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桜が咲いてた
初めて弟と出逢った春の日
父親の照れた顔
母親の優しそうな笑顔
家族になった日
あの日から今日で30年の月日が経った
母親が1年前に亡くなり
父親は半年前に死んだ
そして父親の喫茶店をリフォームして兄弟二人で切り盛りするようになって三ヶ月
弟の旬也はもともとバリスタとしてホテルのカフェで働いていた
俺は有名レストランでシェフ。
父親の四十九日が終わった日、旬也が
父さんの店、一緒にやってくれないかな?
と言った。
旬也が俺に何かを頼むなんて初めてのことだった。
旬也は子供の頃からできた子でワガママ一つ言ったことがなかった。
誕生日もクリスマスも、何がほしい?と聞かれても答えなかった。
欲がないやつだと思った。
バリスタになったのも、ゆくゆくはこの店を継ぐことを考えていたからだ。
自分で何一つ選ばない、欲しない。
そんな旬也が俺に初めて甘えてくれた。
必要としてくれた。
それがなんだかうれしかった。
ただ、こいつがいなければ俺はとっくに結婚して子供もいて、ごく普通に幸せに暮らしてたんだろう。
俺は結局、今までどうしても旬也を弟と思えなかった。
これからもそうだ。
カフェがオープンしてから少しずつ客も増えた。
女性客はほとんど旬也目当てでやってくる。
甘いマスクと母親に似た優しい笑顔。
強面の俺には寄り付かない。
一緒にいる時間が増えても俺と旬也の距離は変わらなかった。
同じ家にいてもまるでただの同居人。
あの日までは。
S side
雨が止まない。
気圧の変化のせいか頭が重い。
お店は休みだしまだ寝ていても大丈夫。
目を閉じると懐かしい夢を見た。
友治が泣いてる。
高校受験で第一志望の高校に落ちた日。
誰にも見られないように彼は一人、家の前で涙をぬぐった。
俺はそれを部屋の窓から見ていた。
友治は強い。
俺はどこかで友治に憧れていたのかもしれない。
自分のほしいものを分かってる。
ちゃんと手を伸ばして、ちゃんと悔しがれる友治が。
俺はいつも選べないから、好きだと言われれば付き合ったし、別れたいと言われれば別れた。
執着心がない。
だけど、父が死んでお店を継ぐことを決めたとき、友治が必要だと思った。
誰かを必要としたのは初めてだ。
友治がいてくれたら大丈夫だと思った。
友治なら信じられると。
いや、ほんとは俺は友治さえいればなにも要らなかったのかもしれない。
ずっと前から。
だから友治を側に呼び戻したんだ。
家族という、便利な関係のおかげで俺は何があっても友治と離れなくてすむ。
そう思ってた。
なのに。
あの日、俺は休みを利用してコーヒー豆の買い付けに行った。
前から気になってたお店を回り、最終的に店から一番近いお店にお願いした。
ご主人の娘さんはしっかりしてて、大人っぽい。
俺の入れるコーヒーを飲んでみたいとせがまれてお店に招待した。
珍しく友治が帰っていた。
「あれ?もしかして友治?」
「呼び捨てすんなっつってんだろ。」
「いつこっちに帰ってきたの?」
「お前こそ、ニューヨーク行くって行ってただろ?」
二人は知り合いだったのか。
やけに仲がいい。
俺はイライラしてる。
何に?
どうして?
聞かれたらにっこり笑って、きっと雨のせいだよって答える。
前にもこんなこと、あったな。
友治が初めてうちに彼女を連れ込んだ日。
俺はあの日も何故かイライラして、思わずコップを割ってしまった。
友治は驚いて降りてきて、俺はにっこり笑って
手が滑った、ごめん。
と言った。
今の俺には分かる。
このイライラの名前。
でも、認めたら終わりだと知ってる。
あくまで俺たちは兄弟なんだから。
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