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【初級者 編】
謎の三兄弟
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それから数時間後――案の定、ゲンの予想通りの展開となる。
ベニネコがゲンの店へ姿を見せたのは、EX時間での昼時であった。
「ほーんとっ、ビックリしちゃったよー! だって朝の六時半くらいだよ?? EXに来たら御日さま高いしー? わたし夢見てるかと思っちゃった」
ベニネコは、あたふたと慌てた様子で話す。
さすがに予想していなかった、というところか。
「ふふっ。心配してたけど、ベニネコさんに来てもらえて良かったです」
「来る、来る、来るに決まってるじゃん! 遅れてごめんねー」
米子はベニネコと、ベニネコは米子と会えたことで、互いに一安心した表情を浮かべながら会話は進む。
「あ、これはベニネコさんが悪いわけでもないので、気にしないで下さい」
「そうだけどー。でも時間が長くなったから、一緒に宿屋に泊まったりとか出来るね。ちょっとした旅行気分だよー」
「ですね。わたしも楽しみです」
「チキンはお寝坊さんだから無理だけど、レイちゃんと力士君は来ると思うよー。一度ログアウトして事情は知らせてあるから、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「本当ですか? レイカさんも来るんだ……楽しみだな。ふふっ」
こんな会話からレイカの名を口にして、微笑む米子。
米子が何故、ここで力士山の名を言わなかったのかについては、彼の存在価値の無さが全てを語っていよう。
この、しがない会話はもう暫く続く。
十数分後、姿を見せたレイカを加え更に会話がヒートアップする中、間の悪いタイミングで現れた力士山も無駄な汗をかきながら、それとなく加わった。
そして四人がゲンの店を後にしようとした時、ゲンは全員へ向けひとこと言う。
「マイコちゃん、それにお友達も。このサーパスに寄ることがあれば、いつでも会いに来てくれ。今度は私の酒場の料理をご馳走しよう。あ、でもお酒はダメだからね?」
「「「「はい(です)!」」」」
米子の気が安らぐような別れの挨拶。
心中でまた会うことを誓い、米子は皆と供に歩き始めた。
◇
同刻、サーパスから南へ半日ほど向かった街。
街の名は『ソデランス』。
一二〇番目くらいの大きさの街ソデランス。
大きいのか小さいのかも不明なソデランス。
ちなみに増毛などは行っていないソデランス。
ソデランス北部には、この街で最も大きな屋敷がある。
街の大きさに合わないほど大きな屋敷に住むNPCの三兄弟がいた。
長男の名を『チョウ・デランス』――と、言う。
「はーはははっ! サバラ君! 首尾のほうはどうかね!」
「デランス卿……あんた、あんなに住み人を捕まえてどうするんだい? 商人ならまだしも、こんな平民に使い道があるのかねえ」
一体何が可笑しくて笑ったかさえも分からないチョウ・デランス。
『全身』に着飾った宝石と、黄金色に輝く全ての歯。
その全身に纏う着衣などから、たいそう贅沢な暮らしが伺える。
そのチョウ・デランスが口にした『サバラ』とは、NPCキラーの主犯者たる人物であり女性プレイヤー。
何も隠してはいないがチキンと愉快な仲間たちに負け、捨て台詞を吐き逃げ帰った人物が、このサバラである。
チョウ・デランスは、その動く度に上下へ浮き沈みする頭部の物体を気にしながら言った。
「はーはははっ! サバラ君、そんなことを聞いてどうしようというのかね。君たちキラープレイヤーはEXPを稼ぐ手段など限られているだろう。それを我らデランス三兄弟が、その手段を与えているのだよ。感謝したまえ」
「まあ、アンタが何を考えていようとアタシには関係ないけど……なんか、つまらない仕事だねえ」
面倒臭そうな表情を見せたサバラへ向け、その場にいるもう一人の男性が口を洩らす。
「ケーケケ毛ッ! 今回の大規模なクエストによりプレイヤーが暴れてくれたことで、平民を捕らえ易くなった。我々としては大変都合の良いことなのだよ」
奇妙な笑い方のみで、見た目がほとんど変わらない三つ子の次男。
次男の名を『ジ・デランス』――と、言う。
