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桃源郷:ボディガード7
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『オークション会場には別の空間があります』
当協会が今回使っている会場は、歴史のある場所です。闘技場として殺し合いの場に使われてもいましたが、現在はこうしたイベント会場としての使用する業者が多くございます。さて、古では神に生贄を捧げ、神に歌と踊りを奉納し、剣技を見せたことがありました。そのためでしょうか。今お客様がいる空間とは異なった空間が存在します。異次元というものかもしれません。何、お客様が心配することは何もありません。お客様が異次元へ足を踏み入れることがないよう対処しております。さらに今までこの会場を使った業者もそのようなトラブルはございませんでした。万全を期しておりますので、ご安心下さい。
化粧室に入るとブラックパールを落札し、鬼の姿をした女に掴みかかられていた少女が鏡の前で髪を直していました。真っ赤な髪が印象的な少女は、リンに気づいてにこりと笑いました。
「さっきはごめんなさいね。騒がせちゃって」
「あ、大丈夫ですか?怪我とかしませんでしたか?」
リンが黒のボレロを脱ぐと、ハンカチを水でぬらしオレンジジュースがこぼれた個所をゆっくり叩きました。少女は茶色の瞳を和らげます。
「スタッフの人がすぐに対応してくれたから大丈夫。もしかして、飲み物か食べ物をこぼしてしまったの?」
「ちょっとぼんやりしていて、グラスを傾けてしまって」
「私もよくやるわ。ちょっと残念な気分よね」
「子供みたいで、恥ずかしいわ」
通鷹とショウがそろって手を差し伸べるのを思い出してリンは頬を赤らめます。幼子を心配するような二人の様子に、その場にいるのが恥ずかしくなりました。
「あなたは欲しい物は手に入った?それともこれから?」
「あ、はい。私が欲しいのは靴なんですけど、本命はピンクのリボンなの。最後の方だったと思います」
「ピンクのリボン…結ぶだけで、春風が吹く春の女神の持ち物だったわね」
「え、ええ」
ピンクのリボンと言っただけでスラスラと特徴を言った少女に驚いた表情を見せます。リンは自分と高時、通鷹が狙っているものの特徴は覚えていましたが、他はうろ覚えでした。
「あなたは、ブラックパールの他に何かあるんですか?」
きょとんとした表情を浮かべて少女はころころと笑いました。
「いいえ。ブラックパールに全財産使ってしまったの。これからは観賞するだけよ」
「全財産…ずいぶんな額だったと」
「ええ、父に頼まれていたのものでね。これでダメだったらどうしようかとハラハラしたわ」
二人で話をしていると、化粧室の出入り口の向こうから、遠慮がちにごほんと咳払いをする音が聞こえます。少女は出入り口に向かって声をあげました。
「タカダ!今行くわ。ごめんなさい。そろそろ行かないと」
少女はリンにウィンクをして化粧室を出ていきます。リンもにっこり笑って、見送りました。黒のボレロを着て化粧室を出ると、壁にもたれていたショウがリンの方を向いて左手首につけている腕時計を指さしました。
「リンさん、そろそろ行こう。」
「はい」
リンの前をさっと歩くショウの後に続きます。化粧室の前には赤い絨毯は敷かれていません。乳白色の大理石は、磨き込まれちり一つ落ちていませんでした。それだけでなく大理石に穴があいている、欠けているなどの劣化も見られません。全てを完璧にしようという教会側の不備はまったくもって見られませんでした。それだというのにです。リンのはいているブーツのヒールが、何かにはさまりました。つんのめって倒れそうになり、小さく声をあげると振り向いたショウが慌てて手を差し伸べます。リンがショウの腕に捕まろうとすると、身体が後ろに引っ張られました。
「え?何?」
「リンさん!」
ショウの顔色が変わります。リンはどうなっているのかわかりませんでした。ただ、ショウの顔がぼやけて、まるで、きりが立ち込めたように隠れていきます。リンの腕をしっかり掴んでいるはずの感触が消えてなくなりそうになり、リンは背筋がひやりとしました。
もしかして、私だけ別の空間に引っ張り込まれようとしてる?
