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第一章
第2話 メガミッション その1
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『私が呼んだのは、古今東西、全人類であなた一人です』
繰り返した。
いや、聞こえなかったわけでは無くて、何と言うか、あっけに取られている訳で。
異世界転生。
それが特別なことは分かる。
しかし……。
俺一人だけが特別に? どういうことだ?
実は生前、知らず知らずのうちに転生に必要なアイテムを持っていたとか?
神に選ばれるほどに「生まれ変わっても一緒」って、強い思いで約束をした人がいたとか?
実は俺の死は神様のミスで、俺は死ぬはずでは無かったとか?
うん。
自信を持って言おう。
あらゆるテンプレにおいて、全く持って心当たりがない。
もしも俺の、不摂生な習慣と、不摂生な食生活と、喫煙と飲酒が「俺のツケ」では無く「神様のミス」なのだとしたら、そりゃあもう、どんな犯罪者だって無罪放免である。
しかし、まあ、考えていても仕方ない。考えるのは情報が出揃ってからだ。
「えっと、女神様……とお呼びすれば宜しいでしょうか?」
ひとまず適当な空間に声を掛けてみる。
『なんと呼んでも構いません、あなたがそれで良いのならそれで』
うーん、そう言われてもな。
「……ちなみに、あなた様のような存在は他にいらっしゃるのでしょうか?」
『ええ、数概念……いえ、あなたに分かり易く言えば、数名おります』
「では、ご尊名をお伺いしたく。もし今後、別の女神様にお会いした時に、混乱いたしますので」
これは嘘ではない。
嘘では無かったが、精神年齢40オーバーのおっさんが、姿の見えない声に対して「女神様」と呼ぶのはいささか痛い構図のような気がした。
「さらに言えば、お姿を拝見することは出来ますでしょうか?」
『それはそれほど大事な事なのですか?』
「はい、会話をする相手が見えないというのは、どうも居心地が悪いと申しますか……」
これも嘘ではない。
嘘では無かったが、本心は別にあった。
先程女神は言った。『古今東西で呼ばれたのは俺一人だ』と。恐らくこの後、かなり重要な話をするはずである。
重要な話であればあるほど、話し相手の表情や仕草などから読み取れる情報は多い。顔を見て話せるならば、それに越したことは無かった。
「絶対美人!」と予想しておいて、お姿を見られないのは残念、とか、そんな事は微塵も思ってない。いやホント。
『ふむう……』
女神はそう呟き、しばし黙った。しかし、突然俺の前の空間が光り出し、女神はその姿を現した。
(う、あああ……なんだ、これ)
その姿は女神、と呼ぶにはかけ離れた、恐ろしい、禍々しい姿をしていた。
漆黒の長い髪に、赤紫の角、青白い肌。真っ赤な目を光らせ、黒いドレスを纏い、大きな鎌をもったその姿は、正に死神そのものだった。
「め、女神様は、死神……なのですか……?」
恐怖に震えたが、気合で声を絞り出した。なに、既に死んでいるのだ、もっかい追加で死んだりはしないだろう。それこそ本当の意味でのオーバーキルだ。まあ生前に出会っていたら完全に腰を抜かしていただろうけど。
『ん? だって、女神なのでしょう? あなたの要望通りの姿になってみたのですが?』
俺の恐怖とは対照的に、(自称)女神はきょとんとした声を出した。
なんだって? 要望通りって……。
ん? ちょっと待て。いや、これ、見たことあるぞ?!
これは、生前、最も好きだったRPGゲームに登場するキャラクターだ。
つまり、あの、味方にした悪魔をぐちゃぐちゃ合体させて、強くしていく、アレだ。
そしてこのキャラクターは確か、北欧神話あたりに登場する、死者の町を支配する女神、とかなんとか、そんな感じだったはず。
確かに当時、このキャラクターは「これで女神かよ!」と衝撃を受け、あれ以来、女神と聞けばこの姿を思い出すようになってしまっていた。
要望通り、見たことある造形、ってことは……俺の中のイメージに合わせたって事か?
