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本編

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アンジェリカになってから1ヶ月……多分その位経った。私は相変わらずアンジェリカ・ヴァルク(16)のまま。グレンとセレスちゃんも全く進展せず、私との婚約も継続されたまま……

ふとカミサマとやらとの会話を思い出す。私は元々アンジェリカでその生を全うしろって──

なんかさ、最初はどこか全てが他人事だったんだ。私は元々地球人だったし、ここゲームと良く似た世界だし。未だにちょっと悪い夢見てるだけなんじゃないかってどこかで思ってる。起きたら元の私に戻ってるんじゃないかって……もうそんなことはないだろなって諦めてるけどさ。

でもいざアンジェリカとして生きるって考えた時、この世界のことも碌に分からないままどうすればいいんだろって途方にくれたんだ。小一時間ほど……
んで、知らないなら知れば良いんじゃん!ってさくっと切り替えた訳だ。







はい、やってきました初めての夜会。アンジェリカは貴族だからさ、先ずは貴族社会というものに触れてみることにした。
貴族の女子は16歳で社交界デヴューして、婚約者探したり人脈広げたりするんだって。社交界ってリアル出会い系ツールみたいな感じなのかな?

社交の場に参加する時、女性は男性にエスコートされるのが普通みたい。婚約者がいる人は当然婚約者が、いない人は親類の男性が請負うのが一般的なんだって。
私個人としてはお兄ちゃんかパパにお願いしたいところなんだけど──

「何が不満なんだアンジェリカ」

「全て」

「俺の何が不満なんだ?」

「んー全て?」

「それじゃ直しようもないな、我慢しろ」

馬車降りたところでお手の催促みたいにグレンに手差し出されて、仏頂面して拒否ってると、強引に手掴まれた。

「ちょっと」

「貴族の社会が見たいんだろ?そのままじゃ中にすら入れないぞ」

グレンと手繋ぎ何て冗談じゃないけど背に腹は変えられない……何とか気持ちを切り替えた。

人前に出るんだから一先ず不機嫌モロバレな顔は何とかしないとね。可愛いセレスちゃんを思い浮かべてみる。自然と顔が緩んだ。よしよし。

「百面相か?お前面白い顔してるよなホントに」

「あんたにどう思われようとどうでもいいし、興味もないから」

緩んだ顔キープのまま声のトーン下げるって中々の芸当やってのける。
満面の笑顔のまま怒るって面白い芸する俳優さん居たよね、あんな感じ?

そしたらグレン吹き出して笑いやがった!こいつー!
何かさ最近私がグレンのこと嫌がるのも、きったない言葉遣いもガサツさも全部全部面白がられてる気がすんだよね。お前の娯楽じゃねんだよ私はっ!

折角緩んだ顔が一気に不機嫌に巻き戻った。どうしてくれるんだ。睨みつけるとグレンは涙流しながら引き笑いしやがってる!もうそのまま窒息してまえ!

「あまり笑わせるなアンジェリカ」

「あんたを笑わせたい気持ちなんて一ミリもないから」

「ああ、俺は勝手に面白がるからお前はそのままでいい」

私思わず真顔でグレンを見上げる。何だ?って言いたげに、笑い過ぎて涙目になってる青い目がすうって細くなった。

「私このままでいいの?」

「そのままがいい」

即答。
何なのこの男。一番欲しい時に欲しい言葉くれるとかさあ、何か……ああもう!

「なっ……!何で泣くんだ?」

又不覚にも涙腺が緩んでしまった。グレンは狼狽ながら泣いてる私を周りから隠す様に抱きしめた。

これから右も左も分からない世界でアンジェリカとして生きなきゃって思ってるところに、今のままのお前で良いんだ、何て言われたらさ……素直に嬉しいんだよ!それはもう舞い上がっちゃうくらいに!

「うーっグレン……バカ!」

嬉しいのに素直にコイツにありがとうって何か言いたくない。口から出るのはいつもの憎まれ口だけ。でも心の中では何回も言った。グレンマジありがとう。素直に嬉しいよって。

グレンは何も言わないで私の背中さすってくれてた。こんな令嬢らしくもない下品な私を面白がるとか、グレンって案外物好きなのかな?
私の中でグレンは嫌な奴からちょっと嫌なヤツ位にランクアップした。
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