このオークション会場に別の空間への入り口があることは知っていました。そういった特徴を活かしたイベントを企画してお客さんを集める業者もいたのも知っています。ですが、何の前触れもなく、まるで落としあ穴にでも落ちるように他の空間に引っ張り込まれるはずがありません。消えていきそうなショウの感触が強くなり、目の前に真剣な表情を浮かべるショウが見えたと思ったら、リンはショウの腕の中に抱え込まれていました。乳白色の大理石の床に転がり、リンは目をつぶりました。
つづく
当協会が今回使っている会場は、歴史のある場所です。闘技場として殺し合いの場に使われてもいましたが、現在はこうしたイベント会場としての使用する業者が多くございます。さて、古では神に生贄を捧げ、神に歌と踊りを奉納し、剣技を見せたことがありました。そのためでしょうか。今お客様がいる空間とは異なった空間が存在します。異次元というものかもしれません。何、お客様が心配することは何もありません。お客様が異次元へ足を踏み入れることがないよう対処しております。さらに今までこの会場を使った業者もそのようなトラブルはございませんでした。万全を期しておりますので、ご安心下さい。
化粧室に入るとブラックパールを落札し、鬼の姿をした女に掴みかかられていた少女が鏡の前で髪を直していました。真っ赤な髪が印象的な少女は、リンに気づいてにこりと笑いました。
「さっきはごめんなさいね。騒がせちゃって」
「あ、大丈夫ですか?怪我とかしませんでしたか?」
リンが黒のボレロを脱ぐと、ハンカチを水でぬらしオレンジジュースがこぼれた個所をゆっくり叩きました。少女は茶色の瞳を和らげます。
「スタッフの人がすぐに対応してくれたから大丈夫。もしかして、飲み物か食べ物をこぼしてしまったの?」
「ちょっとぼんやりしていて、グラスを傾けてしまって」
「私もよくやるわ。ちょっと残念な気分よね」
「子供みたいで、恥ずかしいわ」
通鷹とショウがそろって手を差し伸べるのを思い出してリンは頬を赤らめます。幼子を心配するような二人の様子に、その場にいるのが恥ずかしくなりました。
「あなたは欲しい物は手に入った?それともこれから?」
「あ、はい。私が欲しいのは靴なんですけど、本命はピンクのリボンなの。最後の方だったと思います」
「ピンクのリボン…結ぶだけで、春風が吹く春の女神の持ち物だったわね」
「え、ええ」
ピンクのリボンと言っただけでスラスラと特徴を言った少女に驚いた表情を見せます。リンは自分と高時、通鷹が狙っているものの特徴は覚えていましたが、他はうろ覚えでした。
「あなたは、ブラックパールの他に何かあるんですか?」
きょとんとした表情を浮かべて少女はころころと笑いました。
「いいえ。ブラックパールに全財産使ってしまったの。これからは観賞するだけよ」
「全財産…ずいぶんな額だったと」
「ええ、父に頼まれていたのものでね。これでダメだったらどうしようかとハラハラしたわ」
二人で話をしていると、化粧室の出入り口の向こうから、遠慮がちにごほんと咳払いをする音が聞こえます。少女は出入り口に向かって声をあげました。
「タカダ!今行くわ。ごめんなさい。そろそろ行かないと」
少女はリンにウィンクをして化粧室を出ていきます。リンもにっこり笑って、見送りました。黒のボレロを着て化粧室を出ると、壁にもたれていたショウがリンの方を向いて左手首につけている腕時計を指さしました。
「リンさん、そろそろ行こう。」
「はい」
リンの前をさっと歩くショウの後に続きます。化粧室の前には赤い絨毯は敷かれていません。乳白色の大理石は、磨き込まれちり一つ落ちていませんでした。それだけでなく大理石に穴があいている、欠けているなどの劣化も見られません。全てを完璧にしようという教会側の不備はまったくもって見られませんでした。それだというのにです。リンのはいているブーツのヒールが、何かにはさまりました。つんのめって倒れそうになり、小さく声をあげると振り向いたショウが慌てて手を差し伸べます。リンがショウの腕に捕まろうとすると、身体が後ろに引っ張られました。
「え?何?」
「リンさん!」
ショウの顔色が変わります。リンはどうなっているのかわかりませんでした。ただ、ショウの顔がぼやけて、まるで、きりが立ち込めたように隠れていきます。リンの腕をしっかり掴んでいるはずの感触が消えてなくなりそうになり、リンは背筋がひやりとしました。
もしかして、私だけ別の空間に引っ張り込まれようとしてる?
このオークション会場に別の空間への入り口があることは知っていました。そういった特徴を活かしたイベントを企画してお客さんを集める業者もいたのも知っています。ですが、何の前触れもなく、まるで落としあ穴にでも落ちるように他の空間に引っ張り込まれるはずがありません。消えていきそうなショウの感触が強くなり、目の前に真剣な表情を浮かべるショウが見えたと思ったら、リンはショウの腕の中に抱え込まれていました。乳白色の大理石の床に転がり、リンは目をつぶりました。
つづく
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