33 / 47
ブランデンブルクの奇跡
しおりを挟む
俺の名前は奥洲天成。
俺は日本人傭兵として各地を転生していたが、仲間の裏切りによって戦死した。
『ふーん、傭兵ってことは戦闘好きなのねぇ』
「ああ、俺の人生は硝煙と血の臭いに彩られている。この服も返り血で黒ずんでいる」
『えぇぇぇっ!? それ隠密用じゃなくて、返り血!? 気持ち悪い! あんたなんか、生まれ変わっても傭兵やるべきよ!』
と叫んで逃げていった。
それはあまりにも酷いんじゃないかと思ったが、ともあれ俺は転生したようだ。
転生先の俺は……ロシア帝国に所属する傭兵だった。
ロシアの傭兵なんてロクなものじゃないと思うかもしれないが、まあ、傭兵なんてどこも同じだ。
戦いがあれば赴き、血と硝煙とともに生活する。土の臭いに包まれることも少なくはないな。
そう。戦いこそが俺の生き甲斐……。
そう思っていたのだが。
女帝エリザヴェータはオーストリア、フランスと組んでプロイセンと戦争することになった。有名な七年戦争だ。
これは本当に辛いものだった。
そうでなくてもロシアは遠い。今でも遠いのに、18世紀だと車がないから常時徒歩だ。その距離1500キロを優に超える。
戦場まで半年以上かけて歩いていくんだぜ、信じられないだろ?
それだけ歩くと当然粗悪な靴がダメになる。
新しい靴?
現代だって提供がないんだぜ。18世紀に期待できるはずないだろう。
しかもポーランドとか泥濘に満ちたところだ。何とか補強して歩くが、浸み込んでくる水が不快なことこの上ない。向かうだけで同僚がバタバタと倒れていく。体調が悪くなるから病気にもかかるわでもう散々だ。
それでも、ドイツに着いてみたら、プロイセンは瀕死の状態だ。
国王フリードリヒ2世が銃弾を胸に受けたがタバコの箱があったから助かったなんていうこともあったらしい。
とはいえ、俺達は着いただけでもう燃え尽きている。俺達の遠征というものはオリンピックと同じで参加できただけでいいのだ。もう、心の中で金メダルをもらったような気分だ。アベベは42.195キロを裸足で走って金メダルを得た。
裸足で1000キロ歩いた俺達はスーパー金メダルを貰ってしかるべきではないか?
だから、プロイセンとの戦いは、瀕死のプロイセンと、瀕死のロシア、どちらがよりダメかという戦いになった。ただ、物資が少しでもあるのならプロイセン軍が勝つのは当たり前だ。
俺達は常に物資がないから半分死んでいるからな。
そして、靴がないのだから。
それでも、俺達はオーストリア軍と組んで、クーネルスドルフで戦闘をし、プロイセン軍を撃破した。
撃破したとはいっても、多大な損害を出した。
そうでなくてもロクな物資もないし、厳しいのにこれだけ戦傷者を出したら戦うつもりにもならない。
オーストリア軍は追撃したいようだが、俺達ロシア軍は断固として拒否した。
指揮官も女帝エリザヴェータに手紙を書いた。
『勝ったけど多大な損害を出しました。もう一回戦闘したら、もう報告する者もいなくなって、私一人でサンクトペテルブルクに帰ることになるでしょう』
とにかくな、靴が欲しいんだ。
靴をくれ! 靴を!
