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【プレイヤー 編】
失敗
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――失敗しちゃいました……。
EXを始めてから、マイケルとして楽しくも必死に経験値を稼ぐこと、一年。米子は最大の危機を迎えてしまう。
それは、アバターの死線。
米子の現在地は『苟且の塔』四三階層、中腹。
またの名を『かりそめ』と呼ばれた重要性があるとも思えない謎の塔。
毎年夏休みに休みにも関わらず休ませる気がないのか、期間限定により七日間のみ出現する厄介な塔。
今回で三度目となる、苟且の塔の最上部は四八階層にも及ぶ。
通称『かりそめ』と称される塔の魅力は、レアなキャラクターが通常フィールドより多く現れることにある。言い換えれば、このEXの世界で厳選されたモンスターが七日間だけ苟且の塔に転送されてくる仕組み。
無限に沸きでるモブキャラと称されたモンスターもいなければ、期間限定モンスターなど以ての外。それがEXの拘りであり『新しいキャラクターはゲーム内の生命として産まれてくるもの』との考えから。
「あ、これ、無理」
こう、米子が死を覚悟したのには、もちろん理由がある。
米子がいる四三階層は上級者向けのモンスターが多く生息する。
中級者程度の実力しかない彼女では、階層モンスターの姿を見ただけで鼻血により多量死できるであろう強敵。単体の彼女なら、せいぜい三〇階層登れたら良いところ。
では、なぜその米子が四三階層まで到達できたのだろう。
◇
今から約五時間前、午前一〇時を三分ほど経過した頃。
米子は夏休み期間中で、毎日EX三昧。
本日は苟且の塔が出現する最終日、ということもあり、パーティーメンバーを求めていた。この塔の一〇、二〇、三〇、四〇階層に設置されたモンスターの現れない安全階層へプレイヤーたちが集まり、同行する仲間を探し求める。
一度でも安全階層に設置された『転送陣』と呼ばれる便利な魔方陣を起動すれば、いつでも瞬時に移動可能となる仕組み。とはいえ、どこにでも設置されているわけではなく、転送陣が設置されていなければ当然移動はできない。
(何とか三〇階層までこれたけど……この先はパーティーじゃないと、ちょっと厳しいな。今日までだし、もっと上層へ行ってみたいけど)
米子は三〇階層にある転送陣を二日ほど前に起動しており、このまま上層部を目指すつもりで仲間を探す。
デスペナルティで復活する代償は所持経験値の半分。
始めて二、三ヶ月間は死と復活の繰り返しばかりで、いつになっても強くはなれなかった。
でも、今は違う。
ここ一〇ヶ月間、米子は死滅することなく地味に格下のモンスターを倒してきた。それなりに強くはなった、と自信に満ち溢れた様子を見せ、鼻高々。
……そんな自身の驕りが罠とも知らずに。
米子はパーティー募集の掲示板を眺め、自分に見合った仲間を検索。パーティーメンバーの条件は『回復役を欲している』と『三〇階層以上たどり着いたも者』の二点。パーティーメンバーは最大で五名まで。
今の米子は回復魔法が使える、と言うより現在の米子には回復魔法しか使わない。
EXに職種は多数存在するが、始めから好きな職種を選べない。
固有のスキルを獲得した時に初めて職種が決定される。
固有スキルとは、名の通り個人のみ取得できるスキルで、それはプレイヤーに限らず、NPCやモンスターも取得できる。それは戦闘スキルに限らず多種多様。
固有スキル以外のスキルなら経験値で覚えたり、好きなだけとはいかないが複数持てる。しかし、魔法を使用したい場合はひとつの属性のみしか詠唱できず、武器スキルを使用したい場合も、ひとつの武器のみへ依存する。
他の属性魔法を覚えたいときや、他の武器を使いたいときは、覚えた魔法やスキルをリセットする以外、方法がないのだ。
だからこそ、米子は光属性の回復しか使わない。
べつに光属性は攻撃魔法が無いとの理由ではなく、米子自身が攻撃を行わないだけ。その回復魔法しか使わない理由は、ゲーム開始から一年も経つのに全く固有スキルが覚えられないからである。
米子はこの一年、未だ固有スキルの取得は無し。
この固有スキルは、何かに特化にすることで固有スキルを取得する確率が、より一層高くなる仕様。それを考慮し回復のみに専念、固有スキル取得を狙っている。
通常のプレイヤーなら、二、三カ月もすれば取得しているのだが、固有スキルは突然覚えるものであり、運に左右されてしまうのが現状。米子の運が悪いからと言われても否定はできないだろう。
とにかく、今は回復役の必要そうなパーティーを探す。
募集掲示板と睨めっこすること約二〇分。
回復役を欲しがるパーティーは多々あったが、上層部を目指すからには強いメンバーや、バランスも考えつつ――そして、米子は遂に好みの募集パーティーを見つけた。
【最強の俺様がいる、最強パーティーにて限定一名のヒーラー募集! メンバーは、剣、斧、炎魔、氷魔。メンバー全員四五階層まで経験済み。参加希望者は”ささやき給え”!】
ヒーラーとは回復役、炎魔や氷魔とは、魔法使いのことを指す。
要約すると『現在、剣士、斧戦士、火属性を使う魔法使い、水属性を使う魔法使い、の計四名。このメンバーに加え一名の回復役を求む』と、記されている。
(これ、いいかも? みんな強そう。ちょうど三〇階層だし……)
思い立ったが吉日と、米子は”ささやき”を送る。
この、ささやきとは決して耳元で行う行為を言っているのではなく、プレイヤー個人に対して、メールのようなメッセージを送るというもの。
(――よし、送信。ふぅ……とりあえず返信待ちか)
こう、相手の返事を心待ちとする米子は、少々緊張気味な様子。
所詮は他人なのだと、メッセージを無視されることも多々ある。
待ち望むこと数分後、メッセージが――
《”Re:あなたは女性ですか?”》
(はい? よく分からないけど、まあいいか。とりあえず返信……、と)
何が聞きたいのか分からない、といった疑問はあったが、米子は「女性です」と返事を送る。
その数秒後。《”Re:採用”》(――早ッ)
その採用基準を疑うところではあるが、何はともあれ米子はホッと一息つき、パーティーメンバーへ参加できたと小さな胸を撫で下ろす。だが、その胸のサイズを本人へ聞くことは己の死期を早めるだろう。
その後、同じ階層にある噴水広場で合流する事となった米子。
掲示板の設置された場所から、噴水広場までは数分で事足りるため、あまり急ぐ必要はないのだが、他のメンバーを待たせてはいなけいと思い、なるべく早く着きたいところ。
気の焦りから進む歩みは次第に早足となり、思いのほか短時間で目的地までたどり着けた。
噴水広場には、人だかりができている。
――もしかして人気のパーティーだったのだろうか……きっと強いパーティーなのだろう。集まった人数から察すると、稀にしか見ることの出来ない結構な強さ。
米子は、こんなことを考えながら、その人だかりへ近づいてゆく。
過去二回における最高は四五階層。現時点で、苟且の塔を制したパーティーは存在しないと言われている。だからこそ、四五階層まで登りつめたパーティーは最強クラスと言えよう。
傲慢そうな青年剣士が、人だかりの中心部に立っている姿が見える。
「”寄生者”ども、よくぞ集まってくれた! 俺様の強さは当然、知っているよな? 本日は苟且の最終日……、だ! 言いたいことは分かっているだろ?」
「「「「「うぉおおぉおおお! 今年こそ攻略たのむぜ!」」」」」
大きな声を張り上げて偉そうなことを口にした青年剣士は、どうやら米子の参加するパーティーリーダーのようだ。『寄生者』とは、弱い者が強い者に頼って戦闘に参加するプレイヤーのことである。
(た、たぶんあの人のパーティーと思うけど。なんか、注目とか浴びちゃってて入りづらいなあ……とりあえず様子みよっ、かな?)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【プレイヤー編】では、”驚愕”?の結果が待っております。
