1 / 8
おんぼろアパート
しおりを挟む
古い古いアパートだ。新しい住宅地にぽつんと建つ木造のアパートは二階建て。昭和の匂いがただよい、好きな人は好きなんだろうなって思うくらい鄙びた雰囲気だ。
庭は手入れされているけれど、あまりキレイにするのは大家が嫌がるため、草はぼうぼうになっていたりする。おかげで、ヤモリやクモや時には猫が潜んでいたりする。
それでもこのアパートは長く部屋が空室になることはない。一階に四部屋、二階に四部屋。裏には大家の家族が住む一軒建ての家があるけれど、大家自身は一階の道路に面した手前の部屋に住んでいて、住んでいる人に何かあればすっと玄関の扉を開けるのだ。
七十歳を超えても黒々とした髪は、絶対染めているのだろうと住居者は噂する。十年以上住むこのアパートの住人が、もしかしたら妖怪かもしれないね。だって、十年前と見た目が変わっていないものとカラカラと笑う。背筋はしゃんと伸びていて、ハイカラなワンピースを着ている細身の女性だ。たまに新聞を読むために老眼鏡をかけているけれど、若い頃は目が良くて、遠くのものでもしっかり見ることができたらしい。
近くでカンカンカンカンと遮断機が下りて行く時の音が鳴り響く。このアパートが古くても人気があるのは、駅に近いせいもある。走れば五分の距離は正直ありがたい。他のアパートをであれば高い家賃は、大家の道楽でやっているに違いないと思えるくらい安いのだ。駅の周辺には昔から変わらず活気のある商店街で、買い物ができてしまう。電車で二駅ほども行けば大型ショッピングセンターがあるから、それほど不便は感じない。
ただ、木造の古いアパートに女一人で住むのはどうしても不安だった。本当なら、もっとセキュリティがちゃんとした最新のアパートに住むはずだったのにとため息をつく。
同棲していた彼氏と喧嘩して家を飛び出し、すぐに引っ越せたのがこのアパートだった。また新しく探せば良いとは思っていたけれど、金額と見合う部屋がなかなかない。引越して一週間経つころには、大家や隣の住人と話す機会もできてますます探すのが億劫になっていた。
大学三年生の篠村早苗は、狭いアパートの一室。畳の真ん中で大の字になった。狭いけれどもトイレとお風呂があるなんてすごいことだ。簡易キッチンはあまりに狭くて物足りないけれど、はっきり言って一人暮らしの女子大生にはぴったりだと思う。
先日まで住んでいた広いマンションは彼氏の親が支払いをしていた。最初の頃は有頂天になっていたけれど、家賃も払わずに住んでいることへの居心地の悪さから、自分も家賃を出すと言ったのが喧嘩のきっかけだ。
『俺が良いって言ってるんだから、良いの』
『でも、その、結婚してるわけじゃないんだから、少しは払うよ』
折半でと言いたくても、とてもじゃないけど払えない。彼は親から生活費もずいぶん出してもらってる。家が資産家らしいけれど、そんな様子をみじんも見せない爽やかさが良かったのに。金銭感覚の違いっていうのは大きいいんだとしみじみ実感しているところだ。
高いのは家賃ばかりじゃない。生活の中で使うものがいちいち高い。食材をあまらすのはもったいないということで、無節操に買い物かごに食べ物を入れるのは避けていた。それでもネットで欲しいものがあれば、ワンクリックで買える世の中だから、思わず買ってしまったこともある。
大の字になっていた早苗のそばをちょろちょろと小さな生き物が横切っていく。
(また、ヤモリが入ってきた)
顔をしかめて追い払うしぐさをすると、ヤモリはこちらをきょとんと見て、特に怖がるでもなく気にするでもなく部屋の中をちょろちょろ走って、どこかへ消えていった。
(これさえなければ、最高なんだけどな)
初めてヤモリを目にした時は驚いたけれど、虫も触ったことのない現代っ子というほど苦手じゃない。小さい頃はトカゲを追いかけまわしていた。
(そういえば、カマキリやバッタも捕まえて遊んでたよね)
大の字になって寝ていた私は大学の講義を受けるために起き上がった、彼氏とはあれから顔を合わせていない。連絡もあれきり取っていないから、これで終わりだろうとため息をついた。
(私、バカだったな)
頭を抱えてため息をつく。つき合った期間はほんの一ヶ月。一緒に住んだのは二週間ほど。もともと真面目な性質の私は、支払ってもらった物の数々を思い出してもう一度ため息をついた。
