11 / 53
【プレイヤー 編】
駆け抜けろ!
しおりを挟む
米子の前に壁を作るように、待ち構える。
メンバー全員に”護られている”と思えるこの陣形は、迷子にとって最高の幸福感。
(えへへ。みんな優しいなぁ……嬉しい)
米子は感じた幸せを言葉にはしないが、気持ちは隠し切れずニヤニヤと微笑む。
そして足音の主は、一同の視界へ入ってきた。
「「「「え!?」」」」
米子以外が、突然凍りついたかのように固まる。メンバーが壁を作っているせいか米子の視界には、はっきりとした姿は確認できない。よく分からないが、何となくプレイヤーのような気も。
「え? あの、どうしたのでしょうか? プレイヤーみたいですけど……?」
プレイヤー又は人っぽい何か、それだけは米子にも断言できる。
ならば、メンバーの動きが固まった理由が謎で、仮にモンスターだった場合でも一体だけなのだから驚く必要は無いだろう、と。
「あ、うん……ごめんなさい」
こう言って振り向いたチキンの形相は、先ほどの逃げ惑うプレイヤーと同じく、この世の終わりを迎えた様子。プルプルと震え、鼻水出しっぱ。
(このひとやっぱチキンだ! 顔、やっばっ)
と、米子が思った瞬間、彼女のために作られた壁は消え、四人は我れ先とこの場を去り始めた。
「ご、ごめんなさぁあああい!」
謝った。
「無理ぃいいい!」
拒否った。
「どすこい、どすこい、どすこいぃい!」
行動不明。
「ですですですデスででででぇええっす!」
必死らしい。
とにかく素早ぎ。四人は何かに怯えながら、静止状態から僅か五秒で約時速百キロへ到達すると言われる、チーター並みの速さで逃げてしまう。
そして、ただひとり残された米子の目の前に立っていたのは、おパンツ一丁……ではないが、激しい戦闘後なのだろう。ボロボロの服を着る如何わしき謎キャラの御登場。
プレイヤーたちは、彼のことを『オッサン』と呼ぶ。
(え? ナニコノ、謎キャラ。でも、ちょっと可愛いカモ?)
米子が出会ったこともないキャラクターだからというより、現実世界で何度も目にしてそうな中年キャラクターに、目を奪われてしまう。
ファンタジーらしからぬ普通のおじさん。
米子としては彼の容姿が普通なことも然るべきところだが、プレイヤーたちが何故逃げたのか理解できなかった。
防御力『0』に限りなく近い装備、武器無し、強さの欠片も感じさせない容姿。服がボロボロになっていることから、戦闘が行われたのではないかとの予想はつくのだが、謎に満ちた生命体。しかし、ゆるキャラ的な存在だと思う彼女は特別な子なのだろう。
米子が謎めき立ち止まっていると、彼はつかつかと米子の目の前まで近づき。
右手を後頭部へ添え、少し照れくさそうに言った。
「アンシャンテ」
(フランスのひと? ……ではないよね。――、っと言うより、そもそも人でもなかったよ)
オッサンの容姿は生粋の日本人。
見た目は日本人だが「キャラクターなら、ありなのかも」と、米子は挨拶を返す。
「はい? あ、はじめまして?」
続いてオッサンは脳裏でなにかを思い出すかのような口調で言う。
「えと、次は……。よし――」
(あ、なーんだ。このキャラ、普通に日本語を話せるのかあ。びっくりしちゃった)
「エプーズモア?」
(――なんですとっ!!?)
米子は帰国子女。フランス語の全てが分かるとはいかないが、この程度のフランス語なら分かる。
言葉の意味は分かるが、何故「結婚してください?」と疑問符がつくのかも気になるところだ。
だが、謎に満ちたこのキャラクターを前にして、米子が出せる答えはただ一つ。
「あの、その……気持ちは嬉しいのですが、突然のお話ですので少し考えさせてくれませんか?」
皆が逃げたのだから間違いなく強キャラと思う米子としては、オッサンを怒らせるわけにはいかない。そこからでた訳の分からぬ茶番劇であった。
「あれ? やっぱコレ間違ってたのかな? ま、嬢ちゃんそうが言うなら……三分で良い?」
(みじかっ)
オッサンが思いのほか辛抱強くないことに心中で突っ込む米子。
もう逃げるしかないとの考えから、持てる頭脳を駆使して何とか打開策を練るしかない――そこで思いついたのが。
「あ、あの、あまりジロジロ見られたら恥ずかしい、です。もしよろしければ答えがでるまで離れていてくれませんか? そうですね……あそこに見える柱付近で待っていてくれると助かります」
米子は百メートルほど離れた柱を指差し、伝えた。
「ん? それは構わないけど……あの柱のところまで行けばいいんだね? わかったよ」
オッサンに離れてもらって逃亡。
これしか手はないと思う米子は、女性らしからぬスターティングポーズにてダッシュの準備を整え、彼が離れて行くのを待つ。
(わたし、逃げ切れるのかな? と、とりあえず動きやすくしとこ)
米子はこう脳裏で考え、なるべく速く走るために魔道書を地に置く。この世界において、武器や防具には重量があり、手ぶらの方が移動速度が上がるという単純な理屈からである。
そして、オッサンが目的地までたどり着くと――
――駆け抜けろ! マイコォオオッ! 体力の続く限りぃいい!!
