七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

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【初級者 編】

改変

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「マイコちゃんの友人は、まだ来てないようだね?」
「あ、ベニネコさんですね。そろそろ来る頃だと思うんですけど……?」

 ゲンは、なぜか予想通りという素振りを見せる。

「んー……やはり。もしかしたら、あと数時間は待つことになるかもしれない」
「……?? あと数時間?」

 ゲンが何かを察しながら洩らした『あと数時間』という言葉を理解できなかった。なぜなら数時間後では時間的にベニネコのログインが”難しい”と思ったからである。
 ベニネコがリーザの店で言った『同級生』との会話から予想すると、その時間は学校へ行っているのではないかとの考えに至ったからだ。

 ゲンはベニネコが学生とまでは知らないとは思う。
 それでも、米子には気になる言い方だった。

 だが……ゲンの話を理解するまでには、それほど時間を要さなかった。

「今の米子ちゃんには私が何を言っているのか分からないだろうけど、説明をするより見たほうが早いかもしれないね」

 こう言って一冊の手帳を開く。

「それは、源次郎さんのフレンド手帳、ですか?」
「あははっ。その名で呼ばれると妻と話しているようだよ。おっと、余分な話をしてすまないね。マイコちゃんに見てもらいたいのは『お知らせ』の記事なんだけど――」

 ゲンは照れ笑いをしながら、手帳に記された『お知らせ』の欄を米子へ見せる。
 お知らせとは、アップデートやメンテナンス、又はその他の情報が記された項目。

 フレンド手帳は他人が使用することは出来ず、また譲渡も出来ない。そもそも手放せないようになっており、紛失することも皆無。

 言い換えれば、身体から離れてしまうことはないと言えよう。何をしようとポケットやバッグから落ちることはなく、また手に持っていても手から離れることがないのだ。

 つまり、手や装備品以外の場所へは移動出来ない物なのである。
 そして本人以外の操作も不可能。
 それゆえ、ゲンは自分の手帳を手に持ったまま米子へ見せた。

 
 ――――――


 アップデートされた詳細については、こう記されていた。

 
 【EX世界における時間軸の改変】


 この世界における時間軸とはゲーム内での『過去から現在、そして未来へと経過していく時間の流れ』を言う。

 時間軸の改変とは、現実世界と同じ時間で流れていた時が変更されたということだ。

 詳細には『約一〇倍の速度』と記されている。

 これは現実世界より『一〇倍早く時が流れる』と言う意味。
 米子は、ここで疑問に思う。

(――あれ? 全然、早くなってないと思うけど……?)

 実のところ、この改変は『一〇倍速の世界を冒険している』が正しい答え。

 脳内で時間が経過したと認識させる。
 仮に、プレイヤーが一時間ゲームをプレイしたとしよう。現実世界では一時間だが、ゲーム内にいれば一〇時間経過したと錯覚するのだ。

 そして、米子も錯覚していると言えるが、それを感じることはない。

 その錯覚とはリアルタイムと変わらないものであり、米子や周りの動きが一〇倍早くなったとも解釈できよう。

 簡潔に説明すると『一〇倍の速度で早送りしてはいるが、早送りされているとの認識はなく、通常の速度で時の流れを感じる』と、なる。
 これは、一時間で一〇時間の冒険が出来る事と全く変わらない。

 プレイヤーも同じく、一〇倍早く動く自身に気付くことはないだろう。何故なら、視覚に入る周りの全てが同じ速度で動いているのだから。

 更に米子は脳裏で考える。

(今更、なぜこんな改変をしたのかな? 必要があるとも思えないんだけど)

 しかし、その疑問の答えは待たずして分かる。
 更に読み進めた詳細には、こう記されていた。

 【※ 今回発生した転送陣の件はクエストとなりますが、EXオンラインにおけるクエストとは、全てNPC、及びモンスターなどから発生するものでございます。これはゲーム内キャラクター自身の行動によるものであり、運営局が設置したクエストではございません】

 この世界におけるクエストとは人工知能を持つキャラクターから発生するもの。この認識はEXをプレイしている者なら皆持っている。
 通常、住み人が何を行おうとも運営局が手を出すことは無く、その秩序を維持する。

 その秩序とは別に運営局には、それを妨げることも出来ないと言えよう。

 EXの創造主たる者は『人物』ではない。
 同じ人工知能を持つマザーコンピュータである。

 運営局は、そのマザーコンピュータが行った改変をプレイヤーへ知らせるだけであり、意図的に改変を行う事も出来ない。

 今回、創造主は時間軸の改変を行なった。

 その意図は、プレイヤー側に長い時間を与えなければクエストのクリアは困難を極め、多大な影響を及ぼすからだ。

 移動するだけで何日も経過するクエストを、プレイヤーが受け入れるはずもないのだと。

 プレイヤーの数が著しく減った場合、この世界の秩序が守れなくなるのではないかと創造主は考えた。
 考えたというより『今後の世界状況を割り出した』と言ったほうが近しいだろう。

《――ならば時間軸を新たに構築すれば良い。
 プレイヤー側の時間に支障が出ないように――》

 その考えから創造主は時間軸の改変を行なった。

 プレイヤーや住み人への直接的な行動を創造主が行った事は無い。それは今までそうだった事もあるが、手が出せないように作られたからだと思われる。

 『この世界の秩序を守る事』それが創造主の仕事なのである。


 ――――――


 米子は、この改変の全てを受け入れることは無いだろう。

 そして受け入れることは出来ないが、現状は理解したつもり。

「全然、時間が早くなったようには思えませんが、源次郎さんの仰る通りならば認めなければならない……でしょうね」
「ああ。正直なところ私も驚いたよ。現実時間の六時六分にログインしたのにも関わらず、こちらに来てみたら七時過ぎてるじゃないか。妻と子に遅いって怒られてしまったよ。はははっ」

 こう言ったゲンを、遠目から見護る妻と子。
 ゲンの笑い声が大きかったのか、気付いた様子で笑顔を見せた。

「ここは不思議な世界ですよね。今まで何も気付けませんでしたけど、現実世界ではあり得ないことが多くて」
「その気持ちは分かるよ。まあ、私としては時間が長くなったことを感謝してるかな? 妻や子と出来る限り一緒にいる時間が欲しいし、私はこの世界が好きなんだよ」

 現実世界の一〇倍この世界を堪能できる。
 プレイヤーとしてのゲンは、自身が生まれ変わったように嬉しかった。
 ゲンにとってこの改変とは、きっと寿命を伸ばしてくれたような気持ちなのだろう。

「あ、そうか! そういう考えもありますね」
「ああ。私の悩みは今後の時間があまり残されていない……と、いうことなんだ。この世界は、それを忘れてしまうほど自由に動けるし、なんだか若返った気分だよ。それに――」

 垣間見せるゲンの儚き表情。

「まだ娘には『父』とも呼ばれたことがないからね。せめてそこまでは、ね。はは……」

 何処か淋しげに元気さをアピールする彼は『高齢者ということもあるが、それ以外にも自身の身体を蝕むものがある』、と。

 米子には、そう言ったように聞こえた。
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