1 / 20
◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う
001.眠り姫はどうやら魔王様を引っ掛けまして
しおりを挟むR18です。18歳未満の方はお引き取りくださいませ。
◇◆◇
「なんで、なんでなのっ!」
__私は何故か昔から変なものによく好かれた。
興味あるもの以外は全て無視の奇人と名高いとある教授、学園の美術室に出るゴースト、私を手違いで誘拐した盗賊の頭、深淵の森に住むドラゴン、元暗殺者に、滅多に人の目に映りたがらない精霊、__……。
挙げれば挙げるほど一般人が中々会う機会もないようなものばかりに色んな意味で好意を向けられてきた。
体質上、人よりも外での活動はしていない割に何故かよく分からないものがいつの間にか周りに溢れているのだ。
最初はビビり散らかしていた両親も兄たちも屋敷の使用人たちも段々と慣れてきた訳だが……。
「いやあ、お嬢。一体どこから引っ掛けてきたんですか?"噂の魔王様"なんて……」
「知らないわよぉぉ!」
私、セシーリア・デュアラーツはそう叫びながらベッドに突っ伏した顔を上げて侍従兼護衛のヴィルデを睨んだ。
彼は目が合うなり「現状が心底面白い」とでも言うように真っ赤な目を三日月型に歪めニヤニヤ笑っている。
それにムカついたので枕をポイッと投げてみたが、軽く避けられた。流石"元暗殺者"だ。動きが無駄に滑らかなことにはムカつくけれど。
まあある程度鍛錬している者なら、"ひ弱な乙女"の投げた"ただの枕"なんて避けられるだろう。その"ただの枕"は彼を通り過ぎて後ろの壁にドゴッと大きな音をして落ちている。私付きの侍女エミリーは冷や汗をかきながらその枕を横目に見ていた。
「お嬢、言っとくけどさ、アンタ全然か弱いお姫様じゃないからな」
「うるさい」
確かにふわふわと軽めの枕投げただけてあんな大きな音は中々出せないだろう。
「いつもいつも寝てんのに、どっからそんな力が出てんのか不思議だわ……」
「そうよ。なんでいつもいつも寝て過ごしてるはずの私のところに"あんなもの"が届いてるのよ……!」
今日の朝、私の元に届いたのは求婚の手紙である。しかも相手は隣国の皇太子ノア殿下だ。この国の国王の元をしっかりと介して手続きされて運ばれてきた手紙の内容は要約すると「私と婚約したい」というものだった。
「どっかで会ったことありましたっけ?」
「……ないわ。"魔王様"だの"悪魔"だのと噂の皇太子様と会ったことがあるなら覚えているはずだもの」
そう。求婚してきた皇太子殿下は大陸中に"おっそろしい~"噂や異名を持つ方だ。まだ皇太子であるはずなのに皇帝よりも存在感がある気がする。
隣国は存在自体が昔から随分と様々な分野で恐れられ、そしてその技術力から羨まれている。
この国と隣国は何故か昔から随分と仲が良い。期間で言うと数千年単位で仲が良いらしい。前世の記憶からそれを考えると気が遠くなりそうだ。
他国だと彼の噂で民はビクビクするだろうが、この国との仲が良いので、うちの国の人達は「いやあ、おっそろしいねー」と笑うだけだ。
とにかく何故か仲が良いので、お互いの国の貴族や王族で婚姻を結んでいたりもするのだが、今回は何故私が選ばれたのか全く分からないのだ。
「本当にないんですか?……ほら、物語でよくあるやつとか?なんだっけ?小さい時に会ったことあって、結婚の約束してたとか」
「小さい頃は今よりも眠気が酷くて社交の場に出るようになったのは学院に入学する直前なの。もう知ってるでしょ?」
その頃にはもうヴィルは私に付いているのだから、彼が知らないなら私は知らない。だから会ったことなどある訳ないのだ。
「ふうん。じゃあどうしてお嬢なんでしょうね?」
「本当にね。この体質じゃ王族だとか皇族だとかには向いてないのに」
「しかも向こうの国、余程のことがない限りは一夫一婦制ですよ?」
「そ、そうだったわ……!え、なんで私なの!ねえ、なんで?ヴィル」
ヴィルデの愛称であるそれで彼を呼ぶと、首を傾げつつも相変わらずニコニコとしている。いつも軽いが、こんな話題でも変わらない態度で寧ろ安心してしまった。
「本当にどうしてでしょうね?流石に向こうもお嬢の体質は知っているはず。というか国王を介して手紙が来ている時点である程度の個人情報流れてますよ」
「そうよね。お父様が一応私の縁談見繕うのに出している情報と私の体質と魔法に関しては知られてそう」
前世よりもちょっと個人情報の扱いは緩いが、もちろん機密を発信しているわけではないし、調べればわかる内容が多い。
貴族や王族の結婚はお互いの利だとか血だとか昔の縁からのものが多いので、婚約する前や婚約の際にそれ相応の情報を互いに渡している。
ちなみにお互いの情報に関しては、関係者以外に漏らせないような工夫が手紙に魔法で施されている。悪意を持って周りに広めることはできないし、婚姻を本当に結ばないなら見た者から忘却させるような魔法も掛かるらしいので、魔法って本当に凄い。
「しかも婚約から結婚までの期間が半年って何!?普通最低でも1年、長くて"数十年"でしょ?」
「何かお嬢の能力か血筋か人柄かで相手がどうしても結婚したいところがあったんでしょ」
「人柄は会ったことないから、能力か血筋よね。能力は……、癒しの力が欲しいのかしら?でも向こうにも優秀な治癒魔法ができる方は沢山いるだろうし、血筋は……」
と、色々と考えてみるが全く検討もつかない。私の体質が王妃だとか皇太子妃だとかに向かないと分かっているはずだろうに私を選んだ理由が本当に謎だ。
確かに早い子だと小さいうちから縁談のための情報を親が出しているが、婚約の話はでても、結婚じたいは割と"遠い未来"の話だったはずなのだ。この前までは。
「ま、……セシーリアお嬢様。ご婚約おめでとうございます。私、ヴィルデたいっへんに感激しておりま~す」
「お嬢様、おめでとうございます~」
「おめでとうございます」
急に「コホン」と咳払いをして畏まったヴィルデと、ヴィルデとの会話をずっと黙って聞いていた侍女のエミリーと護衛騎士のラーシュもぱちぱちと拍手をした。みんな反応が軽い。
確かに他人事だろうけど、向こうが許可してくれれば私専属のあなた達も漏れなくこれからずっと関わる相手だぞ。本当に結婚するなら。
「……うう、寝る。もう寝ます」
「ありゃ、拗ねました?」
不貞腐れてベッドに突っ伏すと、3人が苦笑する声が聞こえてくる。
(いつかは婚約や結婚する、とは思ってたけど私は"まだ18歳よ"。早すぎる……。しかも相手は隣国の皇太子って荷が重すぎるわ)
前世とは違い、"この世界の常識"ではあまりにも早い婚約にセシーリアは深く息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる