ズルいチート勇者なんか好きになってあげないんだから!

せんのあすむ

文字の大きさ
105 / 105

新しい世界

しおりを挟む
 戦いの後、私とドゥケは、王都のはずれにある小さな屋敷を陛下からいただいて、そこにティアンカやポメリアやリデムも一緒に住むことにした。
 バーディナムが死んだことは伝えなかったから、結果としては私たちが魔王を倒したことになってしまって陛下からは王国の領土の一部を授けられてそこを治める貴族になるようにも言われたんだけど、さすがにそれは受けるわけにはいかなかった。
 で、結局、ドゥケが誰を選んだかって話なんだけど、
「ん? リデムは俺の実の姉さんだよ。魔法使いの家に養子として迎えられたからずっと別々に暮らしてきたけど」
 ってドゥケが。
『って、なんじゃそりゃーっ!?』
「だだだ、だけど、キスとか……!」
 そうだ、私は見たぞ、ドゥケとリデムがキスをしてたところ…! あれは決して<加護>を与える為のキスじゃなかった!
 なのに。
「ああ、あれか。姉さん、酔うと誰かれ構わずキスしまくる人だから。昔に比べるとずいぶん大人しくはなったけど、今でも俺はだいたい襲われるな」
 なんたること……!
 実は、青菫あおすみれ騎士団の中ではそれは当たり前に知られた話で、当たり前すぎて私に教えるのを忘れてたんだって。実際、大半の団員がリデムに唇を奪われてたって。
「ごめんね~♡」
 普段はすごく知性的な<大人の女性>だと思ってたリデムも、お酒が入ったり油断すると途端に砕けた雰囲気になるんだ。知らなかった。
 ティアンカは私にべったりだし、ポメリアはティアンカと一緒で五歳くらいの女の子のままだし。
「シェリスタを助けたかったから無理に体を大きくしたら、力を使い果たしちゃって。だから村にいた人間の魔法使いにシェリスタのところに転移してもらって、それで何とかシェリスタのことは助けられたよ」
 だって。それはポメリアも同じだったみたい。ドゥケを助けたくてってことで。
 あと、ポメリアはあくまでドゥケのことを<お兄ちゃん>として慕ってただけで、異性として好きとか伴侶になりたいとかそういうのじゃなかったらしい。
 で、そうなると必然的に、私がドゥケの<お嫁さん>ってことに…
 でも、いいか。彼のことは好きだし。
 しかも同じ<勇者>だってことでお似合いだからって、青菫騎士団のみんなからも「結婚しちゃえ♡」って。
 だからなんだかなし崩し的に私とドゥケが結婚することになって。ティアンカは不服そうだったけど、「これからもずっとそばにいられるならいいよ」ってことで。
 私も、ティアンカに対するわだかまりとかはない訳じゃないものの、<私を慕ってくれる小さな女の子>になってしまった彼女のことは無下にはできなかった。
 それに、バーディナムがいなくなったことで、神妖精しんようせい族としての力の多くは失われたみたい。体を大きくするのに必要な力も回復する様子がないって。だから人間と同じようにして成長するのを待つしかないみたいだね。
 あ、そうそうそれから、<勇者の子を授かる>ためにドゥケの子を産んだコたちも、毎日のように入れ代わり立ち代わり子供を連れて屋敷に訪れてきた。
 それと、アリスリスもリリナと一緒に訪ねてきて、私とドゥケに一発ずつ食らわせていった。私には頬に平手。ドゥケには腹にパンチ。
「ふん!」と鼻を鳴らしてそのまま帰っていったけど、リリナが困ったように微笑みながら言ってた。
「ホントは二人が帰ってくるまで泣いてたんです」
 だって。それからも時々、遊びに来る。
 当分はこの感じで賑やかなのが続きそう。



「ごめんな。ゆっくりできなくて」
 深夜、ティアンカもポメリアも寝付いてリデムも自分も部屋に帰ってようやく二人きりになれた時、ドゥケが申し訳なさそうに言った。
 私はそれにちょっと苦笑いを返しつつ、
「いいよ。カッセルも言ってたけど、私たちには時間はたっぷりあるみたいだから。せめてドゥケの子供たちが大きくなって一人前になってからでも遅くないと思う。
 そしたらさ、いっそ、町から遠く離れたところに小さな家を建ててさ、そこに私とあなたとポメリアとティアンカの四人で暮らそうよ。リデムはきっといい人が見付かるし。
 あ、でも、もしアリスリスが近くに住みたいって言ったらそれもいいかな」
 なんてね。
「そうだな。そうしよう。俺たちにはそれが合ってるかもな」
 と返す彼と見詰め合って、どちらからともなく顔を寄せていって、私たちは唇を重ねていた。
 私たちの新しい世界の始まりを告げる口づけなのだった。





 Fin~

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...