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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!②『沼』
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二
「アルバート様。本日は師匠の元に参りますか?」
朝の挨拶の後、推しのイケメン従者・ヴィルが本日の予定を尋ねてくれる。
沢崎直は少しだけ考えて、返事をするために口を開いた。
「はい。そのつもりです。」
まだまだ異世界初心者の域を出ない沢崎直には、覚えなくてはならないことも出来るようにならなくてはならないことも知らなくてはならないことも山積みだ。そのどれを優先して習得していくかを考えずに闇雲に進んでいても、一向に埒が明かない。ただでさえ、沢崎直は要領よく全てをこなせるような器用さは持ち合わせていないのだから。だというのに、一日の時間は決まっているし、身体は一つしかない。
沢崎直は現状を様々な角度から考察・検討し、今日の予定を決定する。
(……剣と魔法はもっと使えるようにならないとだめだよなぁ……。)
辺境伯の三男坊・アルバートとして必須とされる技術のうち、何よりも目に見えて劣っているのがその二つであった。
なので、今日の予定は師匠のお宅訪問&修行となる。
「途中の街で、少しお酒を買っていきましょう。」
手土産を忘れない殊勝な弟子の沢崎直である。
だが、そんな主人の言葉に、いつもは従順な従者のヴィルが不服の色を示した。
「師匠には必要ないと思いますが?」
「ふふふ。」
ヴィルの言い分も尤もではあるので、沢崎直は笑った。
ただ、そのままヴィルに同意したのでは師匠が少しかわいそうなので、自分の意見を付け足すのも忘れない。
「まあまあ。師匠のご機嫌取りも弟子の仕事のうちだと思って。」
「アルバート様はお優しすぎるのです。師匠が図に乗ります。」
ヴィルはいつもどおり師匠に厳しい意見を向けている。
そんな二人の師弟のやり取りですらも微笑ましく、沢崎直は笑った。
「ちょっとだけですから、ね。」
「分かりました。」
しぶしぶといった様子でヴィルが頷いてくれる。
こんなふうに言っていても、ヴィルは真面目で誠実なので結局、沢崎直の手土産選びにちゃんと付き合ってくれる親切な従者であるのだ。
今日の予定も決まり、ヴィルは一礼すると室内を辞去していく。
本日も麗しさ全開の推しの背中を見送りながら、沢崎直は聞こえないようにほぉっと充足したため息を吐くのだった。
(……本当にいつも素敵だよな、ヴィル様。)
この異世界にやって来てから、ずっと傍で推しのことを見ているが、見飽きるということがない。それどころか日に日に沼落ちしているような、恋に落ち続けているような、そんな感覚が沢崎直の心を支配していた。
口にも態度にも出すことはできないが、確実に嵌まり続けていて、抜け出す気すら起きる気がしない。いついかなるどんな時も、推しの評価はプラスであり、マイナスとなる要素が見当たらないのだ。
(……完璧すぎて、神。推しというより、もはや神。)
愛が信仰心に変わりそうなほど、沢崎直の心の中でヴィルというイケメン従者の存在は日に日に大きく育ち続けていた。
ただ、沢崎直がどれほど強い思いを持とうと、ヴィルにとって自分は主人のアルバートでしかないし、むしろアルバートですらない。その上、アルバートには婚約者のマリア嬢がいる。その上、更に肉体的には男同士である。
所詮、沢崎直の恋心は表に出すことすら叶わぬ自己満足以上になりえないモノであった。
それが痛いほど分かっているので、沢崎直は今日もヴィルを密かに崇拝し、ヴィルをそっと眺め、ヴィルと過ごす時間を宝物のように大切に心にしまい続ける。
推しにガチ恋しようが、推しに迷惑をかけないことこそモブ女・沢崎直の新しい人生における至上命題であるのだった。
「アルバート様。本日は師匠の元に参りますか?」
朝の挨拶の後、推しのイケメン従者・ヴィルが本日の予定を尋ねてくれる。
沢崎直は少しだけ考えて、返事をするために口を開いた。
「はい。そのつもりです。」
まだまだ異世界初心者の域を出ない沢崎直には、覚えなくてはならないことも出来るようにならなくてはならないことも知らなくてはならないことも山積みだ。そのどれを優先して習得していくかを考えずに闇雲に進んでいても、一向に埒が明かない。ただでさえ、沢崎直は要領よく全てをこなせるような器用さは持ち合わせていないのだから。だというのに、一日の時間は決まっているし、身体は一つしかない。
沢崎直は現状を様々な角度から考察・検討し、今日の予定を決定する。
(……剣と魔法はもっと使えるようにならないとだめだよなぁ……。)
辺境伯の三男坊・アルバートとして必須とされる技術のうち、何よりも目に見えて劣っているのがその二つであった。
なので、今日の予定は師匠のお宅訪問&修行となる。
「途中の街で、少しお酒を買っていきましょう。」
手土産を忘れない殊勝な弟子の沢崎直である。
だが、そんな主人の言葉に、いつもは従順な従者のヴィルが不服の色を示した。
「師匠には必要ないと思いますが?」
「ふふふ。」
ヴィルの言い分も尤もではあるので、沢崎直は笑った。
ただ、そのままヴィルに同意したのでは師匠が少しかわいそうなので、自分の意見を付け足すのも忘れない。
「まあまあ。師匠のご機嫌取りも弟子の仕事のうちだと思って。」
「アルバート様はお優しすぎるのです。師匠が図に乗ります。」
ヴィルはいつもどおり師匠に厳しい意見を向けている。
そんな二人の師弟のやり取りですらも微笑ましく、沢崎直は笑った。
「ちょっとだけですから、ね。」
「分かりました。」
しぶしぶといった様子でヴィルが頷いてくれる。
こんなふうに言っていても、ヴィルは真面目で誠実なので結局、沢崎直の手土産選びにちゃんと付き合ってくれる親切な従者であるのだ。
今日の予定も決まり、ヴィルは一礼すると室内を辞去していく。
本日も麗しさ全開の推しの背中を見送りながら、沢崎直は聞こえないようにほぉっと充足したため息を吐くのだった。
(……本当にいつも素敵だよな、ヴィル様。)
この異世界にやって来てから、ずっと傍で推しのことを見ているが、見飽きるということがない。それどころか日に日に沼落ちしているような、恋に落ち続けているような、そんな感覚が沢崎直の心を支配していた。
口にも態度にも出すことはできないが、確実に嵌まり続けていて、抜け出す気すら起きる気がしない。いついかなるどんな時も、推しの評価はプラスであり、マイナスとなる要素が見当たらないのだ。
(……完璧すぎて、神。推しというより、もはや神。)
愛が信仰心に変わりそうなほど、沢崎直の心の中でヴィルというイケメン従者の存在は日に日に大きく育ち続けていた。
ただ、沢崎直がどれほど強い思いを持とうと、ヴィルにとって自分は主人のアルバートでしかないし、むしろアルバートですらない。その上、アルバートには婚約者のマリア嬢がいる。その上、更に肉体的には男同士である。
所詮、沢崎直の恋心は表に出すことすら叶わぬ自己満足以上になりえないモノであった。
それが痛いほど分かっているので、沢崎直は今日もヴィルを密かに崇拝し、ヴィルをそっと眺め、ヴィルと過ごす時間を宝物のように大切に心にしまい続ける。
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