七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

文字の大きさ
9 / 53
【プレイヤー 編】

チキンは謝罪する

しおりを挟む
「あ、そうだ! 最上層目指すまえに、ここでフレンド登録しておこうよ。ね、マイコちゃんいいでしょ?」

 こう、ベニネコが提案すると。

「うっす! 自分も、おっしゃっしゃす!」
「わたしも……です」
「有り難く思え。俺様のフレンドにしてやる」

 他の三人も、フレンド登録を希望。

 フレンドは嬉しいことだが、本来の登録名を知り得た後に、マイコからマイケルに呼び名が変更されるのはどうにかして避けたいと思う。

「あ、あのー。正直、フレンドは嬉しいのですが……わたしの登録名、なぜか間違えてしまって。お、驚かないで下さいね? あと出来れば、これからもマイコと呼んでくれるとありがたいです」

 米子は、少しもじもじした仕草で、判然とせず小さな声で話す。
 それを聞いたメンバーは、なぜか気にした様子もなく、寧ろ”驚くわけがない”と言いたげな様子。

「おっけー! マイコちゃん」
「うっす! マイコはん!」
「畏|(まり)……です」
「登録名なんか、どーでもいいし? マイコはマイコだろ?」

 力士山の言い方だと『舞妓はん』などと勘違いされそうだが、ここで触れるつもりは無いだろう。そんな事より重要なのは、メンバーたちの躊躇なく答えてくれた姿であり、自身に向けられた優しい笑顔。

 結局、名前を気にするのは小さな事で、ただの偏見だったかもしれない。そう今までの考えを思い正せば、現実世界で自分の名を気にしていることも、何となく馬鹿らしいとも思える。

 EX開始から一年、米子が初めて「また同じメンバーで冒険がしてみたい」と感じた瞬間であった。

「まあでも、たまーにいるんだよね。ネーム間違えて登録しちゃうひとー」
「え? そうなんですか? わたしだけかなって――」
「いる……チキンも、そう。……です」

 登録名を間違ってしまった米子としては、興味深い会話。
 確かに、名前を登録する時は口頭で伝えるものであって、滑舌が悪いと登録ミスの可能性も考えられる。

 米子の場合は、タマ(クマ)が原因だったのだが……。

「あー だな。べつに俺様はネームとか気にしてねーけど」
「チキンは全然気にしてないよねー。チキンって呼んでるのは、登録名が呼び辛かっただけだもんねー」
「よ、良かったぁ……同じ仲間がいて嬉しいです。なんか気分が楽になっちゃいました! では、みなさんとフレンド登録しますね」

 フレンド登録の方法はひとつのみ。
 それは互いが合意の上、握手すること。
 簡単な方法ではあるが、無理に申請されることもないないため、トラブルは少ないと言えよう。

 握手後には申請の確認が行われ、みごと承認されれば登録完了だ。

「はい、はい! じゃー、わたしからー!」

 先ずは、我れ先と名乗りでたベニネコと握手をかわす。
 握手後、突如として米子とベニネコの頭上から姿を現わしたのは、サポーターと呼ばれる者たち。

「オッス! おいらはタマだぉ!」

 タマは、米子の肩に座るようにして挨拶すると。

「コニチワー! わたしはキララでぇす!」

 同時に、ベニネコの肩に乗るキララも挨拶を贈る。キララはネコ型のサポーター。
 サポーターの瞳に、いくつかのプログラム言語が映し出される。

「「フレンド申請確認しました」」

 二体同時にマスターへ確認を告げた。

「「マスター。承認しますか?」」

 と、声を合わしサポーターは承認を求め。

「オッケー!」
「わたしも、おっけーです」

 それぞれのマスターが口頭で承認。すると、サポーターはマスターの肩から離れ、ふわふわと浮きながら近づき、ひしっと抱擁。

 その抱き合う姿が、可愛らしい事この上ない。

「「フレンド登録、完了ッ!」」

 こんな感じでフレンド登録が行われる。

 登録後は、フレンド帳と称された手帳のような物に名前が記され、以後フレンド帳を使いメッセージや、場所によるが直接話すことも可能だ。

 フレンド登録時には、一連の流れをひとりひとり行う。二番目はレイカ、三番目は力士山、最後にチキンの順で登録の全てを終えて一息つく。

「あ、マイケルなんだ? 結構ありじゃん? 可愛いカモ?」

 さっそくフレンド帳を確認したベニネコが、ニコニコと嬉しそうに言う。

「え? そうですか? 本当はマイコって言ったつもりなんですが、何故かマイケルに……お恥ずかしい」

「あははっ! そうなんだ? 全然いいじゃーん! チキンなんて、リアルだと本当恥ずかしいキャラだからねー。だって、目が合うとすぐ謝ってくるもん」

「ば、馬鹿やろう! リアルの話はいいだろ! ここで強きゃいいんだよ! それにリアルで謝るのは癖なんだから仕方がないだろ!」

 現実世界だとショッパイけど、ゲーム世界では偉そうな奴。それがチキンの現実と仮想。

 これは珍しいことではなく、ゲーム世界のみ強気のプレイヤーなど良くあること。本当は何かを隠しながらゲームをするものは多く、またそれもゲームなのだ。

 仮想空間になりたい自分を求めることは、ゲームを楽しむ方法のひとつ。

「へぇー。現実でも二人は友達なんですね?」
「そそ。あとレイカは、わたしの親友だしー。力士君も、いちお友達かな」
「……です」
「はあ。い、一応……っすか」

 コクコクと頭を縦に振り頷くレイカ。力士山は、どこか悲し気な表情だが無視しようと思う。

 米子は元々、友達からの誘いでEXを始めたが、友達が飽き性だったのか三ヶ月ほどで早々に引退。その後は、仲の良い友達などできず孤独だった。
 そんなこともあり、リアルでもゲームでも仲の良い四人の姿は、いつもひとりだった米子にとっては羨ましく、そして淋しくも。

 メンバー全員が、フレンド帳を手にしてわいわいと楽しげに騒ぐ。
 そして、もちろん米子もフレンド帳を確認し、楽しく会話しながら気付いてしまった。

(あ、そかそか。チキンって呼ばれているのは、この名前からきてるのか)

 と、手にしたフレンド帳を記された名前を見て、米子は心中で納得する。

 名前登録時にチキンは現実世界での癖が出てしまったのだろう。
 彼はどうやらサポーターに謝ってしまった結果だと、米子は気付く。

「ほら。リアルの話はいいから、先に進むぞ! 今日中にクリアしないとだからな! お前ら足引っ張るんじゃねーぞ」

 こう言って登録名『ゴメンナサイ』は、肩をなびかせつつ、のしのしと偉そうに歩き始めた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...