『上半身』に着飾った宝石と、銀色に輝く全ての歯。
その高価そうな上着などから、それなりに贅沢な暮らしが伺える
ジ・デランスは、その動く度に左右へズレる頭部の物体を気にしながら会話の続きを言った。
「当然ながらEXPは我々住み人にとっても必要不可欠なものなのだよ。君たちプレイヤーは主に戦闘で、我々住み人は主に頭を使う……サバラ君、この意味が分かるかね?」
サバラは全てを悟ったかのように、彼らふたりの頭部をチラ見した。
「まあ、そんなことだろうとは思っていたけどねえ」
サバラが悟ったことは、ふたりの頭部に乗るそれの事ではない――と、言うよりもそれを知るまでの時間は不要だ。
ヅラはさて置き、サバラの考えとは。
――彼らの思惑は『奴隷』として平民を売り払うつもりなのだろう。
サバラがこの考えに至ったのは簡単な理由で、この世界では良くあることだからである。
しかし、良くある所業であっても『ルール』があり、奴隷は平民や亜人でなければならない。もう少し掘り下げると、他にもそのルールがあるのだが……。
「好きにしたらいいさ。それで、次は何処へ行けばいいんだい? 転送陣が使えないんだから、あまり遠くは辞めておくれよ」
ここでもう一人の男が、地味に姿を現わす。
気持ち悪い笑い方のみで、見た目がほとんど変わらない三つ子の三男。
三男の名を『サン・デランス』――と、言う。
『下半身』に若干着飾った宝石と、さほど綺麗ではない普通の歯。
その下着は見えないが、たぶん贅沢な暮らし。
サン・デランスは、その動いても微動だにしない頭皮丸出しの頭部を、何も気にせず言った。
「フェ、フェフェッ! 次はサーパスへ行ってくれ。出来るだけ生きの良い平民を捕らえてきてくれよ」
(――サーパスかい……あの商人も、まだサーパスにいるかもねえ。もし、まだいるってんなら今度は逃がしゃしないよっ!)
サバラは心中で復讐心を燃やし、腰かけていた椅子から腰を上げる。
「わかったよ。護送用の馬車はアンタらに任せたからね?」
「「「はーはははっ! ケーケケ毛ッ! フェ、フェフェッ!」」」
こうして、三兄弟の奇怪な笑い声はソデランスに響き渡った。
その声を聞くソデランスの民たちは『全国のそれに謝罪しなさい』と口揃え言った。
ベニネコがゲンの店へ姿を見せたのは、EX時間での昼時であった。
「ほーんとっ、ビックリしちゃったよー! だって朝の六時半くらいだよ?? EXに来たら御日さま高いしー? わたし夢見てるかと思っちゃった」
ベニネコは、あたふたと慌てた様子で話す。
さすがに予想していなかった、というところか。
「ふふっ。心配してたけど、ベニネコさんに来てもらえて良かったです」
「来る、来る、来るに決まってるじゃん! 遅れてごめんねー」
米子はベニネコと、ベニネコは米子と会えたことで、互いに一安心した表情を浮かべながら会話は進む。
「あ、これはベニネコさんが悪いわけでもないので、気にしないで下さい」
「そうだけどー。でも時間が長くなったから、一緒に宿屋に泊まったりとか出来るね。ちょっとした旅行気分だよー」
「ですね。わたしも楽しみです」
「チキンはお寝坊さんだから無理だけど、レイちゃんと力士君は来ると思うよー。一度ログアウトして事情は知らせてあるから、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「本当ですか? レイカさんも来るんだ……楽しみだな。ふふっ」
こんな会話からレイカの名を口にして、微笑む米子。
米子が何故、ここで力士山の名を言わなかったのかについては、彼の存在価値の無さが全てを語っていよう。
この、しがない会話はもう暫く続く。
十数分後、姿を見せたレイカを加え更に会話がヒートアップする中、間の悪いタイミングで現れた力士山も無駄な汗をかきながら、それとなく加わった。
そして四人がゲンの店を後にしようとした時、ゲンは全員へ向けひとこと言う。
「マイコちゃん、それにお友達も。このサーパスに寄ることがあれば、いつでも会いに来てくれ。今度は私の酒場の料理をご馳走しよう。あ、でもお酒はダメだからね?」
「「「「はい(です)!」」」」
米子の気が安らぐような別れの挨拶。
心中でまた会うことを誓い、米子は皆と供に歩き始めた。
◇