庭は手入れされているけれど、あまりキレイにするのは大家が嫌がるため、草はぼうぼうになっていたりする。おかげで、ヤモリやクモや時には猫が潜んでいたりする。
それでもこのアパートは長く部屋が空室になることはない。一階に四部屋、二階に四部屋。裏には大家の家族が住む一軒建ての家があるけれど、大家自身は一階の道路に面した手前の部屋に住んでいて、住んでいる人に何かあればすっと玄関の扉を開けるのだ。
七十歳を超えても黒々とした髪は、絶対染めているのだろうと住居者は噂する。十年以上住むこのアパートの住人が、もしかしたら妖怪かもしれないね。だって、十年前と見た目が変わっていないものとカラカラと笑う。背筋はしゃんと伸びていて、ハイカラなワンピースを着ている細身の女性だ。たまに新聞を読むために老眼鏡をかけているけれど、若い頃は目が良くて、遠くのものでもしっかり見ることができたらしい。
近くでカンカンカンカンと遮断機が下りて行く時の音が鳴り響く。このアパートが古くても人気があるのは、駅に近いせいもある。走れば五分の距離は正直ありがたい。他のアパートをであれば高い家賃は、大家の道楽でやっているに違いないと思えるくらい安いのだ。駅の周辺には昔から変わらず活気のある商店街で、買い物ができてしまう。電車で二駅ほども行けば大型ショッピングセンターがあるから、それほど不便は感じない。
ただ、木造の古いアパートに女一人で住むのはどうしても不安だった。本当なら、もっとセキュリティがちゃんとした最新のアパートに住むはずだったのにとため息をつく。
同棲していた彼氏と喧嘩して家を飛び出し、すぐに引っ越せたのがこのアパートだった。また新しく探せば良いとは思っていたけれど、金額と見合う部屋がなかなかない。引越して一週間経つころには、大家や隣の住人と話す機会もできてますます探すのが億劫になっていた。
大学三年生の篠村早苗は、狭いアパートの一室。畳の真ん中で大の字になった。狭いけれどもトイレとお風呂があるなんてすごいことだ。簡易キッチンはあまりに狭くて物足りないけれど、はっきり言って一人暮らしの女子大生にはぴったりだと思う。
先日まで住んでいた広いマンションは彼氏の親が支払いをしていた。最初の頃は有頂天になっていたけれど、家賃も払わずに住んでいることへの居心地の悪さから、自分も家賃を出すと言ったのが喧嘩のきっかけだ。
『俺が良いって言ってるんだから、良いの』
『でも、その、結婚してるわけじゃないんだから、少しは払うよ』
折半でと言いたくても、とてもじゃないけど払えない。彼は親から生活費もずいぶん出してもらってる。家が資産家らしいけれど、そんな様子をみじんも見せない爽やかさが良かったのに。金銭感覚の違いっていうのは大きいいんだとしみじみ実感しているところだ。
高いのは家賃ばかりじゃない。生活の中で使うものがいちいち高い。食材をあまらすのはもったいないということで、無節操に買い物かごに食べ物を入れるのは避けていた。それでもネットで欲しいものがあれば、ワンクリックで買える世の中だから、思わず買ってしまったこともある。
大の字になっていた早苗のそばをちょろちょろと小さな生き物が横切っていく。
(また、ヤモリが入ってきた)
顔をしかめて追い払うしぐさをすると、ヤモリはこちらをきょとんと見て、特に怖がるでもなく気にするでもなく部屋の中をちょろちょろ走って、どこかへ消えていった。
(これさえなければ、最高なんだけどな)
初めてヤモリを目にした時は驚いたけれど、虫も触ったことのない現代っ子というほど苦手じゃない。小さい頃はトカゲを追いかけまわしていた。
(そういえば、カマキリやバッタも捕まえて遊んでたよね)
大の字になって寝ていた私は大学の講義を受けるために起き上がった、彼氏とはあれから顔を合わせていない。連絡もあれきり取っていないから、これで終わりだろうとため息をついた。
(私、バカだったな)
頭を抱えてため息をつく。つき合った期間はほんの一ヶ月。一緒に住んだのは二週間ほど。もともと真面目な性質の私は、支払ってもらった物の数々を思い出してもう一度ため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる