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桃源郷:ボディガード8
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『妙な噂は信じないでいただきたい』
当協会は古くから続いている老舗のオークション。これほどまでに続いてきたのは、ひとえにお客様がご贔屓してくれているおかげであります。さらに当協会はこの業界でも正統派。ルールを順守し、何ごとも誠実に対応してまいりましたおかげと自負しております。ですから当協会では闇オークションのようなことは一切しておりません。以前に報道した新聞記者、並びに各メディアには厳重に抗議を申し出、理解していただきました。誓って当協会は潔白でございます。
ショウに強く抱きしめられたリンは、一瞬、息ができなくなりました。窮屈な腕の中で目を開き、自分がショウに抱きかかえられ床に転がっていることに気がつきます。ショウを下敷きにしてしまっていることに慌て、急いで身を起こしました。
「ごめんなさい!ショウさん、大丈夫?」
「いたたたっ。リンさんは?」
「私は平気、何とも…いたっ!」
リンが黒いブーツの上から左足首を抑えます。ヒールが何かに挟まり転びそうになった時、捻ったようでした。
「リンさん、ブーツをぬいで。怪我の様子を見よう」
リンがブーツのチャックをおろすと、ショウがリンの足に痛みが走らないようゆっくり脱がしていきます。
「腫れはそれほどひどくないね。ただ、歩かない方が良い」
リンはしょんぼりと肩を落としてはいとうなづきます。自分の怪我を診てくれているショウから目を離し、化粧室のあった方に目を向けて固まりました。リン達が先ほどまでいた空間にあった化粧室が、こちらの空間にはないようです。
化粧室のあった場所は白い大理石の壁になっていました。化粧室の出入り口があった場所に細く暗い隙間があるのに気がつきました。壁だと思った場所は自動ドアのようになっていて、その先に暗い闇があります。声も出せずに暗闇の奥に目を向けると、鉄格子が見えました。檻があるようです。
鉄格子の隙間から朱い二つの光がまたたき、リンの方を凝視しています。息を飲むリンの脳裏に浮かんだのは、河童という言葉でした。暗くてよく見えませんが、他にも生き物がいるようです。リンはショウの肩を軽く叩きました。
「ショウさん、あれ、あれって」
リンの怪我の具合が大したことがないのにほっとしていたショウは、リンが視線を向けた先に目をやります。しばらく目を凝らすように眺めてから顔色を変えました。
「リンさん、失礼」
わっと声をあげるリンには構わず肩にかつぐと、足音を立てないよう素早くその場を走り去っていきます。リンは自分のブーツを持ちその場に落し物がないかを確認するので精一杯でした。
「ショウさん、あの、あれ」
「この場を離れた方が良い」
「でも」
「言いたいことは理解する。だが、今はリンさんの身の安全が最優先だ」
リンはぐっと拳を握り、はいと言ってショウの肩にしがみつきました。どれぐらい走ったのか、ショウは歩みを止めてリンを下ろします。そばには階段と非常口を示す緑色のランプがありました。
「リンさんは、この協会が闇オークションをしているって噂は知ってるね?」
「通鷹と高時が言ってた。ただどれだけ探しても証拠はなくて、出てくるのは闇オークションをしていないっていう証拠だけ」
ショウがうなづいてリンの横に座る。リンは黒いブーツを横に置いて、捻った足をさすりました。こういう時、能力を封じられていると不便です。ヒーリングをすることもできず、手当てをするための補助道具ももちこめませんでした。
「これまでにも何度も調べたが、何も出ない。だけど噂だけはまことしやかに伝えらえていた。火のないところに煙は立たないと言うが、火の元が見つからない。なのに煙ばかりが立ち上る。いっそ都市伝説ではないかと言われている」
「協会の方も闇オークションのことをネタにして、会場を盛り上げることもあるって聞いたかな」
「これまでどれだけ調べても見つからなかった証拠を、リンさんは掴んだことになる。大手柄だな」
「ただの偶然だし。あまり嬉しくないけど、でも早く助けないと」
緑の瞳が光るのを見てショウは苦笑しました。
「それには俺とリンさんが、教会側の奴らに知られないよう元の場所に戻り、速やかにしかるべき機関に知らせないとな。でないと、見つかったことがバレたら、閉じ込められている河童たちは別の場所に移され、今までと同じように潔白を証明するため協会側が隠ぺいするだろう」
「助けられなくなっちゃうね」
「それだけじゃない。俺とリンさんが消される可能性もある」