宜しければ、もう少しお付き合いいただけると、著者は”ほくそ”笑みます(嘘です)。
EXを始めてから、マイケルとして楽しくも必死に経験値を稼ぐこと、一年。米子は最大の危機を迎えてしまう。
それは、アバターの死線。
米子の現在地は『苟且の塔』四三階層、中腹。
またの名を『かりそめ』と呼ばれた重要性があるとも思えない謎の塔。
毎年夏休みに休みにも関わらず休ませる気がないのか、期間限定により七日間のみ出現する厄介な塔。
今回で三度目となる、苟且の塔の最上部は四八階層にも及ぶ。
通称『かりそめ』と称される塔の魅力は、レアなキャラクターが通常フィールドより多く現れることにある。言い換えれば、このEXの世界で厳選されたモンスターが七日間だけ苟且の塔に転送されてくる仕組み。
無限に沸きでるモブキャラと称されたモンスターもいなければ、期間限定モンスターなど以ての外。それがEXの拘りであり『新しいキャラクターはゲーム内の生命として産まれてくるもの』との考えから。
「あ、これ、無理」
こう、米子が死を覚悟したのには、もちろん理由がある。
米子がいる四三階層は上級者向けのモンスターが多く生息する。
中級者程度の実力しかない彼女では、階層モンスターの姿を見ただけで鼻血により多量死できるであろう強敵。単体の彼女なら、せいぜい三〇階層登れたら良いところ。
では、なぜその米子が四三階層まで到達できたのだろう。
◇
今から約五時間前、午前一〇時を三分ほど経過した頃。
米子は夏休み期間中で、毎日EX三昧。
本日は苟且の塔が出現する最終日、ということもあり、パーティーメンバーを求めていた。この塔の一〇、二〇、三〇、四〇階層に設置されたモンスターの現れない安全階層へプレイヤーたちが集まり、同行する仲間を探し求める。
一度でも安全階層に設置された『転送陣』と呼ばれる便利な魔方陣を起動すれば、いつでも瞬時に移動可能となる仕組み。とはいえ、どこにでも設置されているわけではなく、転送陣が設置されていなければ当然移動はできない。
(何とか三〇階層までこれたけど……この先はパーティーじゃないと、ちょっと厳しいな。今日までだし、もっと上層へ行ってみたいけど)
米子は三〇階層にある転送陣を二日ほど前に起動しており、このまま上層部を目指すつもりで仲間を探す。
デスペナルティで復活する代償は所持経験値の半分。
始めて二、三ヶ月間は死と復活の繰り返しばかりで、いつになっても強くはなれなかった。
でも、今は違う。
ここ一〇ヶ月間、米子は死滅することなく地味に格下のモンスターを倒してきた。それなりに強くはなった、と自信に満ち溢れた様子を見せ、鼻高々。
……そんな自身の驕りが罠とも知らずに。
米子はパーティー募集の掲示板を眺め、自分に見合った仲間を検索。パーティーメンバーの条件は『回復役を欲している』と『三〇階層以上たどり着いたも者』の二点。パーティーメンバーは最大で五名まで。
今の米子は回復魔法が使える、と言うより現在の米子には回復魔法しか使わない。
EXに職種は多数存在するが、始めから好きな職種を選べない。
固有のスキルを獲得した時に初めて職種が決定される。
固有スキルとは、名の通り個人のみ取得できるスキルで、それはプレイヤーに限らず、NPCやモンスターも取得できる。それは戦闘スキルに限らず多種多様。
固有スキル以外のスキルなら経験値で覚えたり、好きなだけとはいかないが複数持てる。しかし、魔法を使用したい場合はひとつの属性のみしか詠唱できず、武器スキルを使用したい場合も、ひとつの武器のみへ依存する。
他の属性魔法を覚えたいときや、他の武器を使いたいときは、覚えた魔法やスキルをリセットする以外、方法がないのだ。
だからこそ、米子は光属性の回復しか使わない。