現実世界の米子が日々通う学園内において、一位二位を争うほど美しい容姿をもつ『横浜 米子』は、そりゃもう有り得ない”ツラ”して、ぐるぐると脚をフル回転させ逃亡を図った。
メンバー全員に”護られている”と思えるこの陣形は、迷子にとって最高の幸福感。
(えへへ。みんな優しいなぁ……嬉しい)
米子は感じた幸せを言葉にはしないが、気持ちは隠し切れずニヤニヤと微笑む。
そして足音の主は、一同の視界へ入ってきた。
「「「「え!?」」」」
米子以外が、突然凍りついたかのように固まる。メンバーが壁を作っているせいか米子の視界には、はっきりとした姿は確認できない。よく分からないが、何となくプレイヤーのような気も。
「え? あの、どうしたのでしょうか? プレイヤーみたいですけど……?」
プレイヤー又は人っぽい何か、それだけは米子にも断言できる。
ならば、メンバーの動きが固まった理由が謎で、仮にモンスターだった場合でも一体だけなのだから驚く必要は無いだろう、と。
「あ、うん……ごめんなさい」
こう言って振り向いたチキンの形相は、先ほどの逃げ惑うプレイヤーと同じく、この世の終わりを迎えた様子。プルプルと震え、鼻水出しっぱ。
(このひとやっぱチキンだ! 顔、やっばっ)
と、米子が思った瞬間、彼女のために作られた壁は消え、四人は我れ先とこの場を去り始めた。
「ご、ごめんなさぁあああい!」
謝った。
「無理ぃいいい!」
拒否った。
「どすこい、どすこい、どすこいぃい!」
行動不明。
「ですですですデスででででぇええっす!」
必死らしい。
とにかく素早ぎ。四人は何かに怯えながら、静止状態から僅か五秒で約時速百キロへ到達すると言われる、チーター並みの速さで逃げてしまう。
そして、ただひとり残された米子の目の前に立っていたのは、おパンツ一丁……ではないが、激しい戦闘後なのだろう。ボロボロの服を着る如何わしき謎キャラの御登場。
プレイヤーたちは、彼のことを『オッサン』と呼ぶ。
(え? ナニコノ、謎キャラ。でも、ちょっと可愛いカモ?)
米子が出会ったこともないキャラクターだからというより、現実世界で何度も目にしてそうな中年キャラクターに、目を奪われてしまう。
ファンタジーらしからぬ普通のおじさん。
米子としては彼の容姿が普通なことも然るべきところだが、プレイヤーたちが何故逃げたのか理解できなかった。
防御力『0』に限りなく近い装備、武器無し、強さの欠片も感じさせない容姿。服がボロボロになっていることから、戦闘が行われたのではないかとの予想はつくのだが、謎に満ちた生命体。しかし、ゆるキャラ的な存在だと思う彼女は特別な子なのだろう。
米子が謎めき立ち止まっていると、彼はつかつかと米子の目の前まで近づき。
右手を後頭部へ添え、少し照れくさそうに言った。
「アンシャンテ」
(フランスのひと? ……ではないよね。――、っと言うより、そもそも人でもなかったよ)
オッサンの容姿は生粋の日本人。
見た目は日本人だが「キャラクターなら、ありなのかも」と、米子は挨拶を返す。
「はい? あ、はじめまして?」
続いてオッサンは脳裏でなにかを思い出すかのような口調で言う。
「えと、次は……。よし――」
(あ、なーんだ。このキャラ、普通に日本語を話せるのかあ。びっくりしちゃった)
「エプーズモア?」
(――なんですとっ!!?)
米子は帰国子女。フランス語の全てが分かるとはいかないが、この程度のフランス語なら分かる。
言葉の意味は分かるが、何故「結婚してください?」と疑問符がつくのかも気になるところだ。
だが、謎に満ちたこのキャラクターを前にして、米子が出せる答えはただ一つ。
「あの、その……気持ちは嬉しいのですが、突然のお話ですので少し考えさせてくれませんか?」
皆が逃げたのだから間違いなく強キャラと思う米子としては、オッサンを怒らせるわけにはいかない。そこからでた訳の分からぬ茶番劇であった。
「あれ? やっぱコレ間違ってたのかな? ま、嬢ちゃんそうが言うなら……三分で良い?」
(みじかっ)
オッサンが思いのほか辛抱強くないことに心中で突っ込む米子。
もう逃げるしかないとの考えから、持てる頭脳を駆使して何とか打開策を練るしかない――そこで思いついたのが。
「あ、あの、あまりジロジロ見られたら恥ずかしい、です。もしよろしければ答えがでるまで離れていてくれませんか? そうですね……あそこに見える柱付近で待っていてくれると助かります」
米子は百メートルほど離れた柱を指差し、伝えた。
「ん? それは構わないけど……あの柱のところまで行けばいいんだね? わかったよ」
オッサンに離れてもらって逃亡。
これしか手はないと思う米子は、女性らしからぬスターティングポーズにてダッシュの準備を整え、彼が離れて行くのを待つ。
(わたし、逃げ切れるのかな? と、とりあえず動きやすくしとこ)
米子はこう脳裏で考え、なるべく速く走るために魔道書を地に置く。この世界において、武器や防具には重量があり、手ぶらの方が移動速度が上がるという単純な理屈からである。
そして、オッサンが目的地までたどり着くと――
――駆け抜けろ! マイコォオオッ! 体力の続く限りぃいい!!
現実世界の米子が日々通う学園内において、一位二位を争うほど美しい容姿をもつ『横浜 米子』は、そりゃもう有り得ない”ツラ”して、ぐるぐると脚をフル回転させ逃亡を図った。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる