幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第二幕 みんなが子猫を探してる

大番頭雷蔵 2

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 赤子の手をひねるように青太郎をあしらって店表に顔を出した雷蔵は三人の番頭たちからこの日の貸し付け額や回収額を聞き、支払いがとどこおっている債務者さいむしゃへの対応を二~三指示した後、かしぎ場へと足を向けた。

「お都留つるさん。悪いが水を一杯貰えるかい?」

「あらま雷蔵さん、言って下さればお持ちしたのに」

 振り向いた女中頭のお都留が雷蔵の姿を見たとたんに頬を赤らめながら身をくねらせて擦り寄ってきた。

「いや、ちょいと疲れてね。こうやって人中じんちゅうはなを見て……心に滋養じようたかったのさ」

 今年丁度三十路みそじになった男盛おとこざかりの雷蔵が歌舞伎役者も顔負けな流し目で弱々しく微笑んだ。

「あらま。あらま。あらまあまぁー!」

 もうとっくに四十を越えているお都留が益々顔を赤くする。

あの・・若旦那のお相手するのも大変でしょうに」

「なぁに、どんなにあれなあれでも大恩ある先代の一人息子。あっしが支えてみせますや」

「偉いねぇ、粋だねぇ。あたしがもう十も若かったらっときゃしないよこんない男」

「そうですかい。えにしの神様は意地悪な事をしやすな」

「まったくだよ。あはははは」

 お都留が水を汲んだ柄杓ひしゃくを差し出すと雷蔵はそれを受け取ってお神酒みきでもあおるように、くっくっくぃーっと三度に分けて飲み干した。

「はぁー……ほんに良い男っぷりだねぇ、水を飲む姿も絵になるよ」

 お都留。めろめろ。

「ところで何か変わった話とかその耳に入っておりやせんか?」

 雷蔵は柄杓を返すと何気なくお都留にそう聞いた。

 噂話には滅法めっぽう強い年増女の情報網。『これが存外と商売の種になる』と先代が言っていた。

「そうさねぇ……。そういや紙問屋の増山屋ますやまやの旦那、暮れに風邪を引いたきりまだ床払とこばらい出来ないそうだよ。あすこは跡継ぎもいないってのに……どうするんだろうねぇ」

「そうですかい、増山屋の旦那が……」

 雷蔵も増山屋に跡継ぎがいないことを耳にしていた。

『……これは面白い』

 雷蔵はお都留から顔をつっと反らして顎先あごさきに指をえると、頭の中で算盤そろばんを弾いてほくそ笑んだ。

 このままいけば増山屋が持っている紙問屋の株が浮く。

 両替商だけでも充分に利益を上げている狐屋。

 金蔵で行き場もなく唸っている山のような千両箱を開いて他の業種にも商いを広げたいところだが、がっちりと安定した封建制度の下では業種ごとに組合が存在していて他業種からの新規参入はかなり難しい。

 特に幕府や各藩が定める特定の産物は取り扱う商人の数に制限があるので、その業種に入り込むには売買の許可証ともいえる『かぶ』が必要になってくる。

 株が必要な品目は、金、銀、塩、たばこ、うるし、イグサ等、かなりの多品目にわたり、増山屋が扱う『紙』もその一つだ。

 そして増山屋は四年前の大火事で跡継ぎを含めた家族全員を失っている。

 普通なら親類縁者しんるいえんじゃの中から跡継ぎを決めるのだが、失った家族をとむらう葬儀の場で、強欲な親戚どもが弔辞ちょうじを述べるよりも先に跡取りの座を巡ってつかみ合いのケンカを始めた。

 誰も本気で家族の死を悲しんでいない事に増山屋の主人が怒り、増山屋は自分の代で店を畳むと言い放ったという。

 このままだと増山屋が保持している紙問屋の株は増山屋の主人の死と共に幕府に差し戻されることになる。

 幕府に戻された株は、新たにその株の取得を願い出た商人の中から選ばれる事になるのだが――。

 ―― 好機が来た ――

 脳髄のうずいを駆け上がる興奮をじっくりと噛みしめながら雷蔵は薄く笑った。
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