七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

文字の大きさ
12 / 53
【プレイヤー 編】

森のおっさん

しおりを挟む
 だが、そう上手くはないのが現実。
 
 まるで『森のクマさん』のように、オッサン(クマさん)は平然な顔して追いかけてくるではないか。だが、森に非ず。
 
 それに加えて、更に米子はやらかしたことに気づいた。それは全力疾走している方向が、上層部へ向かっているのだと――

 ――――――――――
 ――――――
 ――

 
 
 ――失敗しちゃいました……。

 米子は、それでも逃げ続ける。
 脚が何本にも見えるかの如く、高速回転。

 その努力もつかの間、アッサリと追いつかれてしまう。

 「あ、これ、無理」

 すぐ後ろまで迫るオッサンだけならまだしも、他のモンスターもウヨウヨ現れてきたのだから、死を覚悟するしかない。

 前からモンスター、後ろからオッサンとカオスな状況に頭もカァンフュゥージャン混乱状態(ヌ)。

 米子に迫りくる八体のモンスターは、待ってましたと大きな斧や爪を振り上げた。

 米子は身につけたフードマントを握りしめ、危ないときにこのマントに救われたことを思い出す。

(このフードマント、いつもわたしを救ってくれたな……今回はダメそうだけど。はあー、ここまで強くなれたのに、またやり直しかあ)

 死を覚悟した米子は、目を閉じ己の死を待つ。
 あとは、経験値半分を消費して復活するだけ――――



 ――――しかし。
 米子の背後から追い抜くようにして、眼前に立ちはだかったってきたのは、オッサンだった。

 彼は、自らが壁となり両腕を広げると、八体のモンスターは壁となった彼を攻撃した。

「え!? わたしを護ってくれたの? なんで?」

 モンスターたちの一斉攻撃で、激しい音と砂塵が舞い上がる。オッサンの真意はわからないが、米子を身を挺して護ってくれたのだ。

「ギギギ……。ドケッ! 邪魔スルナラ、オマエモ、消スッ!」

 米子の身体の何倍もある、巨大な蜘蛛の姿をしたモンスターが、オッサンへ立退くよう要請する。

「それは無理かな。俺、この子には消えてもらっちゃ困るからさ」

 彼は淡々と応えながらも、米子への壁は崩すことなく両腕は広げたまま。ゲーム世界の住人である彼が、プレイヤーを護るなどあり得ないことであり、それは米子も初めてみる光景だった。
 モンスターたちは止めることなく彼へ攻撃し続けるが、変わらず米子を護ったまま動く様子はない。

 それを見る米子も、やはり心が痛む。
 たとえゲーム世界の住人であろうと、自らの身体を傷つけ護る姿は”とても見ていられない。

「も、もういいです! わたしは消えても、やり直せばいいだけなので、もうやめてください!」

 ここEX世界での住人は、一度でも死が訪れたら復活はできない。
 プレイヤーである米子の死は復活ができるため、この世界の住人よりは軽微なこと……。

 そう思う米子は、居た堪れない気持ちで胸が張り裂けそうになった。

「ん? あ、大丈夫。ちょっとだけ、そこで待ってね」

 彼は米子へこう言った後、モンスターへ向け再び口を開く。

「住み人同士で戦うとか、もうやめないか? モンスターだからといって、この世界から消えるの平気なわけないよね? 俺あんまり戦いたくないんだどな……」

 この世界において『住み人スミビト』とは、ゲーム内キャラクターの事を指す。
 しかし、住み人と呼び合うのはゲーム内キャラクター同士のことであり、プレイヤーが住み人と呼ぶことはない。

「ギギ。コノ数ヲ相手ニシテ、オカシクナッタカ? 出来ルモノナラ、ヤッテミロッ!」

 彼の言葉は、更にモンスターの闘志をかき立ててしまう。

 そのモンスターたちに無数の猛攻を受けながらも、オッサンは顔色一つ変えずに一言。

「そっか。なら、仕方がないね」

 と、言って広げた両腕を前に。まるで手のひらで蚊を叩くようにして、パンッと両手をあわせた。


 すると――――
 瞬時に肉片が飛び散るモンスターたち。
 その数えきれないほどの肉片は、キラキラと輝きを放ちながら瞬時に広がり、やがて静かに消えてゆく。

「つ、つよ……」

 米子の眼球が飛び出しそうになり、顎も外れそうなくらい急降下。
 彼はは全てのモンスターを消し去り、事を終えたとばかりの仕草で二、三度手を叩き合わせた。

「ふぅ……とりあえず一人じゃ危ないし、追いかけてきちゃったよ。あと嬢ちゃん、忘れ物だよ」

 どこから出したのか一度手を合わせると、まるで手品師のように米子の魔道書が出現し、それを手渡す。

 まさに森のクマ……もといオッサン。米子は魔道書を自ら置いてきたつもりだったが、米子を護るためと、魔道書を手渡すためだけにわざわざ追いかけてきたのだろう。

「え? あ、はい。ありがとう……ございます」

 米子が魔道書を受け取ると、彼は目をそらすように振り向き、背を向け言う。

「この階層の奴らには、手出ししないように言っておくから安心して帰りな――って言っても、嬢ちゃんの脚速いから問題ないかな? はははっ、追いつくの大変だったよ」

 彼は、頭をぽりぽりと掻きながら照れているのか、それとも……。

 そんな彼を見ているうちに、米子はすっかり忘れていたプロポーズの事をを思い出す。
 
「あ、あの。こんなつもりじゃなかったんです……ごめんなさい。それで先ほどのお話なんですけど、わたしにはまだ早いというか。そのですね――」

 こう米子が話しかけてると、彼は背を向けたまま再び口を開く。

「ん? やっぱりあの挨拶って変なんだよね? プレイヤーと顔合わせたら、ああ言うと逃げないって知り合いに聞いたからさ。そっか、また騙されたか……もう言うのやめよう」
「え?」
「それじゃあ、俺はここで」

 彼は背中越しに片手を振り、別れを告げるとゆっくりと歩きだす。
 そして米子は今更だが自身の勘違い……ではないが、気づいてしまった。

 この謎キャラがプロポーズではなくて、ただ挨拶をしていたのだと。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...