べつに光属性は攻撃魔法が無いとの理由ではなく、米子自身が攻撃を行わないだけ。その回復魔法しか使わない理由は、ゲーム開始から一年も経つのに全く固有スキルが覚えられないからである。
米子はこの一年、未だ固有スキルの取得は無し。
この固有スキルは、何かに特化にすることで固有スキルを取得する確率が、より一層高くなる仕様。それを考慮し回復のみに専念、固有スキル取得を狙っている。
通常のプレイヤーなら、二、三カ月もすれば取得しているのだが、固有スキルは突然覚えるものであり、運に左右されてしまうのが現状。米子の運が悪いからと言われても否定はできないだろう。
とにかく、今は回復役の必要そうなパーティーを探す。
募集掲示板と睨めっこすること約二〇分。
回復役を欲しがるパーティーは多々あったが、上層部を目指すからには強いメンバーや、バランスも考えつつ――そして、米子は遂に好みの募集パーティーを見つけた。
【最強の俺様がいる、最強パーティーにて限定一名のヒーラー募集! メンバーは、剣、斧、炎魔、氷魔。メンバー全員四五階層まで経験済み。参加希望者は”ささやき給え”!】
ヒーラーとは回復役、炎魔や氷魔とは、魔法使いのことを指す。
要約すると『現在、剣士、斧戦士、火属性を使う魔法使い、水属性を使う魔法使い、の計四名。このメンバーに加え一名の回復役を求む』と、記されている。
(これ、いいかも? みんな強そう。ちょうど三〇階層だし……)
思い立ったが吉日と、米子は”ささやき”を送る。
この、ささやきとは決して耳元で行う行為を言っているのではなく、プレイヤー個人に対して、メールのようなメッセージを送るというもの。
(――よし、送信。ふぅ……とりあえず返信待ちか)
こう、相手の返事を心待ちとする米子は、少々緊張気味な様子。
所詮は他人なのだと、メッセージを無視されることも多々ある。
待ち望むこと数分後、メッセージが――
《”Re:あなたは女性ですか?”》
(はい? よく分からないけど、まあいいか。とりあえず返信……、と)
何が聞きたいのか分からない、といった疑問はあったが、米子は「女性です」と返事を送る。
その数秒後。《”Re:採用”》(――早ッ)
その採用基準を疑うところではあるが、何はともあれ米子はホッと一息つき、パーティーメンバーへ参加できたと小さな胸を撫で下ろす。だが、その胸のサイズを本人へ聞くことは己の死期を早めるだろう。
その後、同じ階層にある噴水広場で合流する事となった米子。
掲示板の設置された場所から、噴水広場までは数分で事足りるため、あまり急ぐ必要はないのだが、他のメンバーを待たせてはいなけいと思い、なるべく早く着きたいところ。
気の焦りから進む歩みは次第に早足となり、思いのほか短時間で目的地までたどり着けた。
噴水広場には、人だかりができている。
――もしかして人気のパーティーだったのだろうか……きっと強いパーティーなのだろう。集まった人数から察すると、稀にしか見ることの出来ない結構な強さ。
米子は、こんなことを考えながら、その人だかりへ近づいてゆく。
過去二回における最高は四五階層。現時点で、苟且の塔を制したパーティーは存在しないと言われている。だからこそ、四五階層まで登りつめたパーティーは最強クラスと言えよう。
傲慢そうな青年剣士が、人だかりの中心部に立っている姿が見える。
「”寄生者”ども、よくぞ集まってくれた! 俺様の強さは当然、知っているよな? 本日は苟且の最終日……、だ! 言いたいことは分かっているだろ?」
「「「「「うぉおおぉおおお! 今年こそ攻略たのむぜ!」」」」」
大きな声を張り上げて偉そうなことを口にした青年剣士は、どうやら米子の参加するパーティーリーダーのようだ。『寄生者』とは、弱い者が強い者に頼って戦闘に参加するプレイヤーのことである。
(た、たぶんあの人のパーティーと思うけど。なんか、注目とか浴びちゃってて入りづらいなあ……とりあえず様子みよっ、かな?)
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