「いやいやいや、違います、女神様! そのお姿は、あくまでも特殊個体と言いますか……その、こちらの方が、イメージに近いお姿です!」
俺はそう叫び、全力で別の姿をイメージした。
(女神と言えば? 女神と言えば? 女神、女神……駄目だ、とっさに出てくるのはアレしかない!)
『……なるほど……』
死神がそう呟いた気がした。
そして、俺がうっすらと目を開けると……。
そこには、まさしく、女神が立っていた。
纏められた栗毛色の長い髪。
優しそうな少し垂れ目気味の顔。
青と白のワンピース。
額と目じりについた紫色の印。
そして背中から生えた白い翼。
「ああ、女神さま……」
俺は思わず感想を漏らした。感想である、作品名では決してない。
『これがあなたの中の女神なのですね。うん、なかなか良い造形です』
「そうですそうです、パーフェクトです、百点です!」
俺は全力でうなずいたが、一方で、この作品、うちのIPじゃないから、これがアニメだったら完全にモザイクだな、なんて考えてしまっている自分が憎かった。
職業病ってやーね。
『次に、名前、でしたね。こればかりは、私は良く分かりませんので、あなたのお好きにお呼びなさい。例えばこの姿の名前とか』
「では……ベルd……」
ぬぐおおお……。
そこまで言って俺は気合で口を止めた。
俺だって、こう見えても仕事に誇りを持っている。別会社の著作権のキャラクターの姿を女神にさせてしまったところまでは、仕方ない。これは、緊急回避、というか不可抗力である。
しかし、ここで名前まで呼んでしまっては、もうなんか、いけない気がする。そう、出版社魂的に!
生前、仲の良かった作家のHさんの話を思い出した。
彼女に自分の好きなキャラクターのコスプレをさせ、二人ではしゃいでいたところまでは良かった。しかし、似合いすぎていて、ガチでそのキャラクターの名前を呼んでしまったが最後、ドン引きされた挙句に、数日後に別れたらしい。
べ、別にあの時のトークが、トラウマになっているわけでは決してない。これはあくまでも出版社魂なんだからね!
「で、では……ベル様と」
『わかりました。では今後、あなたの前では、私はベルです』
ふう、危ない危ない。
まあ、これなら良いだろう。
これなら特定には至らない。女神さま以外にも、女神さまの眷族の少年のパターンだってありうるわけで。
全く、死後の世界とか、超常現象とか、ほんとままならん。話をする前段階でこれだ。
っていうか、さっきから俺は一人で何と戦ってるんだ、ちきしょう。
『私は、あなたの事はあなたと呼ばせてもらいますね。広瀬雄介であった存在はもういません。そしてあなたは、広瀬雄介とは別の存在になるわけですから』
「分かりました、それで構いません」
(……いや、でも……やっぱり……な)
……結局。
俺は女神さまにもう一度頭を下げて、別の姿に変わって頂いた。
本当に、友人の話のせいじゃない。これは仕事柄の癖だ。
他社IPコンテンツに非常に酷似したキャラクターをメインキャラクターに据えると、ノベライズやコミカライズ化した時に非常に苦労する。
表紙に描けなくなるからだ。
別キャラです、と言い張って載せても読者はこう言う事に見識が広い。パクリだなんだと炎上は必至である。そう言って、キャラクターデザインの変更を何度お願いしたことか。
しかも今回は、マジで同一人物、いや、同一女神のそれである。こんなの、ノベライズの表紙にしようもんなら、モザイクにするか、「コンプラ」と書かれた黒い海苔を貼るしかない。
いや、これは現実で、作り話じゃないから、無用の心配なんだけど、さ。もう職業病ということで勘弁してもらいたい。
でも、一巻の表紙に『コンプラ』って海苔が貼ってあるキャラがいるなんて、それはそれで売れそうだな。生きてるうちにやってみれば良かった……。
部長、怒るだろうな……。
ちなみに俺が思い浮かべたのは、金髪ロングヘアの、白い羽衣を纏った、もう、見るからに「ザ・女神」と言うような造形だった。
姿も変わったことだし、名前はもうそのままでいっか。
「……して、ベル様。転生、というのは」
落ち着いたところで、改めて俺はベル様に聞いた。
『そうですね。どこまで話せるかわかりませんが、出来得る限りお伝えしましょう……』
******
ベル様の話は要約するとこうだ。なんか色々、知らない概念や、難しい表現があったので、出来るだけ分かり易く言い換える。
頑張る。
ベル様のような存在は、この世界、というか宇宙の外にはいくつかいて、ベル様はその一人、いわゆる「太陽系担当」みたいな感じらしい。まあ、その名前も俺たちが勝手に名付けただけなのだけれど。
で、各々の女神様たちは、いろんな条件を組み合わせて世界を創るが、上手くいくことはほとんどなく、何も生まれないか、すぐに『無』になってしまうらしい。ベル様の太陽系、ひいては「地球」は、本当に数少ない成功例であるらしかった。
そして驚くべきことに、その地球人たちは、発展していくうちに、ベル様たちと同じような仕事をし始めた。
そう、「新しい世界を創る」。
つまり、「物語を創る」ということだ。
それは、女神様たちの中には驚愕の発想であったらしい。そして、とある別の女神さまがそこに目をつけ、ベル様に頼み込み、その物語を参考に別の世界を創造した。という事だった。
「ベルちゃん、地球の子達が創った『物語』とかいうのの世界観、どれかパクって良い?」
って事だ。
おい、別世界の女神よ。
著作権侵害であるぞ?
