リアル中世世界に転生しました

川野遥

文字の大きさ
9 / 47

ナイチンゲールとヒーラー

しおりを挟む
 俺の名前は奥洲天成。
 今回、俺は今、話題のクリミア半島近くまでやってきた。

 今も昔も、ロシアが弱い者いじめをすると西欧は黙っていない。
 この時代ではトルコを叩こうというロシアを「これ以上、トルコがやられたら大変なことになる」と英仏が立ち上がって支援に乗り出して戦争がスタートした。
 ま、英仏ともに本音は「クリミアを取られたらロシアが不凍港持ってしまうじゃないか」ということなんだけどな。
 ともあれ、そういう形でクリミア戦争が始まったわけだ。

 俺はイギリスの従軍医師だ。
 そう、クリミア戦争で英国の医師、となると当然出て来るのが!

「貴様ぁ、何をぼさっとしている!?」
「は、はい! ナイチンゲールさん、今すぐ行きます!」
 フローレンス・ナイチンゲールだ。
 戦場の天使とも呼ばれていて、まあ、死にそうな兵士には優しいのだが、怖いうえに妥協しない人だ。
「貴様がちんたらやっている間にも、一人、また一人と英兵が死んでいるのだ!」
 別に俺だけ怒られているわけではない。基本、厳格なんだ、この人は。
「反省しています。ただ、俺の態度とは別に、ちょっとここでは英兵が死に過ぎていませんか?」
 俺の指摘に、ナイチンゲールの表情が険しくなる。
「……その点は同感だ。これではまるでロンドンの男を平原に連れ出して、次々射殺しているようなものだ。何かがおかしい、私の中の何かがおかしいと告げている」
 時々不思議な言い方をするのはロンドン淑女ならではということなのだろうか?

 原因について、もちろん、俺には分かっている。衛生状態だ。
 不潔で鼠も這いずり回るようなところでは、感染症などが次々と伝染っていくのは当然、元気な者でもどんどん弱っていくということだ。
 ということで進言しようとしたのだが、どうやらそこで彼女の中の何かが告げたらしい。
「とりあえずこの兵舎の中は汚すぎる。少し綺麗にしよう」
 彼女は兵士達の方に振り向いて笑顔を向ける。
「皆様、これから兵舎を綺麗にいたします♡」
 くっ、兵士達に対する時と俺達に対する時とで違いがありすぎないか?

女神注:ナイチンゲールの性格はかなり誇張されています。

 ということで、衛生状態を改善したところ、死傷率が目覚ましく下がっていった。
「どうやら私の勘の通りだったようだ。衛生状態が悪いと、いかなる看護をしても意味がない」
 昔は治療も滅茶苦茶だったし、な。何かある度に瀉血したり、すぐに四肢を切り落としたりしていたらしい。物騒なことだ。
「よし、これを報告しなければならない」
 ナイチンゲールは報告書の作成にかかる。
 ただ、出来上がったものを見るとちょっと具合が悪いように思えた。毎日の死者、衛生状態などの数字をただ羅列しているだけである。
「これで、みんなが読みますかね?」
 数字のグラフを散々見せられて、「綺麗にしたら良くなりました」という当たり前の回答だ。何というか、「綺麗にしたら、ヒーラーなんかいりません」というようなものにも見える。
 ナイチンゲールは「おまえにしてはいいことを言うじゃないか」というような表情で頷いた。
「このままでは読まないだろう。よし、絵を描こう」
「絵?」
「そうだ。酷い小説でも神絵師が描いていたらみんな読むだろう。絵には特別なパワーがある。女王陛下の頭がどれだけ弱くても、絵があれば見るはずだ。分かりやすく絵を描こう」
 やめろ! どれだけ多くの作者が泣くと思っているんだ!
 あと、女王陛下こけおろしまくりだから!


"女神の一言"
 ネタ的に使われる「衛生兵はどこだ!?」という言葉ですが、本当なんですよねぇ。ほとんどの戦場において、兵士達の一番の死因は戦傷ではなく、病気や感染症などです。

 考えてみたら当然であって、大勢の人間が距離も取らずに共同行動しています。訓練ではきちんとした食事がありますが、戦場ではきちんと食事が来る保証もないですしね。健康状態を悪化させる要因が色々と出てきます。

 というあたりは、中世のみならず現代でも通用するものですが、さすがにここまでリアルにしてしまうと、中々文章にはしづらいものがありますね。
 作者も戦場で兵士達がコレラにかかったとか書いてみたいと思いつつも、そこまでは踏み込めていません。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ
ファンタジー
八十歳で生涯を終えた、元王宮侍女カリナ。 その最期の瞬間――枕元に、かつて仕えた王女アメリアが現れた。 「お願い…私の人生をやり直して。国を、私を、救って――」 次に目を開くと、カリナは十八歳の“王女アメリア”として転生していた。 彼女は知っている。 このままでは王国は滅び、愛する主君が破滅する未来を。 未来を変えるため、アメリアは 冷徹と噂される英雄ヴァルクとの政略結婚を選ぶ。 これは、かつて守れなかった主人のための転生。 そのはずなのに――彼への想いは、気づけば変わり始めていた。 王女と英雄が紡ぐ、破滅回避ラブファンタジー開幕。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜 挿絵はA I画像を使用 10/20 第一章完結 12/20 第二章完結 2/16 第三章完結 他サイト掲載 (小説家になろう、Caita)

処理中です...