同刻、サーパスから南へ半日ほど向かった街。
街の名は『ソデランス』。
一二〇番目くらいの大きさの街ソデランス。
大きいのか小さいのかも不明なソデランス。
ちなみに増毛などは行っていないソデランス。
ソデランス北部には、この街で最も大きな屋敷がある。
街の大きさに合わないほど大きな屋敷に住むNPCの三兄弟がいた。
長男の名を『チョウ・デランス』――と、言う。
「はーはははっ! サバラ君! 首尾のほうはどうかね!」
「デランス卿……あんた、あんなに住み人を捕まえてどうするんだい? 商人ならまだしも、こんな平民に使い道があるのかねえ」
一体何が可笑しくて笑ったかさえも分からないチョウ・デランス。
『全身』に着飾った宝石と、黄金色に輝く全ての歯。
その全身に纏う着衣などから、たいそう贅沢な暮らしが伺える。
そのチョウ・デランスが口にした『サバラ』とは、NPCキラーの主犯者たる人物であり女性プレイヤー。
何も隠してはいないがチキンと愉快な仲間たちに負け、捨て台詞を吐き逃げ帰った人物が、このサバラである。
チョウ・デランスは、その動く度に上下へ浮き沈みする頭部の物体を気にしながら言った。
「はーはははっ! サバラ君、そんなことを聞いてどうしようというのかね。君たちキラープレイヤーはEXPを稼ぐ手段など限られているだろう。それを我らデランス三兄弟が、その手段を与えているのだよ。感謝したまえ」
「まあ、アンタが何を考えていようとアタシには関係ないけど……なんか、つまらない仕事だねえ」
面倒臭そうな表情を見せたサバラへ向け、その場にいるもう一人の男性が口を洩らす。
「ケーケケ毛ッ! 今回の大規模なクエストによりプレイヤーが暴れてくれたことで、平民を捕らえ易くなった。我々としては大変都合の良いことなのだよ」
奇妙な笑い方のみで、見た目がほとんど変わらない三つ子の次男。
次男の名を『ジ・デランス』――と、言う。
『上半身』に着飾った宝石と、銀色に輝く全ての歯。
その高価そうな上着などから、それなりに贅沢な暮らしが伺える
ジ・デランスは、その動く度に左右へズレる頭部の物体を気にしながら会話の続きを言った。
「当然ながらEXPは我々住み人にとっても必要不可欠なものなのだよ。君たちプレイヤーは主に戦闘で、我々住み人は主に頭を使う……サバラ君、この意味が分かるかね?」
サバラは全てを悟ったかのように、彼らふたりの頭部をチラ見した。
「まあ、そんなことだろうとは思っていたけどねえ」
サバラが悟ったことは、ふたりの頭部に乗るそれの事ではない――と、言うよりもそれを知るまでの時間は不要だ。
ヅラはさて置き、サバラの考えとは。
――彼らの思惑は『奴隷』として平民を売り払うつもりなのだろう。
サバラがこの考えに至ったのは簡単な理由で、この世界では良くあることだからである。
しかし、良くある所業であっても『ルール』があり、奴隷は平民や亜人でなければならない。もう少し掘り下げると、他にもそのルールがあるのだが……。
「好きにしたらいいさ。それで、次は何処へ行けばいいんだい? 転送陣が使えないんだから、あまり遠くは辞めておくれよ」
ここでもう一人の男が、地味に姿を現わす。
気持ち悪い笑い方のみで、見た目がほとんど変わらない三つ子の三男。
三男の名を『サン・デランス』――と、言う。
『下半身』に若干着飾った宝石と、さほど綺麗ではない普通の歯。
その下着は見えないが、たぶん贅沢な暮らし。
サン・デランスは、その動いても微動だにしない頭皮丸出しの頭部を、何も気にせず言った。
「フェ、フェフェッ! 次はサーパスへ行ってくれ。出来るだけ生きの良い平民を捕らえてきてくれよ」
(――サーパスかい……あの商人も、まだサーパスにいるかもねえ。もし、まだいるってんなら今度は逃がしゃしないよっ!)
サバラは心中で復讐心を燃やし、腰かけていた椅子から腰を上げる。
「わかったよ。護送用の馬車はアンタらに任せたからね?」
「「「はーはははっ! ケーケケ毛ッ! フェ、フェフェッ!」」」
こうして、三兄弟の奇怪な笑い声はソデランスに響き渡った。
その声を聞くソデランスの民たちは『全国のそれに謝罪しなさい』と口揃え言った。
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