……しかし、そこでベル様の話が止まった。
「ベル様?」
『すみません。私達は、地球人の魂を、別の世界に送ることは可能です。しかし、その者に、その世界の前情報を少しでも明かすことは出来ないのです。知れば、自然の成り行きで世界が動かなくなってしまうから』
どうやら、女神様たちは、創造した後は、世界に直接手を加える事は出来ないらしい。
そういやプレステ初期に、ロボットにプログラミングを組み込んで、後は自動で自分の組んだプログラム通りに戦うのを見ているだけのゲームがあったが、そんな感じなのだろう。
女神、というより、観測者、と言った方が近いのかもしれない。
「なるほど、分かりました。では、本題ですが、私がベル様に呼ばれた、その理由をお教え下さいますか?」
この先のベル様の答えは、なんとなく予想が出来た。そしてそれは奇しくも、見事に的中した。
『あなたに、その創られた世界を……救って欲しいのです』
ですよね。
……まあ、定番で考えれば、そうなるか。
「救う?」
『はい』
「……なにから?」
『……』
「どうやって?」
『……』
答えられないらしい。なるほど、流石にこれらは全部、前情報になってしまうか。
「ベル様、あの、もう少し目的が分からなければ、転生してもご期待に沿える自信がありません」
『……そう、ですよね。すみません。でも、これ以上の説明は、どうも私には難しいようです』
超存在であるベル様が、悲しそうな表情をした……気がした。
いかんいかん! 20世紀後半、多くの男性が愛したこの女神さまを悲しませることなどあってはならない!
いや、もう既にお姿は変わって貰ったけど。
「分かりました。では、こちらから質問をさせて下さい。ベル様は答えられるもののみにお答えくだされば結構です」
『そうですか、それは助かります』
ベル様が少し微笑んだ、ような気がした。
よし、ミッション開始である。女神様から情報を聞き出すミッション。略してメガミッション開始である!
言ってみて、その壊滅的なネーミングセンスに死にたくなってくる。いや、もう死んでんだけど。
ともあれ、きっとこの後、俺には二回目の長い人生が待っている。
それも、一つの目的を課せられた。
それを生かすも殺すも、恐らくはこの、ここでの質問次第。
俺にはそれが分かった。
前情報を明かせないのならば、「救う」という目的は教えて貰えても、その「手段」の情報はゼロだろう。下手したら、その「手段」にさえたどり着けずに人生が終わりかねない。
さらに、ベル様たちは、魂を送り込むことは出来ても、干渉は出来ないと言った。つまり、ここを離れれば、もう話すことはおろか、アドバイスを受ける事も不可能となるだろう。
つまりここで、ベル様の禁則事項に引っかからない限りで、最大限の情報を聞き出さなくてはならない。
なに、得意分野だ。
俺が生前、どれだけの推理小説を読み、そして書いて来たと思っているんだ?
俺は、まだ見ぬ世界を救うために、ミステリー小説に登場する探偵の如く、かつてないほど頭を巡らせたのだった。
(第3話『メガミッション その2』へ つづく)
繰り返した。
いや、聞こえなかったわけでは無くて、何と言うか、あっけに取られている訳で。
異世界転生。
それが特別なことは分かる。
しかし……。
俺一人だけが特別に? どういうことだ?
実は生前、知らず知らずのうちに転生に必要なアイテムを持っていたとか?
神に選ばれるほどに「生まれ変わっても一緒」って、強い思いで約束をした人がいたとか?
実は俺の死は神様のミスで、俺は死ぬはずでは無かったとか?
うん。
自信を持って言おう。
あらゆるテンプレにおいて、全く持って心当たりがない。
もしも俺の、不摂生な習慣と、不摂生な食生活と、喫煙と飲酒が「俺のツケ」では無く「神様のミス」なのだとしたら、そりゃあもう、どんな犯罪者だって無罪放免である。
しかし、まあ、考えていても仕方ない。考えるのは情報が出揃ってからだ。
「えっと、女神様……とお呼びすれば宜しいでしょうか?」
ひとまず適当な空間に声を掛けてみる。
『なんと呼んでも構いません、あなたがそれで良いのならそれで』
うーん、そう言われてもな。
「……ちなみに、あなた様のような存在は他にいらっしゃるのでしょうか?」
『ええ、数概念……いえ、あなたに分かり易く言えば、数名おります』
「では、ご尊名をお伺いしたく。もし今後、別の女神様にお会いした時に、混乱いたしますので」
これは嘘ではない。
嘘では無かったが、精神年齢40オーバーのおっさんが、姿の見えない声に対して「女神様」と呼ぶのはいささか痛い構図のような気がした。
「さらに言えば、お姿を拝見することは出来ますでしょうか?」
『それはそれほど大事な事なのですか?』
「はい、会話をする相手が見えないというのは、どうも居心地が悪いと申しますか……」
これも嘘ではない。
嘘では無かったが、本心は別にあった。
先程女神は言った。『古今東西で呼ばれたのは俺一人だ』と。恐らくこの後、かなり重要な話をするはずである。
重要な話であればあるほど、話し相手の表情や仕草などから読み取れる情報は多い。顔を見て話せるならば、それに越したことは無かった。
「絶対美人!」と予想しておいて、お姿を見られないのは残念、とか、そんな事は微塵も思ってない。いやホント。
『ふむう……』
女神はそう呟き、しばし黙った。しかし、突然俺の前の空間が光り出し、女神はその姿を現した。
(う、あああ……なんだ、これ)
その姿は女神、と呼ぶにはかけ離れた、恐ろしい、禍々しい姿をしていた。
漆黒の長い髪に、赤紫の角、青白い肌。真っ赤な目を光らせ、黒いドレスを纏い、大きな鎌をもったその姿は、正に死神そのものだった。
「め、女神様は、死神……なのですか……?」
恐怖に震えたが、気合で声を絞り出した。なに、既に死んでいるのだ、もっかい追加で死んだりはしないだろう。それこそ本当の意味でのオーバーキルだ。まあ生前に出会っていたら完全に腰を抜かしていただろうけど。
『ん? だって、女神なのでしょう? あなたの要望通りの姿になってみたのですが?』
俺の恐怖とは対照的に、(自称)女神はきょとんとした声を出した。
なんだって? 要望通りって……。
ん? ちょっと待て。いや、これ、見たことあるぞ?!
これは、生前、最も好きだったRPGゲームに登場するキャラクターだ。
つまり、あの、味方にした悪魔をぐちゃぐちゃ合体させて、強くしていく、アレだ。
そしてこのキャラクターは確か、北欧神話あたりに登場する、死者の町を支配する女神、とかなんとか、そんな感じだったはず。
確かに当時、このキャラクターは「これで女神かよ!」と衝撃を受け、あれ以来、女神と聞けばこの姿を思い出すようになってしまっていた。
要望通り、見たことある造形、ってことは……俺の中のイメージに合わせたって事か?
「いやいやいや、違います、女神様! そのお姿は、あくまでも特殊個体と言いますか……その、こちらの方が、イメージに近いお姿です!」
俺はそう叫び、全力で別の姿をイメージした。
(女神と言えば? 女神と言えば? 女神、女神……駄目だ、とっさに出てくるのはアレしかない!)
