はじまり

天鳥そら

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第三部幸福のひと31

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~幸福の人~ 


ひとしきり騒いだあと、港を離れる時刻になりました。 
みんなそれぞれ持ち場につきます。 
錨をあげて真っ白な帆を張り、ゆっくりと大海原へと 
船をこぎだします。 

やわらかく湿った風も照りつける太陽すらも、 
ルエラは懐かしく思いました。 

船が順調にすべりだし、出発する時の慌ただしさが 
去ったころ、リクが甲板へとやってきました。 
白い帽子をかぶり、手すりによりかかって海を眺める 
ルエラの隣に立ちます。 
ルエラと同じように手すりによりかかり、ぽつりとつぶやきました。 

「僕は安心したよ」 

妙にしんみりとした声に、ルエラは帽子を押えて 
リクを仰ぎ見ます。 

「僕は…君がもう船に乗りたがらないと思ったんだ」 

ルエラは、昔から森や大地が好きでした。 
新緑の中を歩くルエラをリクはいつも見ていました。 
海には森も山もありません。ほんの少しの滞在で 
港を離れることが多く、今回初めての長期滞在でした。 

楽しそうに庭いじりをするルエラを見る内に、 
もう、海に一緒にでてくれなくなるかと思ったのです。 

「君は来てくれた」 

不意に涙がにじみ、ふいと顔をそらします。 
少し頬を赤くしている夫にルエラは言いました。 

「私、海も大好きなのよ」 

  
 知ってた? 

明るい声に導かれて、顔をあげます。 
幼いころからちっとも変わらない笑顔にぶつかって、 
リクは微笑みました。 

「僕は幸福だ」 

優しくルエラを抱きしめます。 
はずみでルエラの帽子が飛んで、青い空をうつした 
真っ青な海へとおちました。 

青と白の波間にゆらゆら揺れて、白い帽子は船から 
遠ざかっていきます。 

あいかわらずの良いお天気で、今回の船旅も順調のようです。 



おわり 


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