乙女ゲーに転生!?ある日公爵令嬢になった私の物語

ゆーかり

文字の大きさ
55 / 77
本編

53 グレン視点

しおりを挟む
「ようこそおいで下さいました、感謝申し上げます殿下」

「楽にしてくださいメイヨール伯。その後マチルダ嬢は?」

メイヨール伯は厳つい顔をきゅっと曇らせると、首を横に振った。

「会わせて頂くことはできますか?」

「ですが……」

「どんな状態でも構いません。真相究明の為ご協力願いたい」

圧を込めて微笑めば、メイヨール伯はぐっと言葉を詰まらせた。

「……殿下がそうおっしゃるのでしたら……」

「感謝しますよ、メイヨール伯」

案内のメイドについて行こうと歩きかけたところ、メイヨール伯に呼び止められた。

「殿下、こちらの女性は?見慣れない方のようですが」

俺の後ろにピッタリと付き従う女を、伯は怪訝そうに見ている。

「アン・ル・ルブランと申します。カルシファー様の縁故で殿下の秘書見習いを致しております。以後お見知り置きを」

アンが優雅に辞儀をし微笑めば、ほうっと伯の視線は釘付けとなる。

「そうでしたか、このようなお美しい方が側におられるとは何とも羨ましい。婚約者様もさぞやきもきされることでしょうな」

はははっと伯が笑うと、アンは「そんな……」と肩を震わせて俯いた。高く結い上げた栗色の髪が小さく揺れる。こいつ笑い堪えてるな。

「女性が居た方が何かと都合が良いでしょう。後学のためにも同行を許して頂きたいのですが」

「ええ、構いません。お引き留めして申し訳ありませんでした、殿下、アン殿」

メイヨール伯はアンの美しさにすっかりデレデレだ。アンが「ありがとうございます」と蕩けるように微笑めば、伯は年甲斐もなく頬を赤らめる。俺はその様を苦々しい思いで見つめていた。








扉を開けた途端、クッションが顔面目掛けて飛んできた。中々のコントロールだな。俺はそれを片手で受け止めた。

「イヤっ!来ないで!イヤあああ!」

頭を抱えて床に蹲るマチルダ嬢。興奮させるのは得策ではないがどうしたものか。
俺が思案しているとアンがすっと前へ進み出て、怯むことなくマチルダ嬢に近づいていく。

そしてマチルダ嬢の側に膝をついた。マチルダ嬢は反射的に顔を上げると「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。アンが手のひらに特大の火の玉を浮かべていたからだ。

「ふふ、マチルダさん、やっぱり錯乱なんて演技ね。私あまり気は長い方じゃないから、焦らされるとこれウッカリどうするか分からないわ」

火の玉をみつめて困ったように首を傾げるアン。あからさまな脅しだ。

「あ、あ……アン、ジェリカさま……なぜ……」

アン──もといアンリは満足そうに笑いながらウィッグを投げ捨てた。本当にお前は悪役が似合うな。

「何故?何に対して?」

「だってあな、たの魔力は微弱であるはず……」

「あーそれはね、企業秘密」

頼むからこの国にない言葉は使わないでくれ。

「でも良かった、話し合いの余地はありそうね、マチルダちゃん?」

マチルダ嬢はカタカタと震えだした。そんなマチルダ嬢の顎を捉えてアンリは瞳を覗き込む。

「ねえ、正直に答えて?どうして私を殺そうとしたの?」

「に、憎いからよ!」

「グレンが好きで私が邪魔だから?」

マチルダ嬢はチラッと俺を見ると目を伏せ、そしてコクっと頷いた。

「でもあんなことあなた一人じゃできないよね?誰の指示なの?」

「それ、は──」

「んーそろそろ肩が凝ってきたなあ。これ適当にぶん投げていい?」

アンリは火の玉をゆらゆら揺らした。

「や、やめて!言いたくても言えないの!言ったら私は死ぬから!」

アンリは火の玉を消した。

「どういうこと?」

「ち、血の誓約……私はもう引き返せないのよ……」

マチルダ嬢は涙を溢した。

血の誓約──代償は命という一種の呪いだ。

「法で禁じられていることは知っているか?自白した以上あなたもただでは済まないぞ、マチルダ嬢」

「存じております……」

「そんなことしてまでグレンが欲しかったの!?命をかけるほど!?」

いや、それだけではないだろう。あの手この手で脅されたのだ、恐らくは。

「俺は何があってもアンジェリカと離れるつもりはない。あなたの希望には添えない、永劫に」

マチルダ嬢が嗚咽を漏らす。薄汚い企みでアンリを陥れたのだ、誰が許すものか。

「えーと、マチルダちゃんはこれから拘束されて取り調べを受けるんだよね?」

「まあそうなるな」

「白状できないことどうやって吐かせるの?下手したら暗殺とかされるんじゃない?」

暗殺という言葉にマチルダ嬢はビクッと肩を震わせる。

「いや!私まだ死にたくない!何でもします!私を助けて!」

アンリを殺そうとしといてこの女は何を言っているのだ。すっと心が冷えていく。

血の誓約は魔法ではない、絶対の隷属呪術だ。忠誠の証として君主が臣下に当たり前のように施していた時代もあったようだ。

だが今では禁呪とされ、施したものは極刑となる。まあマチルダ嬢が命を捨てる覚悟でもない限り、主の名を吐くことはできないが。

「んーマチルダちゃんウチで預かろうか?」

「はっ!?」

「どうせ私しばらくは外出禁止の身だし、ついでにマチルダちゃんも一緒に監視しつつ守って貰えば良いじゃない?」

お前は……殺されかけたことを分かっているのか?馬鹿なのかお人好しなのか判断に困るな全く。

怒りやら呆れが思いっきり顔に出てたんだろうな。アンリはつかつかと俺の側まで来て、耳元に唇を寄せた。

「可能な限り情報は拾っておく。女同士にしかできないこともあるでしょ?任せて」

アンリはパチっとウィンクした。一瞬不本意ながら見惚れてしまった。その表情があまりに蠱惑的だったから。アンリのくせに。

俺はこれ見よがしにため息をついた。

「……ヴァルク家に万全の体制を整えないとな」

アンリは嬉しそうに瞳を輝かせた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

処理中です...