白き園に咲く二輪。

しっちぃ

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 お昼休み、どこに行こうか。居場所が見当たらない私は、お弁当を持って当てもなく広い校舎をさまよう。まだ入ってきたばかりだから、校舎をいろいろ見てまわってるって言い訳も準備した。本当はそんな理由じゃなくて、息苦しい教室から出たかっただけ。
 中学まではけっこう頭のいい部類でいたから、県内でも上位である女子校を選んだ。そこで合格したところまではよかったのだけれど、……いわゆるお嬢様学校で、普通の家で生まれてきた私にはクラスメイトの話についていけない。いじめとか、そういう陰湿なことはされてない。ただ、教室に居場所を見つけられないだけ。
 中庭まで歩くと、ビニールハウスのようなものが見える。確か、温室って言ってたっけ。まだ肌寒いから、あったかいのはいいかも。少し早足で、ハウスの中に入る。 
 「あら、そんなに急いで、どうしたのですか?……あら、白沢さん?
 息を切らして中に入ると、意外にも先客がいた。美しいという言葉では表し足りないほどの綺麗な人。私のクラスメイトの三ツ輪牡丹さん、苗字からして誰もが知っているような会社とおんなじだし、実際そこの家のお嬢様だっていう。本人はそういうのは関係ないっていうけど、とてもじゃないけど意識しないなんてできない。
「ご飯食べるので場所探してたんですけど、私食べるの早くないし……」
「別に、そんなに畏まらなくていいのに、同級生なんだから」
「で、でも、やっぱり……」
「まあ、無理に言ってるわけじゃないの、こういうの、慣れてるし」
 その声は、なんだか寂しげに響く。少しは近づいてみたいっていうのは、おこがましいかな。でも、もっと近くで話してみたいかも。好奇心には敵わなくて。
「いいよ、私も、固くならないように、がんばる、……から」
「それ頑張るって言った時点で固くなってるよね……」
 入学したときは、漫画とかで出てくるお嬢様みたいな話し方なのかなって思ったけれど、実際はそんなこともなくて、少し拍子抜けしてたのは覚えてるけど、実際に話をされると、まだ違和感が離れてくれない。
「とりあえず、そこにベンチあるし、一緒に食べない?」
「う、……うん、ありがと」
 ぎこちない会話を重ねて、ベンチの端と端に座る。隣でお弁当を開けている音は聞こえるけれど、そっちを見る勇気はなぜだか出ない。私もお弁当を開けて、内心好きなおかずが多いことに喜びながら、ちょっとずつ食べ進めていくのは、向こうも同じみたいで、静かに食べている音だけが響く。
あんまりにも静かすぎて、話の種を探そうとして周りを見回すと、幾重にも重なる鮮やかな赤い花に目が映る。
「あ、……こっち見て。牡丹の花、咲いてるね、三ツ輪さんの名前の」
「そう?……本当だ、いつ見ても、綺麗だよね」
「三ツ輪さんだって綺麗なのに……、『富貴』とか『風格』とか、花言葉もぴったりだし」
 なんだろう、なんか告白でもしてしまったみたい、ぽうっと顔が熱くなって、思わず俯いて頬を覆う。いくら何でも言い過ぎだ、それも、ただのクラスメイトに対して。
「そ、そう、かな……?」
「そうだと、……思う、よ?」
 やっぱり、変な空気になっちゃった。自分の名前が嫌いかもしれないのに、……ちらりと横顔を見てると、なぜか頬を赤らめて、私と同じような格好になっている。
「あ、ありがと、……こういうこと、あんまり言われないから、ちょっと緊張しちゃって……」
「こっちこそごめんね、なんか変なこと言って」
「そういえば、白石さんの名前も『ゆり』だよね、百合の花言葉って、どんなの?」
「えっと……、『純粋』とか『無垢』とかなんだけど、……私には、あんまり似合わないけど」
「私は、そんなことないと思うけどな、あんまり話せてないから、絶対そうってわけじゃないけど」
 言い訳の混ざった、尻すぼみな声。でも、届いてしまった瞬間、ただでさえ篤いほっぺが、燃えそうなくらい熱くなってくる。別に、なんてことのないはずなのに。
「ありがとう、本当はちょっと怖かったんだ、みんなお嬢様なのに、私はそんなでもないから」
「ううん、別にいいよ、……でもなんか、やっぱりちょっと恥ずかしいね」
「うん、……だね」
 まだ、落ち着かないけれど、……こういうのも、いいかな。気持ちを分かち合う勇気は、まだ持てない。
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