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第2話
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「吸血鬼ってさ」
ふと気になったことを聞こうとハルカに話しかけると、質問されるのが嬉しいのか前のめりに身を乗り出した。
「なに?」
「なんかこう…魔法みたいなの、使えるんだろ。ほら、僕の記憶消したやつとか」
「適性があればね。オレは結構"力"が強いらしくて、だいたいのことはできるよ。変身とか」
「コウモリになるやつ?」
吸血鬼といえばコウモリ。コウモリといえば吸血鬼。吸血鬼がコウモリに化けて移動するようなシーンを見たことがある。
「んー…多分できるけど…不便だからなぁ」
「不便?」
「そうそう。日本だとコウモリって結構珍しいからさ。何されるかわかんないし」
知りたくなかった現代の吸血鬼事情。吸血鬼事情ってなんだ。僕が少しだけがっかりしていると、ハルカは
「飛ぶなら羽生やしたほうが早いし?」
となんでもないように付け足した。
見た目を想像してみる。
闇夜に浮かぶ、大きな美しい羽を生やしたシルエット。手入れの行き届いた銀髪と、獰猛な牙__。
……吸血鬼というよりは、悪魔に近いかもしれない。尻尾を生やせば完璧だ。
厨二的な想像を追い払ってハルカを見やると、それはもう立派な羽を生やしていた。
「できたできた」
どこか満足げに笑う彼を、思わず撫でたくなった。
……いや、そんなはずはない。忘れよう。
直前の会話から想像したのか、鳥というよりはコウモリの羽に近いそれ。恐怖心を抱いて然るべき異形に、しかし僕は感心していた。
「綺麗だな、その羽」
本心からそう褒めると、ハルカはにっこりと無邪気に笑ってVサインをし、羽を消した。
「変身は普段からよく使うから得意なんだ」
「普段から?」
「うん」
そう言うと、自身の銀髪を染め上げて艶のある黒髪にした。よく見ると瞳の色も暗い色になっており、どこからどう見ても日本人のような顔立ちになっていた。
「いつもはこの姿で生活してるんだけど、昨日は血が足りなくて変身できなかった」
「へぇ……」
その姿、どこかで見たことがあるような。
なんだったかなぁ…昨日コンビニで見た…
「男性モデルのhalu!」
「あ、うん。知ってた?」
halu。ルックスの良さで男子女子問わず(一部の男子は嫉妬するが)人気のある有名モデルだ。まさかそんな人が路上で行き倒れているだなんて思いもしないだろう。
「それより、ユーマ。お腹空いてないの?」
時刻は午前8:00。休日としては遅くも早くもない微妙な時間だが、一時間ほど前から覚醒していた体は正直に朝食を求めた。
鳴り響く重低音に、ハルカがにっと笑った。
「冷蔵庫見てきていい?」
「いいよ。キッチンと調理道具は好きに使って」
「おっけ!」
返事をするなり、ハルカはキッチンへ駆け出していった。騒がしい奴だ。
……にしてもこいつ、ちゃんと料理できるのか?
心配になって手元を覗き込むと、ハルカはむっとしながら振り返った。
「これでもオレ、料理上手いんだよ」
手早くキャベツを刻みながら宣言する。あっという間に出来上がっていくふわふわの千切りに、思わず感心してしまった。
「ユーマって、一人暮らしの割に食材あるね」
「自炊はする方だからな」
出来上がった千切りを水につける。すぐさま棚からフライパンを取り出し、冷蔵庫に入っていたベーコンを中に放り込んだ。
香ばしい匂い。油の跳ねる音。何をとっても食欲をそそる。待ちきれなくなってきた僕は食器を出すことにした。
「ハルカは食べるのか?」
「オレはいらないかな。栄養にならないし」
「吸血鬼って不便なもんだな」
「あはは、その感想は初めてだよ」
一人分の食器を出す。コッブに牛乳を注いで、フォークとスプーンを置く。パンをトースターに入れる。一通り準備を終えると、ハルカが皿にキャベツとベーコンを盛り付けた。
「スクランブルエッグがいい?目玉焼き?」
「んー…スクランブルエッグ」
悩んだ末に答えると、ハルカは冷蔵庫から取り出した卵を解きほぐし、熱したフライパンに入れた。
2分としないうちにとろとろのスクランブルエッグが完成した。本当に料理が上手いようだ。
……いや、まだだ。これで見た目は完璧なメシマズだったらどうする?速やかにお引取りいただくほかあるまい。顔良し・性格良し・生活力MAXとか、僕は認めないぞ。
豪華な朝食のプレートに焼きたてのトースト。いただきますをしてから、スクランブルエッグをそのままで一口。
「うまい…」
ちくしょう。何か1つくらい抜けてるところがあってもいいじゃないか。このままじゃ僕は完全敗北だ。
