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第1章 ゴブリンとして生きていく!

第1話 女神も神もいないのか?

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森の中の大池のほとりで、ゴブリンとカエルのモンスターが戦っていた。



「グゥワッワッ!」



顎髭あごひげつややかに生やしたゴブリンが、ブルンフロッグと言う名のカエルのモンスターを青龍偃月刀せいりゅうえんげつとう一刀両断いっとうりょうだんにする!



『マスター、討伐とうばつ致しました!』



『ご苦労様、関羽』



古代中国の武将の装いに身を包んだゴブリンをいたわる、もうのゴブリンの身なりは下半身に見窄みすぼらしい腰布こしぬのが一枚だけだった。





私の名前は、龍門兼慶たつかどかねよし



先日まではのんびりと日がな一日、パソコンでソーシャルゲームをして、老後の日々を過ごしていた。



それが何の因果いんがか、見知らぬ世界、見知らぬ場所でソーシャルゲームをしている。





今日の昼飯はカエルのもも焼きだ。



これが結構、旨い。



肉厚で肉汁があり、脂が何とも言えない甘味と旨味がある。



神戸牛のA5ランクの霜降り肉と比べても、カエルのもも焼きにはかなわない。



贅沢ぜいたくを言えば、塩があれば尚更なおさら旨くなるだろう。



パチパチパチ......



私は火を起こし木の枝に刺したカエルのもも肉を、丁寧にあぶりながら焼いていく。





この見知らぬ世界に来て、はや三日がった。



気付けば突然、森の中にいたとしか言いようがない。



確か日課のソシャゲをしていたはずなのだが、......一体どうなっているんだ?



まあ、この状況を転生と言うのか、転移と言うのか、憑依ひょういと言うのか、今一私には解らないが......。



言うなれば、転移と憑依ひょういのハイブリッドかな?






今まで現実世界では見た事もない、空想上の生き物が闊歩かっぽしている世界。



駅前の書店で、最近立ち読みした異世界物コーナーの小説を参考にするなら、まさにここは異世界と言える。



昔は異世界物なんて言う夢物語のコーナーなどは書店にはなかったが、これも時代なのだろうか......。



今は昔と違い、本もスマホで読む時代になった。



SNSエスエヌエスとか言うインターネットサービスが普及ふきゅうして、便利にはなった。



しかし、その反面として社会は殺伐さつばつとし、ネットリンチが横行おうこうしている。



誰かも解らない相手から、アンチコメントと言う言葉のやいばで、心を刺される。



胆力たんりょくの無い者は心を病んで、最悪の場合は自殺をする。



恐ろしい時代になったもんだ。



まだ世界大戦でアメリカとドンパチしていた頃の方が、私には性に合っていた。



亡き戦友も今の日本の現状を見たら、何の為に戦ったのかといきどおるだろうな。






『関羽、良い具合に焼き上がったぞ! 先に食べなさい』



『いえ、私はマスターの後で結構です。お先にマスターがお食べ下さい!』



『ほほほ、関羽。これは命令だ、先に食べなさい』



『解りました......。では、お先に頂きます!』





美髯公びぜんこう関羽雲長かんううんちょう



三国志の有名な義兄弟ぎきょうだいの一人。



生真面目きまじめな性格だな。



私は目の前で美味うまそうにカエルのもも肉にかぶり付く、美髯びぜんのゴブリンを見守っていた。






この見知らぬ世界に来た当初は、見るもの全てが初めてで驚きの連続だった。



スライムやら、昆虫のモンスターなどに襲われたが、昔取った杵柄きねづかと毎日欠かさない鍛練たんれんこうそうした。



それに異世界物の小説を読んでいて本当に助かった。



スライムなど倒し方を知らずに戦っていたら、今頃はスライムのえさとなり消えていただろう。



スライムは、初見しょけん殺しと小説には書いていた。



それにステータス表示、これも知っていて助かった。



私は駅前にある、書店の異世界物コーナーの小説に感謝した。






『ステータスオープン!』



そう私がつぶやくと目の前の空中に、半透明なプレートが現れる。



で、出た! と言うのが私の率直な感想だった。



半透明のプレート......あ、さわれる! 



その瞬間、私は本当にここは異世界だと確信した。



それにしても、私のステータスって情報量が多くないか?