『……なるほど……』
死神がそう呟いた気がした。
そして、俺がうっすらと目を開けると……。
そこには、まさしく、女神が立っていた。
纏められた栗毛色の長い髪。
優しそうな少し垂れ目気味の顔。
青と白のワンピース。
額と目じりについた紫色の印。
そして背中から生えた白い翼。
「ああ、女神さま……」
俺は思わず感想を漏らした。感想である、作品名では決してない。
『これがあなたの中の女神なのですね。うん、なかなか良い造形です』
「そうですそうです、パーフェクトです、百点です!」
俺は全力でうなずいたが、一方で、この作品、うちのIPじゃないから、これがアニメだったら完全にモザイクだな、なんて考えてしまっている自分が憎かった。
職業病ってやーね。
『次に、名前、でしたね。こればかりは、私は良く分かりませんので、あなたのお好きにお呼びなさい。例えばこの姿の名前とか』
「では……ベルd……」
ぬぐおおお……。
そこまで言って俺は気合で口を止めた。
俺だって、こう見えても仕事に誇りを持っている。別会社の著作権のキャラクターの姿を女神にさせてしまったところまでは、仕方ない。これは、緊急回避、というか不可抗力である。
しかし、ここで名前まで呼んでしまっては、もうなんか、いけない気がする。そう、出版社魂的に!
生前、仲の良かった作家のHさんの話を思い出した。
彼女に自分の好きなキャラクターのコスプレをさせ、二人ではしゃいでいたところまでは良かった。しかし、似合いすぎていて、ガチでそのキャラクターの名前を呼んでしまったが最後、ドン引きされた挙句に、数日後に別れたらしい。
べ、別にあの時のトークが、トラウマになっているわけでは決してない。これはあくまでも出版社魂なんだからね!
「で、では……ベル様と」
『わかりました。では今後、あなたの前では、私はベルです』
ふう、危ない危ない。
まあ、これなら良いだろう。
これなら特定には至らない。女神さま以外にも、女神さまの眷族の少年のパターンだってありうるわけで。
全く、死後の世界とか、超常現象とか、ほんとままならん。話をする前段階でこれだ。
っていうか、さっきから俺は一人で何と戦ってるんだ、ちきしょう。
『私は、あなたの事はあなたと呼ばせてもらいますね。広瀬雄介であった存在はもういません。そしてあなたは、広瀬雄介とは別の存在になるわけですから』
「分かりました、それで構いません」
(……いや、でも……やっぱり……な)
……結局。
俺は女神さまにもう一度頭を下げて、別の姿に変わって頂いた。
本当に、友人の話のせいじゃない。これは仕事柄の癖だ。
他社IPコンテンツに非常に酷似したキャラクターをメインキャラクターに据えると、ノベライズやコミカライズ化した時に非常に苦労する。
表紙に描けなくなるからだ。
別キャラです、と言い張って載せても読者はこう言う事に見識が広い。パクリだなんだと炎上は必至である。そう言って、キャラクターデザインの変更を何度お願いしたことか。
しかも今回は、マジで同一人物、いや、同一女神のそれである。こんなの、ノベライズの表紙にしようもんなら、モザイクにするか、「コンプラ」と書かれた黒い海苔を貼るしかない。
いや、これは現実で、作り話じゃないから、無用の心配なんだけど、さ。もう職業病ということで勘弁してもらいたい。
でも、一巻の表紙に『コンプラ』って海苔が貼ってあるキャラがいるなんて、それはそれで売れそうだな。生きてるうちにやってみれば良かった……。
部長、怒るだろうな……。
ちなみに俺が思い浮かべたのは、金髪ロングヘアの、白い羽衣を纏った、もう、見るからに「ザ・女神」と言うような造形だった。
姿も変わったことだし、名前はもうそのままでいっか。
「……して、ベル様。転生、というのは」
落ち着いたところで、改めて俺はベル様に聞いた。
『そうですね。どこまで話せるかわかりませんが、出来得る限りお伝えしましょう……』
******
ベル様の話は要約するとこうだ。なんか色々、知らない概念や、難しい表現があったので、出来るだけ分かり易く言い換える。
頑張る。
ベル様のような存在は、この世界、というか宇宙の外にはいくつかいて、ベル様はその一人、いわゆる「太陽系担当」みたいな感じらしい。まあ、その名前も俺たちが勝手に名付けただけなのだけれど。
で、各々の女神様たちは、いろんな条件を組み合わせて世界を創るが、上手くいくことはほとんどなく、何も生まれないか、すぐに『無』になってしまうらしい。ベル様の太陽系、ひいては「地球」は、本当に数少ない成功例であるらしかった。
そして驚くべきことに、その地球人たちは、発展していくうちに、ベル様たちと同じような仕事をし始めた。
そう、「新しい世界を創る」。
つまり、「物語を創る」ということだ。
それは、女神様たちの中には驚愕の発想であったらしい。そして、とある別の女神さまがそこに目をつけ、ベル様に頼み込み、その物語を参考に別の世界を創造した。という事だった。
「ベルちゃん、地球の子達が創った『物語』とかいうのの世界観、どれかパクって良い?」
って事だ。
おい、別世界の女神よ。
著作権侵害であるぞ?
