七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

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【初級者 編】

モンガ

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 プレイヤーにとってフレンドシステムとは有って当然だが、無くてはならない機能だと言えよう。

 しかし、住み人にはフレンドシステムがないこともあり、手紙などのやり取りが主流。

 この世界には『モンガ』という名の小動物がいる。その姿は現実世界に実在するフクロモモンガ又はシュガーグライダーと言われる動物に近しい。

 それは顔なども含めた身体全体が類似。
 因みにフクロモモンガは、通常のモモンガであるリスやネズミとはならず有袋哺乳類。つまり『カンガルー』のような動物。

 とくに重要視されるのは、そのお腹にある袋。カンガルーのような袋があるからこそ、住み人たちにより飼い馴らされてきた。

 更にモンガは、時速四〇〇から四五〇キロメートルものスピードで滑空することが可能であり、ハヤブサ(MAX:約三九〇キロメートル)以上の速度を誇る。

 ハヤブサ以上とは言え、鳥のように飛び続けることはないが、その移動速度は小動物とは思えないほどに素早い。

 小動物の分際……おっと失礼。脳ミソの収まる範囲が狭いわりに、その知能は高めと言える。言い換えてみたが、あまり変わらぬ言い方となってしまったことを野生動物保護団体へ詫びよう。

 そして性格はおとなしく懐き易いことから、住み人のみならず、プレイヤーたちにも大変人気があるペットのような存在。

 モンガは、たまに臭いのきつい唾を吐き飛ばすなどの悪さもする。
 悪さというより縄張り争い、又は犬などが行うマーキングのようなもの。
 そこは見た目の可愛らしさゆえ、許容範囲内なのかもしれない。

 兎にも角にも、そのモンガなる小動物を使い、住み人たちは互いの手紙や小包などを送り合う。

 
 ――――――


 ここはタッタ村。

 米子はゼンキとの話を終え、暫く村の住人たちと戯れていたが、そろそろ始まりの村へ帰らなければならない時間となってきた。

 自身と同じ住み人たちとの時間。

 時を忘れるほどに『楽しい』と思えた。

「ダメなの、ダメなの! お姉ちゃんは、今日ウチでメメルとお泊まりするのー!」
「なんなら、ボクの家でもいいよ? ママのスープ美味しいんだあ!」
「へっ! オイラの家に泊めてやってもいいぞ。弟と二人っきりだし、美味しいスープは無理だけどな」

 周りに群がる子供たち。
 その中でも、ガガ、ウィル、メメルは、いち早く米子と仲良くなったことから、米子が帰宅するのを淋しく思い拒む。

 群がる子供たちは、一番歳上でも一〇歳ほどなのだから現在一七歳の米子としては、やはり可愛くて仕方ない。

 子供たちの気持ちは嬉しい。
 そんな気持ちとは裏腹に、気になることがあった。

 この村には大人が少ない――

 子供の数に対して、半数も満たない大人の数。
 メメルが種族も違うゼンキの家に住んでいることや、ガガは弟と二人暮らしなど、もしかしたら……とも思う。

 米子の思うその『もしも』は、あまり良い考えでは無かった。

「ど、どうしよっかな。リーザさんには何も言ってないし困っちゃ――」

 米子は、子供たちに駄々を捏ねられ中々帰宅することができない。そんな駄々が嬉しかったりもしているのだが、リーザへは何も伝えておらず困り果てた様子。

 右へ左へと手を引かれ、米子は戸惑いを隠せないようだ。
 その様子を見かねたのか、子供たちへ向け声を発したのはゼンキであった。

「これこれ、マイコが困っておるじゃろう。気持ちは分かるが、あまり無理強いをしてはいかんぞえ」

 これを聞いた子供たちは、ぶつぶつとワガママを洩らしながらもゼンキには逆らえず、米子を解放する。

 残念そうな表情を見せる子供たちを思い、少し申し訳ない気分。

「この村に住む子供は、ほとんど早くして両親を亡くしてしまった子ばかりなのじゃ。それゆえに、お主のような気立ての良い者に対しては甘えん坊での。許してやっておくれ」
「やはり、そうだったんですね。可哀想、――なんて言えるほど、それを分かるとは言えませんが……はあ、気持ちを伝えるのって、とても難しいことですよね」

 村へ入りゼンキの家屋へ着くまでは、それほど気にはなっていなかった。
 しかし、その後子供たちと戯れることにより、じわりじわりと感づき始めたのはゼンキの言う子供たちのこと。

 まだ数歳の少年少女が早くも親を亡くし、その哀しみを乗り越えながらも淋しく暮らしている……そう考えると、胸の奥が強く締め付けられる思い。

 確かに、これは米子の予想通りではあったのだが、分かってはいても『間違っていて欲しい』と、願っていた。

「マイコや、まあそう気に病むでない。この子らのことを、少しでも不憫に思うてくれたのなら、また時期を見て遊びにきておくれ。これをお主へ渡しておくでの」

 ゼンキは穏やかな笑顔を見せ、鉱石の欠けらを米子へ手渡す。

「これは……魔鉱石、ですね」

 魔鉱石とは、あらゆる魔法を封じ込める鉱石の名称。

 封じるとは言え、魔法攻撃などを防ぐものではなく『鉱石の中へ魔法を閉じ込める』もの。

 これは魔法を閉じ込めたからと言っても、魔鉱石単体では何も出来ず、主に錬金の材料として使われる。
 例えば攻撃魔法のアイテムが欲しい場合、魔鉱石に魔法を閉じ込め、何らかの材料と組み合わせて錬金することにより、初めて攻撃魔法系アイテムとなる。

 この鉱石自体は珍しくもなく、極々普通の鉱石なのだが、ある手法を用いて幻惑を打ち消すことが可能。

 その手法とは幻惑魔法を使用した本人が、その幻惑を打ち消す魔法を魔鉱石へと施し、それを他の者が常に持ち歩くことにより幻惑されずに済む。
 魔鉱石へ打ち消しの魔法を施す者は、必ず幻惑を使用した本人でなければならない。加えて、その魔鉱石の効果は『幻惑に騙されない』と、いうだけで他の用途や効果も無い。

「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃな、プレイヤーにも身近な鉱石じゃからの。話が早いて。その魔鉱石にはこの村へ施した幻惑に騙されぬよう、儂の魔法を封じ込めてある。つまりそれさえ持っていれば、いつ何時でも村へ入れるということになるの」

 子供たちの両親……そう思う米子の気持ちが晴れたわけではないが、ゼンキの暖かな笑顔は自身を優しく包み込まれた気がした。

「あっ。子供たちがこの魔鉱石を持っていたから、わたしも村へ入れたのですね。そっか、そっか」

 コクコクと数回頷き、脇目も振らずにひとりで納得する米子。

「ふむ、そういうことじゃな。じゃがプレイヤーは勿論、住み人でもこの村のことは口にしてはならぬぞえ? お主には理解できぬことやも知れぬが、それがこの村の決めごとじゃて。分かったな?」
「は、はい、わかりました。では、そのように心掛けます」

 こう言って米子が魔鉱石を握りしめた時、メメルは空を見上げながら声を上げた。

「あー! 婆ば、モンガなのー!」

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