――――――

情報表示:▼

氏名NAME:【カネヨシ・タツカド】

個体LV:【1】

備考:▼

年齢:【98歳】

種族:【ゴブリン】

身分:【放浪者ほうろうしゃ】▼

   【放浪者ほうろうしゃ】:流離さすらいの旅人。

職業:【英雄召喚師】▼

   【英雄召喚師】:英雄を召喚して使役する。


称号:【プレイヤー】▼

   【プレイヤー】:ゲームプレイヤーの称号。ゲームシステムを使用可能。

   【迷い人】▼

   【迷い人】:アルグリア世界に迷い込んだ者の称号。異世界言語を使用可能。


才能スキル:【英雄召喚LV1】▼

         【英雄召喚LV1】:英雄を召喚して使役するスキル。

説明:▼
【異世界からの迷い人とゴブリンが融合ゆうごうした稀有けうなゴブリン。】

状態表示:▼

生命力HP:【11/11】

魔力MP :【8/8】

精神力MSP:【34/34】

持久力EP:【28/28】

満腹度FP:【99/100】

能力表示:▼

筋力STR   :【11】

耐久力VIT  :【9】

知力INT   :【21】

敏捷AGI   :【20】

器用DEX   :【26】

魅力CHA   :【74】

部隊編成表示:▼

統率力LEA:【未設定】

攻撃力OFF:【未設定】

防御力DEF:【未設定】

機動力MOB:【未設定】

持久力END:【未設定】/【未設定】

戦法力TAC:【未設定】/【未設定】

士気力MOR:【未設定】/【未設定】

詳細:▼

主将:【未設定】

副将:【未設定】

副将:【未設定】

部隊:【未設定】

戦法:【未設定】

特性:【未設定】

説明:【未設定】

――――――



何なんだ、部隊編成表示って?



以前、ソシャゲの戦争ゲームで似たような表示を見た記憶はあるが、一体何なんだ?



困惑こんわくしながらも、ステータスの確認をする私の目に飛び込んできたのは...!





ゴ・ブ・リ・ンの文字! ......種族が【ゴブリン】だって?





ゴブリンって、あのスライムと最弱を争う種族......。



小説に依ってはスライムの方が格上説があるんだぞ......。



私は震えながら初めて自分の緑色をした手を意識し、両手・両腕・体を確認して呆然ぼうぜんとなった。



そして、腰布こしぬのをピラリとまくり、自分の分身をなが落胆らくたんした......忘れよう。



顔をさわるも、よく解らん。



まあ良い、顔など今も昔も気にしない。



まずは現状確認だ。



武器は無い。



素手ステゴロだな。



お、腰痛ようつうが治っている!



節々ふしぶしの痛みもない。



おおおおお~! 



さけび声を上げ掛けた自分に言い聞かせる。



落ち着け、一旦いったん落ち着くんだ。





『ふぉおおおおお~! ほぉおおおおお~!』



外気と内気の呼吸で、自分の体に気を循環じゅんかんさせて、気を落ち着かせる。



落ち着け、冷静になれ、感情に支配されるな!



私はいつも通り、心を落ち着かせた。





称号にある【プレイヤー】【迷い人】とは、一体何だ?



【プレイヤー】と【迷い人】を意識すると、その横に▽のボタンが浮かび上がった。



それをポチッとタップすると説明書きが浮かび上がる。



【プレイヤー】:ゲームプレイヤーの称号。ゲームシステムを使用可能。



【迷い人】:アルグリア世界に迷い込んだ者の称号。異世界言語を使用可能。



ふむ、全く説明になっておらん。



ゲームシステム、......ここはゲームの世界なのか?



全く、よく解らん。



アルグリア世界だって? 初めて聞くぞ?



アルグリア世界に迷い込んだ者って、私は迷子まいごか?



じゃ元の世界に帰れるのか、迷子まいごだけに?



迷子まいごなら転移って事か? でも、ゴブリンだしな......私。



では、やっぱり転生か? 【98歳】で、個体LV:【1】って書いてるし違うよな?



何かのはずみで記憶がよみがったとか? 違うな、なら憑依ひょういか?



これは異世界転移? 転生? 憑依ひょうい? 他に何かあったか? 全く解らん......。



一体、私はどうしてこうなったんだ~!?



異世界小説の定番では、女神さまか神さまの説明シーンがある。



私には何も無いのか? 理不尽りふじんじゃないか?



私は説明シーンをに要求した!



シーン、......



ウンとも、スンとも何事も起こらない......。



お、説明ってのがあるぞ?



私は説明の文字の横の▽ボタンをタップした。



【異世界からの迷い人とゴブリンが融合ゆうごうした稀有けうなゴブリン。】



ぶっ! な、何だ、それは~!



