泡沫ユートピア

安達夷三郎

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十三話

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「失礼しました」
その日の放課後、職員室に呼び出された俺は、聞き取りを追えて、家路についた。
担任と生徒指導の先生との話し合いは残念ながら平行線。
『上靴を隠したのは桜井なんだよな?』
『そうです』
『でも、隠した場所は忘れたと』
『はい、忘れました』
自分から"俺が犯人だ"って名乗り出たくせに。
何を聞かれても曖昧な答えしか言わない俺に、さすがの生徒指導の先生も呆れ顔だった。
(まぁ実際、上靴を隠したのは俺じゃないし)
何処に隠したのか聞かれても、分からないのだ。
犯人なら目星はついている。未来が犯人だと言ったあの女子達だ。名前は、、、知らん。前にも未来をイジめて、、、まだ懲りていなかったのか。
証拠はない。勘がそう言っているだけ。
(物的証拠あれば追い込めるのに、、、)
「あー、ダルっ」
肩から下げた通学鞄が重く感じる。空はどんよりとしていて、もうすぐ雨が降りそうだ。
「クッソ」
足元にあった小石を蹴った。
小石は数回跳ねた後、側溝そっこうに転がり落ちた。

「ただいま」
三人で住む家に帰ると、見慣れた靴があった。蓮斗のだ。未来は、、、帰ってきていないのか。
「おかえり」
リビングに入ると、蓮斗は三人分の洗濯物を畳んでいた。
美味そうなカレーの匂いがキッチンから漂う。
「未来は?一緒に帰って来なかったのか?」
「先に帰っててって言われたんだ」
未来も、たまには友達と放課後、出掛けたいだろう。
それから三十分くらい待っていたが、帰ってこない。
「何かあったのかな?」
「、、、行くか」
未来の身に何かあったのかと思い、急いで学校に戻る。
下駄箱で上靴に履き替えると、蓮斗と手分けしてしらみつぶしに探した。
「あ―――」
そして、理科準備室で未来を見付けた。
「おいっ、何やってんだよ」
俺が声をかけると、未来は驚いたようにゴミ箱から顔を上げた。
いつも低めの位置で二つに結んだお団子の髪には、小さい紙くずが付いていた。
手にはインクで黒くなっているし、、、。
その姿で、未来が何をしていたのか理解出来た。
「お前なぁ、、、」
未来が何で学校中のゴミ箱を漁っていたのか、説明されなくても分かる。
「東海の上靴を探していたんだろ」
「、、、うん」
やっぱり、典型的なお人好しだ。見ているこっちがソワソワするくらいに。
「そんなの、見付かる訳ないだろ!」
つい、声に力が入ってしまった。
あいつらが、上靴を何処に隠したのか分からないのに。
そもそも、学校内に隠したとも限らない。
「どうせ見付からないのに、探したって意味ないだろ」
投げやりな言い方をして、うつむいた。
今日一日中、たまりに溜まった怒りが爆発したんだ。
全部、全部、何もかもにイラついていたんだ。
「だからもう、、、止めろよ」
「でも、、、」
その時、それまで黙っていた未来が口を開いた。
中学生の頃にあげた首から下げたお守りを握りしめて、じっと俺の方を見ている。
「梨子ちゃん、上靴がなくなって泣いていたし、、、石橋先生も"せめて上靴が見付かれば"って言っていたから、、、!」
弱々しいくせに、一度決めたらやり遂げる芯の強さがある。
「な、何だよ、それ。そもそも俺が上靴を隠した犯人かもしれねぇじゃん」
ぶっきらぼうにそう言うと、未来はフルフルと首を左右に振った。
「悠くんは、そんなことしないよ!」
「は?」
「だって、小さい時から一緒にいたから分かる」
きっぱりと、否定した。
力強くそう言うと、また躊躇ちゅうちょなくゴミ箱に手を入れ出した。
「馬鹿。だからもう、止めろって」
「悠くんは、先に帰ってくれて良いから、、、」
未来を止めようと、一歩踏み出した瞬間。
「本当だよ~、理科準備室に白露さんが入って行くとこ、見たの!」
「シーッ。大きな声で話したらバレちゃうよ」
聞き覚えのある声が、廊下からしてきた。 
―――あいつらだ。
「おい、隠れるぞ」
俺は咄嗟に、未来の手を引いて机の下に身を隠した。
一緒にいるところを見られたら、今度こそ確実に未来が厄介事に巻き込まれる。
「理科準備室の鍵って、中から開けられないから便利だよね~」
ガチャン!金属と金属がぶつかり合う鈍い音がした。
同時に、
「キャハハ!白露さんが悪いのよ」
という甲高い笑い声が聞こえて、足音が遠ざかった。
扉の手をかけて開けようとするが、開かない。
「、、、マジかよ」
多分、いや、確実に閉じ込められた。
「クソが」
ガンッと扉を蹴る。大きな音が響いた。
「ご、ごめん、、、」
ハッとして隣を見ると、未来が膝を抱えて俯いていた。
「は?悪いのはあいつらだ。何でお前が謝るんだよ」
とりあえず、スマホを操作して蓮斗に【理科準備室に閉じ込められた。助けろ】というメッセージを送る。すぐに既読が付き、返ってきたのは簡略化された三毛猫がOKと書かれた札を上げているスタンプだった。
「蓮斗に送ったから、すぐに出られる」
「本当、、、?」
「ああ」
未来は、ほっと胸を撫で下ろす。
―――次の瞬間。
「助けに来たよ」
ガチャリと鍵を開ける音が聞こえて、ガラガラと扉が開いた。
ひょっこりと、蓮斗が顔を覗かせた。そして、後ろからドタドタと足音が聞こえる。
「桜井が閉じ込められているって、本当だったのか、、、。白露も閉じ込められたのか?」
「ね、僕が言った通りだったでしょ?明日、もう一度あの女子に聞いてみて下さい」
蓮斗と石橋先生は何やら話している。
やっと出られる、、、腹減った。
「おい、立てるか?」
床に座り込んでいる未来に手を伸ばす。
「う、うん」
立ち上がらせ、何気なく床に目を向けたら不自然にガムテープが剥がされているダンボールが目に留まった。
「あ」
そのダンボールを開けると、『東海』と書かれた上靴が出てきた。
「先生、ありました」
石橋先生の前に上靴を差し出す。そして、、、
「すみませんでした。実は俺、上靴を隠した犯人じゃありません」
本当のことを話す。石橋先生は肝を抜かれたみたいに俺と上靴を見比べている。
「それなら、、、停学の件は取り消そう」
「本当ですか」
「良かった~、、、」
「良かったね、悠斗」
いつの間にか空は晴れており、綺麗な星が輝いていた。
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