i・セ界

たぬきの尻尾

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第一章 異世界降臨

告白

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 町から少し外れた草原に、エリスたちと集合する。
 すると、エリスから大事な話があると言われ、緊張した空気が場を支配した。

「わ……」

 わ?

「私と、ずっと一緒にいて!」

 はい?

○○○○○○○○○○○○○○○○

 それは、昨夜の出来事。

「は、はぁーーーーーーっ!? ハクトをパーティーに誘う!?」

 宿の部屋で告げられたカリナとミーシャの提案に、エリスは驚きの声をあげていた。

「え、いや、でも……あんな凄い人、絶対私のパーティーになんか入ってくれないわよ」

 戦闘技術も魔法技術も、エリスの目から見ても間違いなくハクトは一流以上だ。そんな人と自分が吊り合うわけがない。
 エリスにはそんな思いがあった。

「でもあんた、喫茶店では嬉しそうに話してたじゃない」
「それはハクトが私のこと教えてくれって……って、見てたの!?」

 エリスの顔が茹で蛸のように真っ赤になる。

「ハクトさんの方から教えてくれって言ってきたんですか?」
「え? うん。なんで冒険者になったの? とか。夢を叶えたその後はどうするの? とか」

 エリスは昼前の喫茶店でのハクトとのやり取りを思い出す。
 エリスが、エリスたちが冒険者になった理由は、自分たちの両親が届かなかった場所に辿り着くためだ。
 両親たちも冒険者で、開拓村の話が出た時に年齢の事もあり引退をしたらしい。
 全員が親たちが話す冒険譚に憧れ、親たちの憧れた冒険者に憧れ、冒険者になった。
 エリスのネックレスは彼女の母親がくれた物であり、今も村で家事に勤しむ母親の代わりに、一緒の所まで連れていくつもりだと言う。
 エリスの夢は、皆でAランク冒険者になること。そして、その後は……

「二人は、どうするつもりでいる? 私たちの夢を叶えて、その後」
「アタシはAランク冒険者になったら、暫くは活動するだろうけど、その後はゆっくりする予定よ」
「私も同じです。好きな人と育った故郷で暮らして、子供を産んで、幸せだと思える日々を過ごします」
「そっか……」

 二人は夢を叶えたその後まで考えている。その事に少しばかり疎外感を覚えた。
 自分はずっと冒険者でいるのだろうか? 仲間たちが引退しても尚、自分は冒険者で活動することができるだろうか?
 そんな考えが頭の中でぐるぐると回り続ける。

 私はどうしたいのだろう?

 二人と同じように好きな人と過ごすことができるだろうか?

 自分が惚れた人は、遠く……。遠い遠い、掴みどころがない雲のような存在だ。

 そんな風に考え過ぎるエリスの背中を、ミーシャとカリナは押すことにした。

「アンタは考え過ぎなのよ。世の中にはぶつからなきゃ分からないことがあるのよ?」
「そうですよ。たった一言だけ言えばいいんです。一緒に居てほしい、と」

 ミーシャとカリナは左右からエリスを抱きしめる。温かい。エリスは親友である二人の優しさを感じていた。

「私、頑張ってみる。ハクトに言ってみる」

 それが、女子だけで行われた秘密の話だった。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「私と、ずっと一緒にいて!」

 エリスから告げられたのは、どうとらえればいいのか分からない、微妙なニュアンスの言葉だった。
 どう返事をしたものか。そう思っていると、エリスが再度口を開く。

「私、昨日、ハクトに言われて考えたの。夢を叶えたその後も」

 つまり、冒険者までではなく、その後も一緒に居てほしい。告白の言葉はそういう意味か。

「私は夢を叶えた後も、ずっとハクトと一緒にいたい。暮らしたい。だから、ずっと一緒いてほしい」
「……わかった」

 真剣な告白に、真剣に応えた。

「エリスの人生も背負うよ。エリスの大切と一緒に」

 嬉しくて涙を流す彼女を、僕はしばらくの間抱きしめていた。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「いや~、よかったよかった。こらでアタシたちも心置きなくイチャイチャできるよ~」
「カリナ。人前ではやめてくれ」
「えぇ~」

 場の空気を和ませるように、カリナがルイズに抱きついた。幸せそうだな。
 そして僕は、その幸せを守るためにも皆を強くしなければならない。傍にいるエリスを守るためにも。

「じゃあ、皆には先日話した通り強くなってもらうよ。理由は二つ。夢を叶えるためにと、守るために」

 僕の言葉に皆が頷く。怖い思いをするのはあの時で最後だ。

「修行をするにあたり、僕は個人個人に目標を設定した。エリス、カリナ、レックスの三人には、先ずオーラを覚えてもらう。前衛のエリスとレックスは全体的な底上げ。中衛のカリナは攻撃力と射程のアップだ」

 僕は三人に買った三つの短剣を渡す。
 最初は短い武器の方が扱いやすいだろう。

「そして、魔法使いの二人組だけど……」
「オレたちは纏じゃないのか?」
「何をするんですか?」

 僕は戸惑う二人に一呼吸置いてから発言する。

「二人には、空を飛んでもらいます」

 小さく「え……」と聞こえたあと、二人は大声で驚き始めた。

「「えぇーーーーーーーっ!?」」
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