報を集めて暇を潰すために書かれた本など手間もお金も惜しくてまず作られないだろう。
なので、由里はどうリリィに説明したものかと迷いながら、自信のない口調でリリィの説明に答えた。
「……えっと、たぶん女性向けの本なんだけど……。タイトルは『愛され女子になる方法』で……。中身は……、何か、男の人に好かれるには、どんなテクニックがあるか?みたいなことが、いっぱい書いてあるの。」
《殿方に愛されるテクニックですの?》
「そう……、」
自信なさげな由里の説明だが、リリィは少し興味を持ったようだった。
《例えば、どんなことです?》
尋ねられて、由里は目次から先程選んだ話題の書かれていたページを探す。
(……えーっと、確か、真ん中辺だったから……。)
すぐに目的のページは見つかった。
由里はリリィに聞こえるように、本を声に出して読み始める。
「好きな人を追いかけるより、追いかけられる女子になりましょう。……男性というのは、狩りの本能を持っています。そのため、本来、追いかけられるより相手を追いかけたいものなのです。だからこそ、追いかけてくる相手に興味を持てないこともしばしばあります。」
とりあえず、リリィに該当しそうな部分を読んで聞かせる。
リリィは由里の朗読を大人しく聞いた後、当然のように呟いた。
《狩りは私も好きですわ。》
(……そういうことじゃないんだけど……。)
どうやらあまりリリィに伝わってないらしいことを由里は理解した。
それに、読んでいる由里本人も本の言い分にはあまり納得できなかった。
何故なら、そもそも追いかけられているということは、相手がある程度自分のことを気に入ってくれているということである。全く興味のない相手を追いかけるものなどいない。この本の言い分が間違いかどうかは由里には判別できないが、少なくとも相手が追いかけたくなるような存在になるという、由里にとっては高すぎるハードルを越えなくてはならない状況を作り出さねばスタート地点にも立てていないということだ。
(……どうやったら、好きな人に追いかけてもらえるのかが分からないのに…。)
好きになった人が自分のことも好きになってくれるというのは、奇跡のような確率の出来事である。由里の好きだった人は、多分、一度だって由里に幼なじみであるという以上の感情を持ったことはない。いや、むしろ恋人の姉だという認識かもしれない。
元の世界のことを思い出し、由里の心が重く沈み始めた。
だが、心が完全に沈む前に能天気なリリィの声が頭に響く。
《他には何かありますの?》
由里がこちらの世界に来て感じたことの中に、この世界では本というのは貴重なものだということがある。この世界での本は絶対的な流通量は少なく、貴族階級や富豪、あとは学問の学び舎や修道院などで独占されている物も多く、一般庶民では手が届きにくい高級品のような物であるらしい。印刷技術などの問題だと思うが、由里にもその辺の詳しいところは分からない。
(……世界史って、語句を覚えるだけで精一杯だったから。)
世界史の勉強で活版印刷という言葉は覚えたが、仕組みは全く知らない。その前は写本が一般的だったくらいの知識しか由里にはない。
ただ、この世界では本というのはその頃と同じ扱いのようである。
そのため、買うのが難しいというのは作るのも大変だということになる。そんな大変な思いをして、きっと予算や手間などもたくさんかかるのだから、本を作る過程で内容もかなり厳選されるだろう。由里の世界にあるような、ちょっとした暇な隙間時間に片手間で読み捨てられる様な本など皆無であろう。
由里が元の世界から一緒に持って来た恋愛ハウツー本は、元の世界では中古屋に売っても十円の値が付くか付かないかの本だが、それは由里の世界が印刷・流通・出版技術の整った世界だったから存在したもので、こちらの世界にはそんな出所も分からない情報を集めて暇を潰すために書かれた本など手間もお金も惜しくてまず作られないだろう。
なので、由里はどうリリィに説明したものかと迷いながら、自信のない口調でリリィの説明に答えた。
「……えっと、たぶん女性向けの本なんだけど……。タイトルは『愛され女子になる方法』で……。中身は……、何か、男の人に好かれるには、どんなテクニックがあるか?みたいなことが、いっぱい書いてあるの。」
《殿方に愛されるテクニックですの?》
「そう……、」
自信なさげな由里の説明だが、リリィは少し興味を持ったようだった。
《例えば、どんなことです?》
尋ねられて、由里は目次から先程選んだ話題の書かれていたページを探す。
(……えーっと、確か、真ん中辺だったから……。)
すぐに目的のページは見つかった。
由里はリリィに聞こえるように、本を声に出して読み始める。
「好きな人を追いかけるより、追いかけられる女子になりましょう。……男性というのは、狩りの本能を持っています。そのため、本来、追いかけられるより相手を追いかけたいものなのです。だからこそ、追いかけてくる相手に興味を持てないこともしばしばあります。」
とりあえず、リリィに該当しそうな部分を読んで聞かせる。
リリィは由里の朗読を大人しく聞いた後、当然のように呟いた。
《狩りは私も好きですわ。》
(……そういうことじゃないんだけど……。)
どうやらあまりリリィに伝わってないらしいことを由里は理解した。
それに、読んでいる由里本人も本の言い分にはあまり納得できなかった。
何故なら、そもそも追いかけられているということは、相手がある程度自分のことを気に入ってくれているということである。全く興味のない相手を追いかけるものなどいない。この本の言い分が間違いかどうかは由里には判別できないが、少なくとも相手が追いかけたくなるような存在になるという、由里にとっては高すぎるハードルを越えなくてはならない状況を作り出さねばスタート地点にも立てていないということだ。
(……どうやったら、好きな人に追いかけてもらえるのかが分からないのに…。)
好きになった人が自分のことも好きになってくれるというのは、奇跡のような確率の出来事である。由里の好きだった人は、多分、一度だって由里に幼なじみであるという以上の感情を持ったことはない。いや、むしろ恋人の姉だという認識かもしれない。
元の世界のことを思い出し、由里の心が重く沈み始めた。
だが、心が完全に沈む前に能天気なリリィの声が頭に響く。
《他には何かありますの?》
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