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テオともう一人のテオ
しおりを挟むものごころがついた時、テオがいたのは白い部屋の中だった。白い石造りの壁と、そこに開いている、小さな明かりとり用の窓。その部屋は寒くて、何度か凍えそうになった。一日に一度食事が運ばれて、一月に一度、何だかよく分からない、ピカピカ光る輪っかを腕につけさせられた。
いつも食事を運んでくれるのは、人の形をした何かだ。それが人なのか、そうじゃないのかはよく分からない。でも輪っかを持ってくるのは確かに人間だった。それをつけると、いつもよりも疲れた。体の中の何かがぐるぐるといそがしく回って、最後は輪っかに吸い込まれる。すると、輪っかの黒い部分がよく分からない模様に変わった。あの模様は、どうやら数字というらしい。
テオがものごころついてから、輪っかを持ってくる人が白い部屋を訪れること、何回目だろうか。いつも通り輪っかを腕にはめられ、黒い部分に数字が浮かび上がった。すると、輪っかを持ってきた人が数字を見て、踊り出さんばかりに喜んだ。いや、訂正しよう。彼は、喜びのあまり踊り出した。
「ああ、素晴らしい…!ようやく、ようやくあれが完成するぞ……!この年でこの数値とは!ありえない!今までの葛藤を天からご覧になった神が授けてくれた、奇跡の子に違いない!」
そう叫んで、その人はテオの肩をがっしりと掴んだ。
「テオドール、君はこれから子供たちの棟に行くんだ。この白の塔から出て、君の持つ、その強い派長を伸ばすんだよ。成長するにつれて、誰よりも強い波長を持つはずだ。それから、」
その人がその先の言葉を紡ごうとしたとき。テオドールことテオは、急に激しく咽せた。そして、頭を抱えて気を失った。
「一体、何が起きたんだ。」
その人は気絶したテオを見て、ぼそりと呟いた。
ーーーーーーーーーーー
私は、何故存在しているのだろうか。
私は、何故こんなにも力があるのか。
私は、何故あのような者の息子として生まれたのだろうか。全ての者から疎まれる立ち位置に。
私は、何故このように封印されるのだろうか。
私は、何故ここにいるのか。
私は、何故。
全ての者に疎まれるのであれば、その存在が無くなっても問題ないではないか。
私は、何故、生きているのだろうか。
「※※※※をこのままここに封印しておくのは無理です。このまま封印していれば、隙間から溢れる力でジャド・ヴィアンが滅びます。それは貴方の望むところでは無いと伺いましたが。」
「ああ。しかし、何故力が溢れ出るようなことになる?説明せよ。」
「※※※※の力は二つの域に及び、双方、あの妹の管理の元にあったものです。妹の力は我々よりも強く、ましてやその内二つを一身に担っていれば、我々が完全に封印することは不可能です。故に、貴方の力をお借りしたく存じます。」
「ふむ。ではあの世界にでも魂を移させるか。力は魂に帰属するものであるから、こちらには残らぬであろう。あの世界の器であれば力が振るえぬから、問題は無かろう。それで良いな、其方は。」
「はい、異論はございません。」
「では、そのように取り計らおう。其方達からの申し出は以上か。」
「はい。御時間を頂きありがたく存じます。」
「よい。この程度であれば、我にとっては一瞬の間に過ぎぬ。急ぎ戻って、また務めを果たすよう。」
「はっ。」
ああ、私はまた何処かに封じ込められるのか。
ーーーーーーーーーーー
………ここ、は。
誰かが私に呼びかけている。いや、やはり幻聴であろう。そのような奇特な人物が存在するものか。
「ああ、素晴らしい!ようやく、ようやくあれが完成するぞ……!この年でこの数値とは!ありえない!今までの葛藤を天からご覧になった神が授けてくれた、奇跡の子に違いない!」
これは、何者だ?何の警戒心も持たず、私の目の前で情報を漏らしているのは。感情が露わになっていては簡単につけ込まれるというのに、この者からはそれを気にする気配が全く無い。
ーーーーーーーーーーー
もう、つかれたよ。
何処かから声がする。
それは目の前にいるこの可笑しな者のものではなく、身の内から響くようだ。
ぼくは、もうつかれたんだ。
だから、あとはきみにまかせてもいいよね?
任せる?ふざけるな!何故私が何者だか分からぬ其方の後始末をせねばならないのだ!
でも、きみはつよいから。
それに、ぼくはもう、きえたいんだ。
じゃあね。
待て、勝手に消えるな。私に任せると言うのであれば、少しは情報を提供しろ。いくら私といえど、見知らぬ場所に放り出されて、上手くやっていけるはずが…いや、やらねばならぬのか。
しかし、私に一体何がーーー。
急に何者かに肩を掴まれた。〈私〉の体は私の意識に従い、反射的に相手を攻撃しようとする。けれども、私の体は全く動かない。
すると、先程の可笑しな人物が、私の顔を覗き込んできた。
「テオドール、君はこれから子供たちの棟に行くんだ。この白の塔から出て、君の持つ、その強い派長を伸ばすんだよ。成長するにつれて、誰よりも強い波長を持つはずだ。それから、」
待て。テオドールとは誰だ。子供たちの棟?白の塔、とは今のこの場所か。派長?それは何だ。
ーーーーーーーーー。彼が発した言葉が、理解できない。理解せねば害されるからこそ、私の知識は誰よりも多いはずだ。しかし、彼の言葉には今までの私の知識のどれにも相当するものがない。何故だ。ここは何処で、私は何者だ?分からぬ。
不意に、彼の奇特な者の目が見えた。その目には、〈私〉が映っている。白銀の髪に、薄い水色の瞳。顔立ちは幼子らしく、長い髪と相持って、どことなく女児に見える。
………………………。
私、が。このような幼子であると?私自身は、灰色の髪と灰色の目に黒い服を持ってして、このような幼子の面影など、持ち合わせていなかったはずだ。確かに、あの忌々しい者にどことも分からぬ世界に飛ばされはしたが…。
その時、どこからともなく頭痛に襲われた。頭が酷く痛む。そして、その痛みの合間から、何かが聞こえてきたような気がする。耳鳴りが起こるような轟音。天まで届くほど高く燃え上がった、赤い膜。
これは、いったい…。
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