七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

文字の大きさ
37 / 53
【初級者 編】

村長の老婆

しおりを挟む
 ◇
 
 予期しない出来事により、子供たちに手を引かれタッタ村へ立ち入った米子。

 その存在をも知り得なかったことにより、別世界へと移動した感覚的に陥いる
 プレイヤーだった米子としては、空音の森は別世界であり、タッタ村は別世界に近しい。そんな考えから『自分にとって別世界とは何なのだろう』と奇妙な気分。

 そして現実世界もまた、今では別世界の部類に入るのだから。

 子供たちに導かれ、村の中心へと向かう。
 森のどこに、これほどまでの土地があったのかと思える広さ。田畑や民家、更には広場のようなものまであり、NPCのみならずモンスターまでもが共に暮らしている。

 米子が村を広く感じたのは、森の広さから推測したこと。
 幻惑魔法に包まれたタッタ村は『村』とは認識されず、それ自体が存在していないとの感覚に陥る。

 例えば、異空間に存在する村と言えば良いだろう。間違いなくその地にある村なのだが、通常では立ち入ることが出来ず転送されたかのように村を飛び越えてしまう。

 それは森と村の境に境界線のような見えない壁があり、その壁に触れた場合には村へ入るのではなく、村を飛び越えた地点まで飛ばされるのである。

 村を飛び越えた先にあるのは同じ森の中であり、景色の変化は無いに等しい。
 それゆえに、自身が飛ばされたことに気付くことはない。

 その結果、村を経た土地の広さだけ森が狭いとの勘違いが生じてしまうだろう。

 これは”幻惑”ではないかもしれないが、実際にその場所に”在る”ものを『無い』と認識させる、又は”無い”のに『在る』と認識させるものを、この世界では”幻惑魔法”と呼んでいる。

 徒歩で進み、三〇分ほど経過しただろうか。
 民家の数は増え、それ相応に見かける住み人の数も多くなってきたように思える。

 のどかな農村地帯、誰かとすれ違うたびに贈られる挨拶と笑顔。
 この村が安全性に優れていることや、皆が一丸となって暮らしている……など、村へ来てわずか三〇分ほどしか経っていない米子でも、難なく知り得ることが出来た。

「この先に、婆ばの家があるんだよー! わたしもそこに住んでるのー! こっち、こっちなの!」
「え? いきなりお邪魔しても良いのかな? 会いたい気もするけど」
「ゲッ!? 婆ばのトコ行くのか?」
「ホ、ボク、そろそろお家帰ろっかな……」

 メメルは米子の手を引き『婆ば』なる人物のもとへ向かう。他のふたりはあまり気が乗らないのか、仕方なしに付き添うようだ。

「大丈夫、だいじょーぶなの! 婆ばはスッゴク怖いけど、とーっても優しいのー!」
「……そ、そうなんだ? へ、へぇー」

 その婆ばとは、怖いのか優しいのか謎は深まるばかり。米子はそれでも、村全体に幻惑魔法をかけるほどの魔法使いというだけで、恐怖心よりも好奇心のほうが上回ってしまう。

 メメルに手を引かれること約三分。
 茅葺き屋根が印象的な民家にたどり着く。

 他の民家とは一回り大きな建物とは言え、せいぜい七、八人暮らすのが限度というところか。

 メメルは飛び入るように横引き式の木材で作られた玄関を「よいしょ!」と気合いを入れ、力いっぱいガラリと引く。建て付けが悪いのか、それとも古いだけなのか、その音は大きめで重々しい感じ。

 開いた扉の向こうに見えたのは、土間をへて居間があり、その居間の中心には囲炉裏も。

 古めかしい居間ではあるが、どこか暖かみのある風景であった。

「婆ば、たっだいまぁなの!」

 こう、元気良く帰宅を告げるメメル。
 床に敷かれた座布団の上で正座する老婆は、静かに閉じた目をカッ開き言う。

「メメルや。それにガガとウィル……また村の境へ行ったんじゃな」

 上目遣いで子供たちを凝視する老婆の眼光は、その恐ろしき殺気から紛れもなく子供たちの言う『婆ば』と気づかせてくれた。

「「ひ、ひぃいい! ごめんなさぁあい!」」

 身の毛も立つ思いでガガとウィルは過剰反応し、この老婆に怯えているようだ。

 ガガとは狼牙の少年、そしてウィルとはヒューマンの少年である。

「……まったく、何度言えばわかるんじゃ。村の境には近づくなと、口が酸っぱくなるほど言っておるじゃろうて。困った子供らじゃのう。――ん? お主、初めて見る顔じゃが……その姿、”新種”のようじゃの」

 老婆は子供たちを叱る素振りを見せたが、米子の存在に気付き問いかけてきた。

「新種?」

 老婆の迫力におされ、実のところ暫し動けなかったかった米子。老婆は聞きなれない言葉を洩らしたが、先ずは挨拶というところか。

「あ、はい! 初めまして、わたしマイコって言います! 突然お邪魔しちゃってスミマセン!」

 米子は、恐怖めいた緊張から勢いよく頭を下げ、お辞儀をした。

「ふぉっふぉっふぉっ。マイコさんとやら、そんなに緊張せんでエエ。わしゃ、この村を統べるオサのゼンキじゃ。その様子じゃと……差し詰めメメルに無理矢理ここまで連れてこられた。――と、まぁそんなところじゃろうて」

「いえっ! お孫さんは、わたしをゼンキ様のもとへ案内してくれたんです。この子たちも、わたしのために村の境へ行っただけなので、叱るならわたしを――」

 米子には恐怖する子供たちが、少し可哀想に思えた。少し態とらしい言葉となってしまい、それに気づかぬゼンキではないのだが。

「なかなか出来たお嬢さんみたいじゃのう。安心せい、お主に免じて今回のみ許すとしよう。じゃが……次は許さんぞえ?」

 こう言ったゼンキの眼光が再び輝きを放つ。

「「は、はぃいい! もう黙って村の境界には行きましぇん!」」

 ビシッと起立し、ガガとウィルはブルブルと震えながら応えた。メメルはゼンキと供に暮らしていることもあり、この程度のことでは気にもならないのであろう。とくに怖がった様子は伺えない。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...