……しかし、そこでベル様の話が止まった。
「ベル様?」
『すみません。私達は、地球人の魂を、別の世界に送ることは可能です。しかし、その者に、その世界の前情報を少しでも明かすことは出来ないのです。知れば、自然の成り行きで世界が動かなくなってしまうから』
どうやら、女神様たちは、創造した後は、世界に直接手を加える事は出来ないらしい。
そういやプレステ初期に、ロボットにプログラミングを組み込んで、後は自動で自分の組んだプログラム通りに戦うのを見ているだけのゲームがあったが、そんな感じなのだろう。
女神、というより、観測者、と言った方が近いのかもしれない。
「なるほど、分かりました。では、本題ですが、私がベル様に呼ばれた、その理由をお教え下さいますか?」
この先のベル様の答えは、なんとなく予想が出来た。そしてそれは奇しくも、見事に的中した。
『あなたに、その創られた世界を……救って欲しいのです』
ですよね。
……まあ、定番で考えれば、そうなるか。
「救う?」
『はい』
「……なにから?」
『……』
「どうやって?」
『……』
答えられないらしい。なるほど、流石にこれらは全部、前情報になってしまうか。
「ベル様、あの、もう少し目的が分からなければ、転生してもご期待に沿える自信がありません」
『……そう、ですよね。すみません。でも、これ以上の説明は、どうも私には難しいようです』
超存在であるベル様が、悲しそうな表情をした……気がした。
いかんいかん! 20世紀後半、多くの男性が愛したこの女神さまを悲しませることなどあってはならない!
いや、もう既にお姿は変わって貰ったけど。
「分かりました。では、こちらから質問をさせて下さい。ベル様は答えられるもののみにお答えくだされば結構です」
『そうですか、それは助かります』
ベル様が少し微笑んだ、ような気がした。
よし、ミッション開始である。女神様から情報を聞き出すミッション。略してメガミッション開始である!
言ってみて、その壊滅的なネーミングセンスに死にたくなってくる。いや、もう死んでんだけど。
ともあれ、きっとこの後、俺には二回目の長い人生が待っている。
それも、一つの目的を課せられた。
それを生かすも殺すも、恐らくはこの、ここでの質問次第。
俺にはそれが分かった。
前情報を明かせないのならば、「救う」という目的は教えて貰えても、その「手段」の情報はゼロだろう。下手したら、その「手段」にさえたどり着けずに人生が終わりかねない。
さらに、ベル様たちは、魂を送り込むことは出来ても、干渉は出来ないと言った。つまり、ここを離れれば、もう話すことはおろか、アドバイスを受ける事も不可能となるだろう。
つまりここで、ベル様の禁則事項に引っかからない限りで、最大限の情報を聞き出さなくてはならない。
なに、得意分野だ。
俺が生前、どれだけの推理小説を読み、そして書いて来たと思っているんだ?
俺は、まだ見ぬ世界を救うために、ミステリー小説に登場する探偵の如く、かつてないほど頭を巡らせたのだった。
(第3話『メガミッション その2』へ つづく)
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