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中世ヨーロッパの風景

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 俺の名前は、奥洲天成《おうしゅう てんせい》。
 どこにでもいるジャパニーズだ。
 この平凡な世界を抜け出し、どこか中世ヨーロッパの世界に転生したいなと願い続けること幾星霜。

 今、俺はトラックに撥ねられて、女神の前にいる。
 とは言っても、聞こえるのは声だけだけどな。

『じゃあ、天成さんは中世ヨーロッパに転生したいのですね』
「おうとも! 中世ヨーロッパでやり直すんだ!」
『分かりました』
 女神は何やら呪文のようなものを唱え始めた。
『それでは、中世ヨーロッパへBee! じゃなくて、Go!』

 俺は白い光に包まれて、意識を失った。

 意識を取り戻した時、俺は丘に寝転がっていた。
 そよ風に吹かれ、首を横に向けると草花が陽の光を受けてみずみずしく輝いている。
 少し離れたところを見てみると。
 おお、のどかな田園。回っている水車、遠くに見える石造りの街並み、そして、更に遠くに見える王城!

 間違いない! 俺は中世ヨーロッパの世界に転生したのだ!

 よし、早速、近くの街まで向かおう。って、徒歩しかないのか。
 あの農場の牛……牛はダメだな、せめて馬……。
 ダメだ、俺、馬に乗ったことねえや。

 仕方ない。歩いていくか。
 ちゃんと歩道を歩かねえとな。
 いやあ、しかし、何ていい風景なんだろう。山々の緑が美しい。川の水が青々としている。のどかで牧歌的な風景、これが欲しかったんだよ! 俺の人生には!

 しばらく歩いていると、
 おっ、自転車の連中が抜いていった。
 何だ、自転車があるなら、借りていけば……
 うん? 自転車。
 というか、今、気づいたけれど、アスファルトの歩道はおかしくねえか?

『あ、ごめんなさい。ツール・ド・フランスを観ながら作業してましたので、間違えてフランスの田舎に転生させてしまいました』

 何だと?
 女神のくせに人間の自転車レース観るのかよ?
 ……とすると、ここは現代?
 これだけ中世っぽい風景なのに?

"女神の一言"
 ヨーロッパの農村や古い地域は景観を変えない場所も多く、現代でも昔さながらの光景が広がっています。
 都市部ならともかく、田舎に転生した場合、実際に転生したのが13世紀なのか、21世紀なのか、一目で見破るのは難しいかもしれませんね。
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