巫座山ふざけるな!



これはひどい、ひどすぎる!



あまりに理不尽りふじん衝撃しょうげきの事実に、私はにやり直しを要求した!



シーン、......



ですよね......。



この世界には、女神さまも、神さまもいないようだ......。



まあ良い、考えろ、思い出せ! 異世界小説の定石じょうせきを思い出すんだ!






『ふぉおおおおお~! ほぉおおおおお~!』



......気を落ち着けた私は、この世界で生き残る為に、ステータスを再び注視ちゅうしする。



【英雄召喚師】:英雄を召喚して使役する。



【英雄召喚LV1】:英雄を召喚して使役するスキル。



ふむ、全く解らん。



やっぱり、重要なのは才能スキルの【英雄召喚LV1】だろう。



英雄召喚と言えば、この世界に来る前に遊んでいたソシャゲも英雄を召喚して戦う対戦ゲームだった事を思い出した。



私は迷わずに、【英雄召喚LV1】の文字をタップした。



すると新たにもう一つの半透明なプレートが現れた。



その画面に表示されていたのは、私が遊んでいた対戦ゲーム【英雄大戦】にゲーム画面だった!



そして、慎重に画面を確認し終えた結論は、対戦ゲーム【英雄大戦】のゲームシステムそのものが、私のスキルとなっているようだった。



所々、【英雄大戦】とはもあるが、今は別に良いだろう。



悩んでいても仕方ない。



私は【英雄大戦】でする最初の行為、英雄ガチャを引く事にした。



お、初回特典は無料で金武将が一枚確定になっているな。



これは凄く熱い!



ここは慎重に選ぶ必要がある。



何故なら、金武将がガチャで出る確率は、一パーセントだからだ。



私も年金を課金に注ぎ込んだが、金武将は一枚も持っていない。



そんな鬼畜きちくの如き確率で出る金武将は、まさしくプレイヤーの切り札だった。



そして、画面の英雄ガチャのパックは二種類。



戦国武将パックと三国志武将パック。



ふむ、何々......戦国武将パックの金武将は、真田幸村さなだゆきむら竹中半兵衛たけなかはんべえ



三国志武将パックは、関羽雲長かんううんちょう華陀かだか......。



ならば、私が欲しいのは、華陀かだだ!



伝説の医師である華陀かだ特殊とくしゅ能力は、回復系だ!



私は生存率を上げる為に、三国志武将パックをタップした!



まぶしく光る演出画面! 出現する金のカードの【英雄大戦】の独特のカード紋様もんよう



ゴクリ、......



そして、金のカードが裏返り、金武将が現れる!



華陀かだ、頼む! 当たってくれ!



出現したのは、......青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを構えたドヤ顔の関羽雲長かんううんちょう



あ、あああああ~! くっ、またも発動したか、物欲ぶつよくセンサー!



こうして、私は何百回目かになる、ガチャとの戦いに敗北したのだった。



落ち着け、冷静になれ、感情に支配されるな!






『ふぉおおおおお~! ほぉおおおおお~!』



心を落ち着かせた私は、金武将の関羽雲長かんううんちょうのカードをタップする。



すると、私の目の前に金色の光の粒子りゅうしが集まり、次第に人物を型取かたどっていく!



そして、古代中国の武将の装いで身を包み、青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを構えたドヤ顔の関羽雲長かんううんちょうが現れた!



『我が名は、関羽雲長かんううんちょう! マスターお呼びにより参上しました!』



そう私に告げる関羽、......しかし、そのドヤ顔は、どう見ても顎髭あごひげつややかに生やしたゴブリンだった!



呆気あっけに取られる私を心配そうに見つめるゴブリン。



一体どうしてこうなった?



異世界小説の定石じょうせきよ、一体何処にったんだ~!



私は心の中で、そう絶叫ぜっきょうした!











私は生き残る。



今は亡き戦友達せんゆうたち



“お前は生きろ! 生き残れ! 長生きしろよ!”



戦友達せんゆうたちの白い歯が、戦友達せんゆうたちの笑顔が、戦友達せんゆうたちの生きざまが私に語り掛ける。



“お前は生き残れ!”











私は生き残っているぞ!



今年でもうすぐ九十九歳、白寿はくじゅだ。



戦友達せんゆうたちよ! 私はまだ生きているぞ!











私の名前は、龍門兼慶たつかどかねよし



戦友達せんゆうたちの想いに、異世界でも必ず生き残るとちかったゴブリンだ!
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