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第1章 ゴブリンとして生きていく!

第2話 女神さまと神さまは、やっぱりいない?

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森の中で、見窄みすぼらしい腰布一枚のゴブリンが固まっている。



その微動びどうだにしないゴブリンを、古代中国の武将の装いに身を包んだゴブリンが、青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを片手に心配そうに見つめていた。



『どうかされましたか、マスター?』



はっ、! ......ゴブリンの言葉で、私は我に返った!



『大丈夫、何でもないよ、......関羽?』



『はぁ、......?』



そして、私を心配そうに見つめるゴブリンに、......“お前が、......本当に関羽なのか?”と聞きたい気持ちを、微妙に隠せずに、そう一声ひとこえ掛けた。





『ふぉおおおおお~! ほぉおおおおお~!』



私は外気と内気の呼吸で、自分の体に気を循環じゅんかんさせ、心を落ち着かせる。



落ち着け、冷静になれ、感情に支配されるな!



私は確かに、......金武将【関羽雲長かんううんちょう】を召喚したはず?



しかし、私の目の前にいるのはつややかな顎髭あごひげを生やしたゴブリン......。



『我が名は、関羽雲長! マスターお呼びにより参上しました!』って、ドヤ顔で登場したゴブリン......。



古代中国の武将の装いに身を包み、青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを片手に、心配そうに私を見つめているゴブリン......。



ふむ、......間違いじゃない、......残念ながら、このゴブリンが関羽雲長かんううんちょうのようだ。



駅前の書店の異世界物コーナーには、こんな話の小説は置いていなかった!



こんな事なら、隣街となりまちの大きな書店の、異世界物コーナーも覗いておけば良かった...。



大きな書店では、異世界小説の種類も多く、新刊もいち早く陳列されていると言う。



駅前の書店、......店主の鈴木さん情報だった。



駅前の小さな書店、......鈴木さん、異世界小説を立ち読みさせてくれて、...本当にありがとう。



鈴木さんに感謝をしながらも、ここは......今迄いままでの異世界小説の定石じょうせきが、通用しない世界の可能性もあると、私は考え始めていた。



私は気を引き締めて、目の前に浮かぶ半透明のプレート、【英雄大戦】に酷似こくじしたゲーム画面を確認した。


関羽雲長かんううんちょうの武将カード情報は、......!

――――――

情報表示:▼

NAME:【ウンチョウ・カンウ】

個体LV:【1】

備考:▼

年齢:【?歳】

種族:【ゴブリン】

身分:【カード武将】▼

【カード武将】:カードに封じられた武将。

職業:【カード武将】▼

【カード武将】:カードに封じられた武将。

称号:【神将】▼

   【神将】:神の如き武将。才能スキル神将を使用可能。


才能スキル:【槍術LV1】▼

   【槍術LV1】:槍を巧みに使う下位パッシブスキル。

   【鉄壁LV1】▼

   【鉄壁LV1】:防御術の上位スキルパッシブスキル。

   【神将LV1】▼

   【神将LV1】:【神将LV1】発動可能。必殺技アクティブスキル。

説明:▼
【異世界のカード武将。異世界の英雄武将で、美髯公びぜんこうと呼ばれ財神ざいじんあがめられている】

状態表示:▼

生命力HP:【28/28】

魔力MP :【18/18】

精神力MSP:【29/29】

持久力EP:【41/41】

満腹度FP:【96/100】

能力表示:▼

筋力STR   :【25】

耐久力VIT  :【48】

知力INT   :【25】

敏捷AGI   :【27】

器用DEX   :【29】

魅力CHA   :【85】

部隊編成表示:▼

統率力LEA:【未設定】

攻撃力OFF:【未設定】

防御力DEF:【未設定】

機動力MOB:【未設定】

持久力END:【未設定】/【未設定】

戦法力TAC:【未設定】/【未設定】

士気力MOR:【未設定】/【未設定】

詳細:▼

主将:【未設定】

副将:【未設定】

副将:【未設定】

部隊:【未設定】

戦法:【未設定】

特性:【未設定】

説明:【未設定】

――――――

あ、......あれ? 私が遊んでいたソシャゲの【英雄大戦】のカード情報と、書式も内容も、全く違う!



一体、......どう言う事なんだ? 私のステータス情報と同じ書式だ!



あ、やっぱり、名前は前なんだ、【ウンチョウ・カンウ】......。



そんな事は、今はどうでも良い!