「美味しい?よかった」
にこにこと笑みを浮かべながら食事中の僕を見つめるハルカ。煩悩まみれの僕は少しだけ恥ずかしくなった。どうやら僕に勝ち目はないらしい。
「ごちそうさま」
あっという間に食べ終わると、「足りなかった?」なんて聞いてくるから本当に憎めない。
「美味かったよ」
「うん!」
嬉しそうに微笑むハルカはきっと犬だ。耳とパタパタしてるしっぽが見える。本当に可愛い。いや、可愛いだなんてそんな。これはきっとあれだ。
「ハルカ、あれだろ。魅了とかしてるだろ」
「魅了?してないよ。できるけど」
「え?」
「え?……あ、もしかしてあれ!?あまりにもオレがかっこいいから魅了されたのかと思ったとか!」
8割合ってるけど2割違う。そしてその2割で台無しだ。
つまりあれか?こいつがやたら可愛いの吸血鬼云々は全く関係なく、ただただ素の魅力だってことか…
「っていうか、記憶消したり魅了したりできるなら、食料にも困らないだろ」
見え見えに話題を逸らすが、ハルカは特に気にした様子もなく、
「卑怯でしょ、そういうのは」
と返した。本当にこいつは。人としては正しいが…果たして吸血鬼としてそれで正解なのか…
食器を台所に下げに立ち上がる。皿を水につける。洗うのは後でもいいだろう。
「ユーマってさ、かなりお人好しだよね」
「どこが」
「見ず知らずのオレを介抱してくれたり、血を吸わせてくれたり?ユーマのそういうところ好きだよ」
「壺とか絵画とか、買うなよ」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味」
「よくわかんないけど、わかった」
心配だ。結婚詐欺とか遭いそうで。
「ユーマ、お昼何作ろっか」
「炒飯でお願いします」
なんだか、ハルカに世話されるとダメ人間になりそうだ。着実に餌付け…飼いならされているような気がする。家主は僕なんだが…。
……まあ、いいか。
ふと気になったことを聞こうとハルカに話しかけると、質問されるのが嬉しいのか前のめりに身を乗り出した。
「なに?」
「なんかこう…魔法みたいなの、使えるんだろ。ほら、僕の記憶消したやつとか」
「適性があればね。オレは結構"力"が強いらしくて、だいたいのことはできるよ。変身とか」
「コウモリになるやつ?」
吸血鬼といえばコウモリ。コウモリといえば吸血鬼。吸血鬼がコウモリに化けて移動するようなシーンを見たことがある。
「んー…多分できるけど…不便だからなぁ」
「不便?」
「そうそう。日本だとコウモリって結構珍しいからさ。何されるかわかんないし」
知りたくなかった現代の吸血鬼事情。吸血鬼事情ってなんだ。僕が少しだけがっかりしていると、ハルカは
「飛ぶなら羽生やしたほうが早いし?」
となんでもないように付け足した。
見た目を想像してみる。
闇夜に浮かぶ、大きな美しい羽を生やしたシルエット。手入れの行き届いた銀髪と、獰猛な牙__。
……吸血鬼というよりは、悪魔に近いかもしれない。尻尾を生やせば完璧だ。
厨二的な想像を追い払ってハルカを見やると、それはもう立派な羽を生やしていた。
「できたできた」
どこか満足げに笑う彼を、思わず撫でたくなった。
……いや、そんなはずはない。忘れよう。
直前の会話から想像したのか、鳥というよりはコウモリの羽に近いそれ。恐怖心を抱いて然るべき異形に、しかし僕は感心していた。
「綺麗だな、その羽」
本心からそう褒めると、ハルカはにっこりと無邪気に笑ってVサインをし、羽を消した。
「変身は普段からよく使うから得意なんだ」
「普段から?」
「うん」
そう言うと、自身の銀髪を染め上げて艶のある黒髪にした。よく見ると瞳の色も暗い色になっており、どこからどう見ても日本人のような顔立ちになっていた。
「いつもはこの姿で生活してるんだけど、昨日は血が足りなくて変身できなかった」
「へぇ……」
その姿、どこかで見たことがあるような。
なんだったかなぁ…昨日コンビニで見た…
「男性モデルのhalu!」
「あ、うん。知ってた?」
halu。ルックスの良さで男子女子問わず(一部の男子は嫉妬するが)人気のある有名モデルだ。まさかそんな人が路上で行き倒れているだなんて思いもしないだろう。
「それより、ユーマ。お腹空いてないの?」
時刻は午前8:00。休日としては遅くも早くもない微妙な時間だが、一時間ほど前から覚醒していた体は正直に朝食を求めた。
鳴り響く重低音に、ハルカがにっと笑った。
「冷蔵庫見てきていい?」
「いいよ。キッチンと調理道具は好きに使って」
「おっけ!」
返事をするなり、ハルカはキッチンへ駆け出していった。騒がしい奴だ。
……にしてもこいつ、ちゃんと料理できるのか?
