転生したらついてましたァァァァァ!!!

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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!①『ジョナサン』

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   第六章「アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!」

     一

「お上手です、アルバート様。その調子ですよ。」
「は、はい。」
 昼のうららかな日差しが降り注ぐシュテインベルク家の別邸の庭では、従者と主人の二人が今日も今日とて乗馬の練習に励んでいた。
「背筋は真っ直ぐ伸ばしてください。しっかりと遠くを見るように。」
「は、はい。」
 イケメン従者・ヴィルは出来がいいとは言えない主人に呆れることなく、根気強く丁寧に教えてくれる。
 主人の沢崎直も、出来が悪いなりに真面目にコツコツと取り組んでいた。
 そのため、毎日少しずつではあるが乗馬技術に上達が見られ、今では屋敷の庭内ならば困らないくらいに馬を操れるようになっていた。もちろん、まだまだ速駆けや遠乗りなどは難しいかも知れないが、それもいつかは叶いそうなくらいには、沢崎直は進歩していた。
 初めは歩くことどころか馬の上に乗っていることすら不慣れだった乗馬初心者のモブ女・沢崎直だったが、今では庭の中ならば、少しだけ早足で進むことも可能になった。それは、モブ女基準では、格段の上達ぶりである。
(……乗馬って、ちょっと楽しいかも!?)
 少しずつでも進歩が見えると、心持ちも変わってくる。
 歩いている時よりも数段高い視界や、リズミカルな馬の歩行のテンポ。それに風を切る気持ちよさ。沢崎直にもようやく馬に乗ることの良い面が見え始めていた。
 しばらく庭の中で乗馬練習をした後、軽やかに馬上から地上に降り立った沢崎直は、ちょっとイケメン貴公子に見えなくもなかった。
「いつも、ありがとう。ジョナサン。」
 しっかりと練習に付き合ってくれた馬のジョナサンには、ちゃんとお礼を言って撫でる。馬に乗るためには馬とのコミュニケーションも必要である。馬と気持ちを通わせることで、馬が安心して乗り手を背中に乗せてくれるようになるのだ。それでなくても、馬のジョナサンは気性も穏やか、栗毛で目がくりっと可愛らしいお馬さんだった。
 沢崎直が撫でると、ジョナサンも嬉しそうに返事をしてくれる。
 毎日、コミュニケーションを重ねる中で、沢崎直とジョナサンは仲良しになっていた。
「アルバート様。こちらをどうぞ。」
 ジョナサンと会話をしている沢崎直に、従者のイケメン・ヴィルが近づき、汗を拭うための布と、飲み物を渡してくれる。
 沢崎直はそれを笑顔で受け取った。
「ありがとうございます、ヴィル。」
 異世界に転生してきて、少しの時間が経ったが、沢崎直の残念イケメン人生は、元・モブ女なりには順調であった。まだまだ七転八倒することも多いが、それは元・モブ女ならば当然のことである。進歩も遅く、要領がいいとは言えず、それでも確実に一歩ずつだったとしても前に進んでいく。誰に分からなくても、振り返れば自分にだけは分かる。それがモブ女の歩みである。
 師匠の元にも足繁く通い、剣も無様ではあるが振り続けている。
 魔法に関しては、いまだ前に飛ぶことはないが、炎の魔法を出した後に消すのは少し上手くなっていた。
 もちろん、空手を始めた師匠とヴィルは、沢崎直をあっという間に追い越して、二人で張り合いながらああでもないこうでもないと、日々探求を重ねている。それでも、二人にはあの珍妙な魔法を真似することは今のところ出来ていない。これは、誇っていいことなのかどうかが沢崎直にはいまいち分からなかった。
(……前に飛ばない魔法が出来ても、いいことあるのかな?)
 ヴィルに手渡してもらった水を飲みながら、ジョナサンに背を預けて空を見上げる沢崎直。
 世界は沢崎直が想像もできないくらい広く、空は青い。空の青さは同じなのに、異世界は元の世界とはあまりにも勝手が違う。
 最近、沢崎直は少し考えることがある。
 今頃、元の世界であったなら何をしていただろうかと……。
 それは、異世界に来て少しだけ心に余裕を持つことが出来始めたから、考えてしまうことなのだろうか。もしそうだとしたのなら、異世界に慣れ始めた証拠だと思っていいのか。悟りなど開けるはずもない未熟な沢崎直には、自分の事だというのにそんな心境の変化一つとっても喜びなどなく戸惑ってしまうだけだ。
 その上、もう戻れない場所を思い、少しのノスタルジーとホームシックのような寂しさを感じてしまうのは、ちょっとだけ心に棘が刺さったような気になってしまって、できれば勘弁してほしかった。
(……まあ、本当は車に轢かれて死んじゃってたから、元の世界の人生に続きなんてないんだけど。)
 ふぅっと、様々な気持ちを込めた息を吐き出し、休憩を終えて気持ちを切り替える。
 沢崎直の残念イケメン人生はまだ始まったばかりなのだ。
 いつまで続くかは分からないが、今度こそ、出来るだけ後悔のないように進んでいく。
 そう決意を新たにして、沢崎直はいつも傍にいてくれる推しの従者を振り返った。
「ヴィル。」
「アルバート様。」
 ヴィルは、いつもの穏やかな笑顔を浮かべてくれていた。
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