リンはひゅっと息を吸うと、唾をごくんと飲み込みました。
つづく
当協会は古くから続いている老舗のオークション。これほどまでに続いてきたのは、ひとえにお客様がご贔屓してくれているおかげであります。さらに当協会はこの業界でも正統派。ルールを順守し、何ごとも誠実に対応してまいりましたおかげと自負しております。ですから当協会では闇オークションのようなことは一切しておりません。以前に報道した新聞記者、並びに各メディアには厳重に抗議を申し出、理解していただきました。誓って当協会は潔白でございます。
ショウに強く抱きしめられたリンは、一瞬、息ができなくなりました。窮屈な腕の中で目を開き、自分がショウに抱きかかえられ床に転がっていることに気がつきます。ショウを下敷きにしてしまっていることに慌て、急いで身を起こしました。
「ごめんなさい!ショウさん、大丈夫?」
「いたたたっ。リンさんは?」
「私は平気、何とも…いたっ!」
リンが黒いブーツの上から左足首を抑えます。ヒールが何かに挟まり転びそうになった時、捻ったようでした。
「リンさん、ブーツをぬいで。怪我の様子を見よう」
リンがブーツのチャックをおろすと、ショウがリンの足に痛みが走らないようゆっくり脱がしていきます。
「腫れはそれほどひどくないね。ただ、歩かない方が良い」
リンはしょんぼりと肩を落としてはいとうなづきます。自分の怪我を診てくれているショウから目を離し、化粧室のあった方に目を向けて固まりました。リン達が先ほどまでいた空間にあった化粧室が、こちらの空間にはないようです。
化粧室のあった場所は白い大理石の壁になっていました。化粧室の出入り口があった場所に細く暗い隙間があるのに気がつきました。壁だと思った場所は自動ドアのようになっていて、その先に暗い闇があります。声も出せずに暗闇の奥に目を向けると、鉄格子が見えました。檻があるようです。
鉄格子の隙間から朱い二つの光がまたたき、リンの方を凝視しています。息を飲むリンの脳裏に浮かんだのは、河童という言葉でした。暗くてよく見えませんが、他にも生き物がいるようです。リンはショウの肩を軽く叩きました。
「ショウさん、あれ、あれって」
リンの怪我の具合が大したことがないのにほっとしていたショウは、リンが視線を向けた先に目をやります。しばらく目を凝らすように眺めてから顔色を変えました。
「リンさん、失礼」
わっと声をあげるリンには構わず肩にかつぐと、足音を立てないよう素早くその場を走り去っていきます。リンは自分のブーツを持ちその場に落し物がないかを確認するので精一杯でした。
「ショウさん、あの、あれ」
「この場を離れた方が良い」
「でも」
「言いたいことは理解する。だが、今はリンさんの身の安全が最優先だ」
リンはぐっと拳を握り、はいと言ってショウの肩にしがみつきました。どれぐらい走ったのか、ショウは歩みを止めてリンを下ろします。そばには階段と非常口を示す緑色のランプがありました。
「リンさんは、この協会が闇オークションをしているって噂は知ってるね?」
「通鷹と高時が言ってた。ただどれだけ探しても証拠はなくて、出てくるのは闇オークションをしていないっていう証拠だけ」
ショウがうなづいてリンの横に座る。リンは黒いブーツを横に置いて、捻った足をさすりました。こういう時、能力を封じられていると不便です。ヒーリングをすることもできず、手当てをするための補助道具ももちこめませんでした。
「これまでにも何度も調べたが、何も出ない。だけど噂だけはまことしやかに伝えらえていた。火のないところに煙は立たないと言うが、火の元が見つからない。なのに煙ばかりが立ち上る。いっそ都市伝説ではないかと言われている」
「協会の方も闇オークションのことをネタにして、会場を盛り上げることもあるって聞いたかな」
「これまでどれだけ調べても見つからなかった証拠を、リンさんは掴んだことになる。大手柄だな」
「ただの偶然だし。あまり嬉しくないけど、でも早く助けないと」
緑の瞳が光るのを見てショウは苦笑しました。
「それには俺とリンさんが、教会側の奴らに知られないよう元の場所に戻り、速やかにしかるべき機関に知らせないとな。でないと、見つかったことがバレたら、閉じ込められている河童たちは別の場所に移され、今までと同じように潔白を証明するため協会側が隠ぺいするだろう」
「助けられなくなっちゃうね」
「それだけじゃない。俺とリンさんが消される可能性もある」
リンはひゅっと息を吸うと、唾をごくんと飲み込みました。
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