異世界転生ルールブレイク

稲妻仔猫

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第二章

第23話 魔獣ゲージャ

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 なんだあれは。

 いや、そんな愚かな自問自答をしている場合ではない。
 これまでに集めた大型魔物の特徴。
 あいつが北東三辺境領に現れていたという情報。
 それらを総合すると、導き出される答えはただ一つ。

 リングブリムに魔獣ゲージャが出現した。
 それ以外にはない。

 くそっ! こんな時に。
 どうする? どうするべきか?

 俺の能力は通用しないかもしれない。
 俺に出来る事は少ないかもしれない。
 しかし、魔獣ゲージャは、幹部の中でも唯一人型の造形をしていない魔物である。
 ワンチャン通用する可能性はある。

(ひとまず、行くしかねえ!)

 いずれにしても、リングブリムを見捨てることは出来ない。
 俺は相棒マヤノに跨り、一直線にダグシェワの砦に向かって行った。

 そして二時間後。
 かなり近距離に魔獣ゲージャが確認できる距離まで近づいたその時、今まさに戦いが始まろうとしていた。

 僅かではあるが、砦から大勢のパニックに陥っているであろう悲鳴が耳に流れてきた。

『一息に吹き飛ばしてくれる』

 そして、くぐもった声ではあったが、確かにそいつはそう言葉を発した。

 やはり、あいつは言葉を話すのか。

 そんな事を思った束の間、ゲージャは大きく息を吸い込むような動作を見せると、喉の奥で何かの力を溜め込むような動作をした。

 いや、なんかいきなりクッソヤバイ雰囲気なんですけど!?

 見たことある、あれはブレスって奴だ。
 口から高エネルギーのなんかを発射する。
 どの作品にも満遍なく、当然のように登場するドラゴンの最強攻撃、ブレス。それが今まさに目の前で展開されようとしていた。

『ごばあああぁ!!!!』

 ゲージャの口から光が漏れ出したと思ったら、奴はそれを一気に砦の防壁に向かってレーザービームのように放った。
 周りの風圧、空気の匂いの変化、温度の上昇。
 その感覚から、あれが質量の無いただの光線ではないことは明らかだった。

 うおおい! なんだよあれ!
 あんなの喰らったらひとたまりも無い、規格外すぎるだろ!
 くそ、すんでのところで間に合わなかったか?!

 俺がそんな感想を心に抱いたのはわずか一瞬。
 ゲージャのブレスが砦に襲い掛かる。

 ドゴゴゴゴゴゴ!

 上がる土煙で良く見えない。

(くそっ、何がどうなった!?)

 それはゲージャも同様であったらしく、やつは翼で空気をひと薙ぎしてその土煙を払った。
 きっと、そこには全壊したダグシェワの防壁ががれきの山と化しているに違いない。誰がどう見たって、その後の光景はそう予想しただろう。

 しかし、俺のその予想は覆された。
 防壁は無傷だった。

「なに!?」
『なに!?』

 奇しくも、俺とゲージャの反応が被った。
 いや、俺はどっちの味方なんだよ!?

 ともあれ、ダグシェワはゲージャの攻撃に対抗出来ている。それは確実だ。であれば、急いで加勢に向かうだけである。

 俺は、近くにあった木に相棒マヤノを括った。

(ここなら奴の巻き添えになる事はあるまい。少し待っていてくれよな)

 そして俺は一目散に砦へと駆けだした。


『なるほど、これが貴様らの魔法か。しかし、我が攻撃をいつまで防ぎきれるかな?』

 ゲージャは納得したように頷きつつそう言い放った。

 魔法!

 一気に情報と状況証拠というピースがはまる。
 つまり、あの砦にはリングブリムの魔法使いがいる。
 恐らくその魔法使いの特性は『防御特化』に違いない。
 そして、正に今、その魔法を駆使して魔獣ゲージャのブレスを防いだ、という訳か。
 しかし、聖女であるアイシャでさえ、魔法で魔物を十数体狩るのにかなり体力を消耗していた。
 果たして、あの攻撃を何度も防ぐほど、魔法使いの力がもつのだろうか?
 いや、もたないと予想したからこそ、ゲージャはあんな風にのたまったのだ。

 まだまだ余裕の雰囲気を醸し出しているゲージャが、もう一度、大きく息を吸い込んだ。

「うわああ! また来るぞ!」
「退避! 退避!」

 かなり近寄ったこともあり、砦の声がかすかに俺の耳に届いた。
 やはりかなり混乱しているようだ。

「"鉄壁の光アイロンクラッドレイ"!」

 ひときわ大きい声が、城壁のてっぺんから聞こえた。
 女の子の声だ。

 見ると、一人の女の子が、城壁の淵に立ち、両手を伸ばして広げ、手のひらをゲージャに向けている。

「やああああああ!!」
『ごばあああああ!!』

 再び、ゲージャがブレスを放った。

 移動した成果か、今度は俺にも状況がはっきりと見て取れた。

 口から大質量のレーザーを放つゲージャ。
 そして砦側は、半球型のバリアを張り、それをはじき返していた。

 う、嘘だろ。
 目の前の光景は正に、『放射能汚染巨大怪獣〇ジラVS地球防衛軍のバリア』さながらの攻防だった。
 まさか、異世界とはいえ、特撮モノのバトルような光景を、しかもこんな近距離で目撃する羽目になろうとは。

 ゲージャのブレスが尽きると同時に、半球型のバリアも消失する。
 それは、術を解いたというより、たまたま術の限界が、奴のブレスの終わりに間に合った、という感じに見えた。
 俺は城壁に目をやる。

 先程、バリアを展開したと思われる少女は、よろめいて、防壁の淵に寄りかかって何とか身体を支えていた。

(駄目だ! 多分、アオイは次はもたない!)

