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45 高橋由里,27
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四十五
《は?》
あまりに唐突な話題の変更に、リリィが戸惑いの声を出す。
そして、リリィにしては珍しく他人を労わるような声音で続けた。
《……メイド仕事などするからおかしくなったんです、きっと。無理が祟ったのですわ……。》
うんうんと頷きながら、そっと肩に手を置いてきそうな雰囲気を醸し出すリリィ。
由里はリリィの言葉をため息で否定した。
「違うよ。……別にメイドは無理のない範囲で頑張れてるよ。」
(無理してることがあるとしたら、一番は『リリィでいること』だよ。)
他にも無理矢理異世界に召喚されたこととか、無理があるとしたら数えられないくらいのことがあるが、全ての原因はリリィである。
だが、由里は後に続く言葉はちゃんと心の中にしまっておいた。
代わりに変更した話題を続けていく。
「リリィは、あの王子様のことどう思ってるのかなぁって。そういえば、そんな感じの話とかは聞いてないから。」
要は『恋バナ』である。
異世界に来てから心の休まる時もなく、あまりにも日々が目まぐるしく過ぎていたが、ようやくこの頃はメイド仕事にも慣れてき始めて、由里にも色々と気になることに目を向ける余裕が少しだけ出て来ていた。
リリィは何かあるとすぐに苛烈な怒りを爆発させて復讐を口にすることが多いが、そんな復讐の話題は由里には荷が重いので、出来るだけ避けていたい。そうすると、何の話題から切り出そうかと迷った挙句、同年代くらいの女子会のごく一般的なテーマと言えばと考えて恋バナに白羽の矢を立てたのだ。
(……リリィって、まだ王子様と結婚するの諦めてないみたいだし……。)
ちなみに、初めての悪役令嬢との恋バナの題材は、例の本『愛され女子になる方法』に取り上げられていたモノを何となく目について選んでみた。
既に婚約を破棄されたうえ、相手にはもう別の相手がいて、それが自分の妹であるばかりか着々と準備が進んでいるというのに、リリィは一向に諦める気など見せなかった。
(……さすがに、ムリだとか思わないのかな?)
この間の猫の一件の時も、あまり友好的ではない視線をリリィに向けていた気がする王子だが、リリィはその辺りどう思っているのだろうか?
「リリィの好きな人って、あの、この前会った王子様なんだよね?」
別にリリィが恋バナをしたくないのなら今後はするつもりがない。ただ話のとっかかりとして話題を選んだだけだ。
例えば由里のように失恋の痛みを味わっているというのならば、その傷に塩を塗りこむようなことはしたくない。
そのくらいの興味で由里はリリィに尋ねた。
《もちろんですわ!》
だが、帰って来たリリィの返答は由里の想像の斜め上辺りを漂い始めた。
《あの方は私にこそ相応しいんです!》
それはそれは楽しそうに嬉しそうに、自信満々にノリノリでリリィが話し始める。
《……確か、追いかけるか、追いかけられたいかでしたっけ?それならば、もちろん追いかけて手に入れる方が私好みですわ。あの方を今度こそ誰にも奪われないようにしっかりと捕まえて差し上げなくては。》
リリィの声音は恐ろしいくらいのやる気に満ちていた。
由里は相手の王子ではないというのに、恐ろしさで心臓がぎゅっとなった。
(……すごいやる気だけど……。)
多分、こんなにやる気いっぱいに追いかけられたら、相手は引くんじゃないかなと由里ですら確信した。物事は心のままに何でも力ずくで押していけばいいというものでもない。リリィの態度は、そんな悪い見本のようであった。
言っても無駄かもしれないとは思いつつも、由里は一緒にこの世界に持って来たピンクの表紙の本を取出し、本の内容を読んであげることにした。いくら悪役令嬢でも、失恋の上塗りには心が痛むし、それにリリィが何かの形で暴走して由里にも被害が及ぶ可能性もあるかもしれないからである。
《あら?その本は……。》
由里が手に取ったピンクの本を、リリィは見止めて意識を向ける。
「これは、私の世界の本なの。……何て言うのかな?好きな人に振り向いてもらう方法みたいなのがいっぱい書いてあるんだ。」