関羽雲長かんううんちょう、金武将カードなのに、思ったほど強くないような気が......。



ふむ、......チート武将じゃないのか? 



異世界小説は、チートが定石じょうせきの話のはずだが。



は、......話が違うんじゃないか? 女神さま! いや、話はそもそもしてないが! 



異世界小説の定石じょうせきは、適用されないのですか? 神さま!



私は、心の中で女神さまと神さまに、問い掛けた!



シーン、......ですよね。



解ってました、......よ?





『ふぅおおおおお~! ほぉおおおおお~!』



落ち着け、冷静になれ、感情に支配されるな!



この世界には、本当に女神さま、神さま、がいないのかも知れない。



やはり、このゲームのようなシステムが、この世界で生き残るきもになる!



このシステムを早く理解しないと、......この異世界では生き残れないと、私は犇々ひしひしと感じていた。



満腹度は、私も関羽も、徐々じょじょに減少してきている。



カード武将なのに、......腹が減るのか?



よく解らん。



先ずは、水と、食料と、そして、......寝床ねどこの確保だ。



う、うん? ふと、視線を感じて、半透明のプレートから顔を上げた。



するとそこには、私を心配そうに見つめる、あから顔のゴブリンのつぶらな瞳が。



ふっ、......思わず、関羽の心配そうな顔を見て、笑いそうになった、......危ない、危ない。



カード武将だろうが、ゴブリンだろうが、私のだ。



親しき仲にも、礼儀ありだ。



し、しかし、......この世界のゴブリンは、顔だけあかいのかな?



それとも、紅顔こうがんと言われていた関羽雲長かんううんちょうがゴブリンになったからかな?



そもそ関羽雲長かんううんちょうがゴブリンになるって、どう言う事なんだ!



ねえ、女神さま、神さま、何とか言って下さい!



シーン、......ですよね。



理不尽りふじんだ。



一体どうなってるんだ、......全く解らん。



ああ、しまった! いかん、......いかん!



ゴブリンをほったらかしにしていた。





『失礼した、......関羽雲長かんううんちょう殿。貴殿をほったらかしにして、申し訳ない』



顎髭あごひげつややかに生やした紅顔こうがんのゴブリンに、私は深くこうべれた。



『! いえ、マスター! われ如きに、頭を下げる必要はありません! われはマスターに召喚された者にございます! どうぞ、頭を上げられて、......そして、関羽とお呼び下さい!』



私は頭を上げて、毅然きぜんかまえているゴブリンの目を見つめ返す。



つぶらな瞳で、真剣な目で、私を見つめるゴブリンを、......私は何だか可愛かわいいと思った。



『了解した、関羽! 私達は仲間だ、これからよろしく頼む!』



私はそう言いながら、美髯びぜんを生やした、紅顔こうがんのゴブリンに右手を差し出した。



ゴブリンは最初は不思議そうに、私の右手を見つめ、そして、......私の手をしっかりと握り返した。






パチパチパチ......



ふむ、このカエルのもも焼きは食べ頃だな。



『関羽、もう一つどうだ? 遠慮するなよ、まだまだ沢山あるんだからな』



美髯びぜんのゴブリンは、......うにもも肉を食べ終わり、手に付いた脂を全部舐め取っていた。



『はっ、はい、......では! 頂きます!』



勢いよくもも肉にかぶり付き、喜色満面きしょくまんめんなゴブリン。



私は、そんなゴブリンを見ていると、今まで感じた事のない感情が胸に沸き起こる。



ふふ、ふふふ。



私には子供がいない。



結婚をしていない独り身だから当然だが。



もし、子供がいたら......親とは、こんな気持ちなのかも知れない。



そして、私はを思い出し、深く瞑目めいもくし、祈った。






『きゃあああああ~!』



昼食が終わり、次の目的地に向かおうとした時、突如とつじょとしてひびき渡る叫び声が聞こえた。



む、近いな!



『関羽! 行くぞ!』



『はっ、マスター!』



私達は叫び声が聞こえた方向へ走り出した。











懐かしい許嫁いいなずけの顔が、思い浮かぶ。



百合子ゆりこさん、......助けに戻れなくて申し訳ない。



兼慶かねよしさん、必ず生きて戻って来て!”



だが、私は、......申し訳ない、百合子ゆりこさん。



亡き許嫁いいなずけの顔と、言葉が忘れられない。



“死なないで!”











私の名前は、龍門兼慶たつかどかねよし



許嫁いいなずけの想いに、異世界でも死なないとちかったゴブリンだ!
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