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44 高橋由里,26
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四十四
その後、メイドとしての高橋由里の日々は周囲の期待を裏切り続け、平穏無事に過ぎていた。
メイドとして従順にメイド長の指示に従っていればいいのは、由里にとってはさほど難しいことではなかった。地味で気弱なこの世界初心者の由里でも、アルバイトのような感覚で大人しくメイドに徹するくらいのことは出来る。外見が悪の権化たるリリィ・マクラクランであることを除けば、心配性の由里にもこの世界での生活に少しずつ順応できそうな気すらし始めていた。
(……どうやったら、元の世界に帰れるのかな……?)
この世界への順応をし始めた由里ではあるが、やはり出来るだけ早く元の世界に帰りたいという望みは変わらない。そのために本当は今すぐにでも情報収集に励みたいのだが、そこはあんまり芳しくなかった。
メイド仲間からは相変わらず多少の嫌がらせに合うものの、それ以上悪役令嬢リリィ・マクラクランに近づいて来ようなどという猛者は現れず、皆が気味悪がって一定の距離以上近づいてこないため、この世界で話し相手はリリィ以外にいないという状況は変わっていなかった。ただでさえ、由里は人見知りでコミュ障なところがあるというのに、距離を置いて近づいてすらこない相手に対して距離を詰めるどころか、話しかけることすら出来なかった。
(とりあえず、このまま修道院行きがなくなっちゃえばいいんだけど……。)
あれからも一向に由里に修道院行きを命じる者は現れず、そこのところは由里も少しだけ胸を撫で下ろしていた。
その上で、今の状態が続けば、そのうち修道院に行かせる必要もないと誰かが言い出してくれたらいいなと由里は願っていた。
(そもそも、リリィの過去の行いが悪いのが原因なんだから。ずっと大人しくしてれば、もう軟禁しなくてもいいんじゃないってなってもおかしくないよね?……リリィの身体に、今入ってるのは私なんだから、大それたことなんて絶対できないし。)
ちょっとした希望的観測すら抱けるくらいには、由里の心にも余裕が芽生え始めていた。
《やはり私が言った通りだったでしょう?》
「ん?」
今日は仕事が早く片付き、少し時間に余裕を持って自室に戻れた由里に、リリィが機嫌よく話しかけてくる。
由里も、心に余裕があるので唯一の話し相手であるリリィに相槌を打った。
《修道院行きのことです。大丈夫だと言ったではありませんか?》
確かに、あの日、猫を助けた雨の日に王子とセレナとの最悪のタイミングでの遭遇に怯える由里に、リリィはそう言っていた。
(あんまり信頼感のない発言だったけど……。)
「そうだね。」
本音は隠して、由里はリリィの言葉に肯定した。
《たかが猫一匹。それだけのことだと言うのに、由里は騒ぎ過ぎなのですよ?》
そう言われても、由里は元々小心者で、小さなことにもびくびくしてしまう性格なのだ。それが気に入らないなら、最初からこの世界に召喚しなければ良かったではないかと由里は思ったが、もちろん口に出すことはしなかった。
「そうかも。でも、あの時はびっくりしたから。」
代わりに何となくリリィの言葉を肯定したような返事を返す。
《これでは先が思いやられますわ。いいですか?由里には、私の復讐を手伝うという重大な使命があるのですよ。》
そんな使命はないと声を大にして言いたかったが、それでも由里はそんな言葉をぐっと飲みこんで代わりに別の話題を切り出した。
「リリィは、好きな人に追いかけられたい?それとも追いかけたい?」
その後、メイドとしての高橋由里の日々は周囲の期待を裏切り続け、平穏無事に過ぎていた。
メイドとして従順にメイド長の指示に従っていればいいのは、由里にとってはさほど難しいことではなかった。地味で気弱なこの世界初心者の由里でも、アルバイトのような感覚で大人しくメイドに徹するくらいのことは出来る。外見が悪の権化たるリリィ・マクラクランであることを除けば、心配性の由里にもこの世界での生活に少しずつ順応できそうな気すらし始めていた。
(……どうやったら、元の世界に帰れるのかな……?)
この世界への順応をし始めた由里ではあるが、やはり出来るだけ早く元の世界に帰りたいという望みは変わらない。そのために本当は今すぐにでも情報収集に励みたいのだが、そこはあんまり芳しくなかった。
メイド仲間からは相変わらず多少の嫌がらせに合うものの、それ以上悪役令嬢リリィ・マクラクランに近づいて来ようなどという猛者は現れず、皆が気味悪がって一定の距離以上近づいてこないため、この世界で話し相手はリリィ以外にいないという状況は変わっていなかった。ただでさえ、由里は人見知りでコミュ障なところがあるというのに、距離を置いて近づいてすらこない相手に対して距離を詰めるどころか、話しかけることすら出来なかった。
(とりあえず、このまま修道院行きがなくなっちゃえばいいんだけど……。)
あれからも一向に由里に修道院行きを命じる者は現れず、そこのところは由里も少しだけ胸を撫で下ろしていた。
その上で、今の状態が続けば、そのうち修道院に行かせる必要もないと誰かが言い出してくれたらいいなと由里は願っていた。
(そもそも、リリィの過去の行いが悪いのが原因なんだから。ずっと大人しくしてれば、もう軟禁しなくてもいいんじゃないってなってもおかしくないよね?……リリィの身体に、今入ってるのは私なんだから、大それたことなんて絶対できないし。)
ちょっとした希望的観測すら抱けるくらいには、由里の心にも余裕が芽生え始めていた。
《やはり私が言った通りだったでしょう?》
「ん?」
今日は仕事が早く片付き、少し時間に余裕を持って自室に戻れた由里に、リリィが機嫌よく話しかけてくる。
由里も、心に余裕があるので唯一の話し相手であるリリィに相槌を打った。
《修道院行きのことです。大丈夫だと言ったではありませんか?》
確かに、あの日、猫を助けた雨の日に王子とセレナとの最悪のタイミングでの遭遇に怯える由里に、リリィはそう言っていた。
(あんまり信頼感のない発言だったけど……。)
「そうだね。」
本音は隠して、由里はリリィの言葉に肯定した。
《たかが猫一匹。それだけのことだと言うのに、由里は騒ぎ過ぎなのですよ?》
そう言われても、由里は元々小心者で、小さなことにもびくびくしてしまう性格なのだ。それが気に入らないなら、最初からこの世界に召喚しなければ良かったではないかと由里は思ったが、もちろん口に出すことはしなかった。
「そうかも。でも、あの時はびっくりしたから。」
代わりに何となくリリィの言葉を肯定したような返事を返す。
《これでは先が思いやられますわ。いいですか?由里には、私の復讐を手伝うという重大な使命があるのですよ。》
そんな使命はないと声を大にして言いたかったが、それでも由里はそんな言葉をぐっと飲みこんで代わりに別の話題を切り出した。
「リリィは、好きな人に追いかけられたい?それとも追いかけたい?」
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