ズルいチート勇者なんか好きになってあげないんだから!

せんのあすむ

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焦燥

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 テルニナとアリエータは、私から見ても分かるくらいに一切手を抜かずに本気で打ちのめす為に向かってたと思う。なのに、ほんの一分やそこら打ち合っただけで、二人の方がぜえぜえと息を切らし始めた。
 全力で切りかかってもそれを受け止められるし、しかも向かい合った時の<圧>がものすごいから、それだけでも精神が疲弊する。
 結局、二分も経たないうちに二人は足腰が立たなくなってしまったのだった。
「次!」
 アリスリスが声を上げると、立ち上がることさえできなくなった二人を他の団員が引きずるようにして下がらせて、別の団員が、今度は三人がかりで挑みかかった。なのにそれさえ、アリスリスを一歩も下がらせることさえできない。
 私は結局参加しなかったけど、ドゥケとの手合わせでも同じような感じだったっていう。ただ、ドゥケは見た目にもれっきとした大人の男性で<勇者>ってことだからまだ分かるとしても、こんな小さな子供相手にそれっていうのは、さすがにすごい違和感だった。
 でも、そんなアリスリスに次々と挑みかかっていく団員達からも、並々ならない気魄が見える気がした。
 当然か。みんな、今すぐにでも魔王のところに行って、ドゥケとポメリアを助けたいと思ってる筈だから。その焦燥感を少しでも紛らわせたいと、こうして連日、凄まじいくらいの鍛錬を行ってるんだから。
 だけどそこに、
「焦る気持ちは分かるけれど、皆、飛ばし過ぎだ。そんなことでは怪我をしてしまって肝心な時に役に立てなくなるぞ。特にシェリスタ。あなたは今日は休みなさい。体の筋がブレてきている。疲れがたまって集中力が落ちている証拠だから」
 って、鍛錬場に現れたライアーネ様が。
「あ…はい、分かりました……」
 お互いに呼吸を整えるつもりでソーニャと共にアリスリスを見てた私に険しい顔でそう言われて、私は、力尽きるように腰を下ろしてた。
 ライアーネ様の言う通りなんだろうな。王都に戻ってからの私は、昼となく夜となく、たまらない焦りを感じてて体を動かさずにはいられない状態だった。疲れてるのは自分でも分かるのによく眠れなくて、宿舎を抜け出して一人で素振りをしてたりもして。
 ポメリアだけじゃなく、ドゥケのことを思い浮かべても胸が締め付けられる。あんなに疎ましがってたはずの軽薄な笑顔を浮かべた彼がここにいないというだけでたまらない気分になる。
 逆に、カッセルのことを思い浮かべない時の方が増えてきた。あんなに好きだったはずなのにな……

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