 まるで某ソシャゲの様な光景についつい勝手に彼女の名前を決めてしまった。いや、だって、それ以外に無いシチュエーションだったから!

 そんな与太話はさておき、俺は瞬時にそう判断すると、反射的にゲージャに向かって駆け出していた。検証している暇はない。
 しかし、視界に入らなければ、気配で察知されることは無いはず。
 ならば最初の一撃くらいは無条件でお見舞い出来るはずだ。
 それを決定打にしてしまえば良いだけの事だ。


『ふふふ、ふははは。魔法使いよ。よくぞ二度も耐えて見せた。しかし、もう力は残っていないようだな』

 さすがにゲージャにも、あの少女の疲労の様子を見て取れるようだ。
 奴が何度ブレスを撃てるのかは知らないが、あの口調から察するに、確実にもう一回は放つ余裕がありそうである。

 ちなみに、俺が地球で良くやっていたファンタジーのアクションゲームでは、レッドドラゴンのブレスは三回と言うのがお決まりだった。ここもそういうテンプレにのっとっていたりするのだろうか?

『まさか、最後の一発を放つことになろうとは思わなんだぞ』

 則っていた。
 最後の一発なんて、ご丁寧にありがとうございます。

 しかし、これは良い情報である。
 次のブレスを何とかすれば、僅かでもこちらに勝ちの目は見えてくる。

 ゲージャに気づかれにくい俺。
 後は双方の総力を挙げた肉弾戦。
 疲れているとはいえ、リングブリムの魔法使いがいる。

 ならば俺のすべきことはひとつ。
 そして絶妙のタイミングを計らなくてはならない。

(よし、ここらへんで良いか)

 俺は、全力で走れば、ゲージャの足元まで20秒という辺りの茂みに息をひそめた。


『ではそろそろ終わりにしようか。さらばだ、フェリエラ様に逆らう、愚かな魔法使いよ』

 ゲージャはそう言うと、再び大きく息を吸い込むような動作を見せた。

(今だ!)

 奴のこれまでの動作から、力を溜め始めてから発射まで、約20秒とちょっとくらいってところだ。
 となると、今から20秒後には最後のブレスが発射される。
 俺は、その発射の数秒前に、ゲージャの足元に辿り着く計算だ。

 ちらりと城壁を見る。
 そこでは、二人の大人に体を支えられた少女が、悔しそうに目を細めていた。

 俺は、明確に、その光景を見た。

『ごばっ……』
「やらせるかよ!」

 力を溜め切ったゲージャは首を上に向け、ブレスを吐く直前のモーションを取った。
 これでもう奴もブレスを中断することは出来ない。
 全力で走り寄った俺は、奴の体重を支えている後ろ右足を、踵から全力でぶった斬った。

 公爵家の財を限界まで投じて作られた最高傑作である俺の両手剣バスタードソ―ドは、奴の足を半分ほどを切断した。
 やはり骨の途中で止まったので、そのまま振り抜き、即座に返すがたなで今度は逆サイドから切れ込みを入れるように剣を振るった。

 バキッ、という音と共に、手ごたえが消失する。
 切れ込みを入れた骨が、奴の体重を支えきれなくなり割れたのだ。

 僅か二撃。
 俺は見事にゲージャの右足首を切断した。
 

『ゴ、ゴボばあああああ!!』

 そして、体重の支えを失って仰向けに倒れ込みながら、ゲージャのブレスは放たれた。
 それは防壁の遥か上空を通過し、徐々に空に向かって垂直になる角度に変化し、やがて消失した。
 ゲージャのブレスによって、空の雲が吹き飛び、世紀末覇者の昇天さながらに綺麗な青天が広がった。

 よし、最後のブレスを凌いだ!

 奴の身体の下敷きにならないように瞬時に避難した俺は、目の前の状況を見て、初手の作戦の成功をひとまずは確信したのだった。

 しかし、この後どうすべきか。

 俺は瞬時に考えを巡らせた。

 ゲージャを野放しにすれば、俺がアイシャの元に戻っても、いつ再びこのような事態に陥るか分からない。
 かといって、俺がここに残り続けるのも良いアイデアとは言えない。

(となれば、答えはひとつ!)

 後顧の憂いを絶つためにも、ここで魔獣ゲージャをる!

 


(第24話 『死闘 その1』へつづく)

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