心配になって手元を覗き込むと、ハルカはむっとしながら振り返った。
「これでもオレ、料理上手いんだよ」
手早くキャベツを刻みながら宣言する。あっという間に出来上がっていくふわふわの千切りに、思わず感心してしまった。
「ユーマって、一人暮らしの割に食材あるね」
「自炊はする方だからな」
出来上がった千切りを水につける。すぐさま棚からフライパンを取り出し、冷蔵庫に入っていたベーコンを中に放り込んだ。
香ばしい匂い。油の跳ねる音。何をとっても食欲をそそる。待ちきれなくなってきた僕は食器を出すことにした。
「ハルカは食べるのか?」
「オレはいらないかな。栄養にならないし」
「吸血鬼って不便なもんだな」
「あはは、その感想は初めてだよ」
一人分の食器を出す。コッブに牛乳を注いで、フォークとスプーンを置く。パンをトースターに入れる。一通り準備を終えると、ハルカが皿にキャベツとベーコンを盛り付けた。
「スクランブルエッグがいい?目玉焼き?」
「んー…スクランブルエッグ」
悩んだ末に答えると、ハルカは冷蔵庫から取り出した卵を解きほぐし、熱したフライパンに入れた。
2分としないうちにとろとろのスクランブルエッグが完成した。本当に料理が上手いようだ。
……いや、まだだ。これで見た目は完璧なメシマズだったらどうする?速やかにお引取りいただくほかあるまい。顔良し・性格良し・生活力MAXとか、僕は認めないぞ。
豪華な朝食のプレートに焼きたてのトースト。いただきますをしてから、スクランブルエッグをそのままで一口。
「うまい…」
ちくしょう。何か1つくらい抜けてるところがあってもいいじゃないか。このままじゃ僕は完全敗北だ。
「美味しい?よかった」
にこにこと笑みを浮かべながら食事中の僕を見つめるハルカ。煩悩まみれの僕は少しだけ恥ずかしくなった。どうやら僕に勝ち目はないらしい。
「ごちそうさま」
あっという間に食べ終わると、「足りなかった?」なんて聞いてくるから本当に憎めない。
「美味かったよ」
「うん!」
嬉しそうに微笑むハルカはきっと犬だ。耳とパタパタしてるしっぽが見える。本当に可愛い。いや、可愛いだなんてそんな。これはきっとあれだ。
「ハルカ、あれだろ。魅了とかしてるだろ」
「魅了?してないよ。できるけど」
「え?」
「え?……あ、もしかしてあれ!?あまりにもオレがかっこいいから魅了されたのかと思ったとか!」
8割合ってるけど2割違う。そしてその2割で台無しだ。
つまりあれか?こいつがやたら可愛いの吸血鬼云々は全く関係なく、ただただ素の魅力だってことか…
「っていうか、記憶消したり魅了したりできるなら、食料にも困らないだろ」
見え見えに話題を逸らすが、ハルカは特に気にした様子もなく、
「卑怯でしょ、そういうのは」
と返した。本当にこいつは。人としては正しいが…果たして吸血鬼としてそれで正解なのか…
食器を台所に下げに立ち上がる。皿を水につける。洗うのは後でもいいだろう。
「ユーマってさ、かなりお人好しだよね」
「どこが」
「見ず知らずのオレを介抱してくれたり、血を吸わせてくれたり?ユーマのそういうところ好きだよ」
「壺とか絵画とか、買うなよ」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味」
「よくわかんないけど、わかった」
心配だ。結婚詐欺とか遭いそうで。
「ユーマ、お昼何作ろっか」
「炒飯でお願いします」
なんだか、ハルカに世話されるとダメ人間になりそうだ。着実に餌付け…飼いならされているような気がする。家主は僕なんだが…。
……まあ、いいか。
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