《何ですか、それは。》
《は?》
あまりに唐突な話題の変更に、リリィが戸惑いの声を出す。
そして、リリィにしては珍しく他人を労わるような声音で続けた。
《……メイド仕事などするからおかしくなったんです、きっと。無理が祟ったのですわ……。》
うんうんと頷きながら、そっと肩に手を置いてきそうな雰囲気を醸し出すリリィ。
由里はリリィの言葉をため息で否定した。
「違うよ。……別にメイドは無理のない範囲で頑張れてるよ。」
(無理してることがあるとしたら、一番は『リリィでいること』だよ。)
他にも無理矢理異世界に召喚されたこととか、無理があるとしたら数えられないくらいのことがあるが、全ての原因はリリィである。
だが、由里は後に続く言葉はちゃんと心の中にしまっておいた。
代わりに変更した話題を続けていく。
「リリィは、あの王子様のことどう思ってるのかなぁって。そういえば、そんな感じの話とかは聞いてないから。」
要は『恋バナ』である。
異世界に来てから心の休まる時もなく、あまりにも日々が目まぐるしく過ぎていたが、ようやくこの頃はメイド仕事にも慣れてき始めて、由里にも色々と気になることに目を向ける余裕が少しだけ出て来ていた。
リリィは何かあるとすぐに苛烈な怒りを爆発させて復讐を口にすることが多いが、そんな復讐の話題は由里には荷が重いので、出来るだけ避けていたい。そうすると、何の話題から切り出そうかと迷った挙句、同年代くらいの女子会のごく一般的なテーマと言えばと考えて恋バナに白羽の矢を立てたのだ。
(……リリィって、まだ王子様と結婚するの諦めてないみたいだし……。)
ちなみに、初めての悪役令嬢との恋バナの題材は、例の本『愛され女子になる方法』に取り上げられていたモノを何となく目について選んでみた。
既に婚約を破棄されたうえ、相手にはもう別の相手がいて、それが自分の妹であるばかりか着々と準備が進んでいるというのに、リリィは一向に諦める気など見せなかった。
(……さすがに、ムリだとか思わないのかな?)
この間の猫の一件の時も、あまり友好的ではない視線をリリィに向けていた気がする王子だが、リリィはその辺りどう思っているのだろうか?
「リリィの好きな人って、あの、この前会った王子様なんだよね?」
別にリリィが恋バナをしたくないのなら今後はするつもりがない。ただ話のとっかかりとして話題を選んだだけだ。
例えば由里のように失恋の痛みを味わっているというのならば、その傷に塩を塗りこむようなことはしたくない。
そのくらいの興味で由里はリリィに尋ねた。
《もちろんですわ!》
だが、帰って来たリリィの返答は由里の想像の斜め上辺りを漂い始めた。
《あの方は私にこそ相応しいんです!》
それはそれは楽しそうに嬉しそうに、自信満々にノリノリでリリィが話し始める。
《……確か、追いかけるか、追いかけられたいかでしたっけ?それならば、もちろん追いかけて手に入れる方が私好みですわ。あの方を今度こそ誰にも奪われないようにしっかりと捕まえて差し上げなくては。》
リリィの声音は恐ろしいくらいのやる気に満ちていた。
由里は相手の王子ではないというのに、恐ろしさで心臓がぎゅっとなった。
(……すごいやる気だけど……。)
多分、こんなにやる気いっぱいに追いかけられたら、相手は引くんじゃないかなと由里ですら確信した。物事は心のままに何でも力ずくで押していけばいいというものでもない。リリィの態度は、そんな悪い見本のようであった。
言っても無駄かもしれないとは思いつつも、由里は一緒にこの世界に持って来たピンクの表紙の本を取出し、本の内容を読んであげることにした。いくら悪役令嬢でも、失恋の上塗りには心が痛むし、それにリリィが何かの形で暴走して由里にも被害が及ぶ可能性もあるかもしれないからである。
《あら?その本は……。》
由里が手に取ったピンクの本を、リリィは見止めて意識を向ける。
「これは、私の世界の本なの。……何て言うのかな?好きな人に振り向いてもらう方法みたいなのがいっぱい書いてあるんだ。」
《何ですか、それは。》
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