俺達がサボタージュしている頃、フリードリヒ2世は僅か三千の兵しかいなかったらしい。だから、「次の攻撃を受けたら戦死する。さようなら」という手紙を弟や有力者に出していたらしい。
でも、俺達が断固攻撃を拒否したから、フリードリヒは生き延びた。奴は「ブランデンブルクで奇跡が起きた」と次の手紙に書いたらしい。
それがどうした、俺達は靴がないんだ。
その後、俺達は何やかんやとオーストリアに宥められてドイツに滞在していたが、女帝エリザヴェータが病死して、フリードリヒ2世を信奉するピョートル3世が即位して勝手にプロイセンと停戦して、世界を驚かせた。
それもあってピョートル3世はすぐにクーデターを起こされ、妻のエカチェリーナ2世に取って代わられた。
ただ、皇帝が誰だろうと関係ない。俺達はもう絶対に戦いたくはない。
ということで、結局、俺達は撤退した。
そして、相変わらず靴はない。
フリードリヒは狂喜したらしい。
まあ、正直、俺達が残っていたとして、まともな戦いができたのかは疑わしいが、大々的に撤退したことでオーストリアもフランスも落胆したようで、結局停戦となった。ブランデンブルクでまたも奇跡が起きたと言われているらしい。
中世の傭兵になる奴に伝えておく。
替えの靴はしっかり用意しておけ。
武器や食い物は歩ければ何とかなる。
歩けなければ話にならない。
"女神の一言"
実際に靴がなくて悩まされた逸話は、フランス革命時のフランス軍の話だったのですが、ロシアにしてもそんなに変わりはないだろうと思います。
半年以上かけて歩いて戦場に向かうだけでも、もうやる気がなくなりそうですが、ロシア軍はこの50年後にも同じくらい遠いアウステルリッツ方面まで向かうことになります。
ちなみに、かのアドルフ・ヒトラーが最後の最後までベルリンで粘っていたのは、この僥倖の再現を期待していたというような話もあるようで、フリードリヒ2世の
でも、当時のロシア軍は当時よりは移動の負担が少なかったはずですし、多分靴ももう少しまともだったでしょう。
俺は日本人傭兵として各地を転生していたが、仲間の裏切りによって戦死した。
『ふーん、傭兵ってことは戦闘好きなのねぇ』
「ああ、俺の人生は硝煙と血の臭いに彩られている。この服も返り血で黒ずんでいる」
『えぇぇぇっ!? それ隠密用じゃなくて、返り血!? 気持ち悪い! あんたなんか、生まれ変わっても傭兵やるべきよ!』
と叫んで逃げていった。
それはあまりにも酷いんじゃないかと思ったが、ともあれ俺は転生したようだ。
転生先の俺は……ロシア帝国に所属する傭兵だった。
ロシアの傭兵なんてロクなものじゃないと思うかもしれないが、まあ、傭兵なんてどこも同じだ。
戦いがあれば赴き、血と硝煙とともに生活する。土の臭いに包まれることも少なくはないな。
そう。戦いこそが俺の生き甲斐……。
そう思っていたのだが。
女帝エリザヴェータはオーストリア、フランスと組んでプロイセンと戦争することになった。有名な七年戦争だ。
これは本当に辛いものだった。
そうでなくてもロシアは遠い。今でも遠いのに、18世紀だと車がないから常時徒歩だ。その距離1500キロを優に超える。
戦場まで半年以上かけて歩いていくんだぜ、信じられないだろ?
それだけ歩くと当然粗悪な靴がダメになる。
新しい靴?
現代だって提供がないんだぜ。18世紀に期待できるはずないだろう。
しかもポーランドとか泥濘に満ちたところだ。何とか補強して歩くが、浸み込んでくる水が不快なことこの上ない。向かうだけで同僚がバタバタと倒れていく。体調が悪くなるから病気にもかかるわでもう散々だ。
それでも、ドイツに着いてみたら、プロイセンは瀕死の状態だ。
国王フリードリヒ2世が銃弾を胸に受けたがタバコの箱があったから助かったなんていうこともあったらしい。
とはいえ、俺達は着いただけでもう燃え尽きている。俺達の遠征というものはオリンピックと同じで参加できただけでいいのだ。もう、心の中で金メダルをもらったような気分だ。アベベは42.195キロを裸足で走って金メダルを得た。
裸足で1000キロ歩いた俺達はスーパー金メダルを貰ってしかるべきではないか?
だから、プロイセンとの戦いは、瀕死のプロイセンと、瀕死のロシア、どちらがよりダメかという戦いになった。ただ、物資が少しでもあるのならプロイセン軍が勝つのは当たり前だ。
俺達は常に物資がないから半分死んでいるからな。
そして、靴がないのだから。
それでも、俺達はオーストリア軍と組んで、クーネルスドルフで戦闘をし、プロイセン軍を撃破した。
撃破したとはいっても、多大な損害を出した。
そうでなくてもロクな物資もないし、厳しいのにこれだけ戦傷者を出したら戦うつもりにもならない。
オーストリア軍は追撃したいようだが、俺達ロシア軍は断固として拒否した。
指揮官も女帝エリザヴェータに手紙を書いた。
『勝ったけど多大な損害を出しました。もう一回戦闘したら、もう報告する者もいなくなって、私一人でサンクトペテルブルクに帰ることになるでしょう』
とにかくな、靴が欲しいんだ。
靴をくれ! 靴を!
俺達がサボタージュしている頃、フリードリヒ2世は僅か三千の兵しかいなかったらしい。だから、「次の攻撃を受けたら戦死する。さようなら」という手紙を弟や有力者に出していたらしい。
でも、俺達が断固攻撃を拒否したから、フリードリヒは生き延びた。奴は「ブランデンブルクで奇跡が起きた」と次の手紙に書いたらしい。
それがどうした、俺達は靴がないんだ。
その後、俺達は何やかんやとオーストリアに宥められてドイツに滞在していたが、女帝エリザヴェータが病死して、フリードリヒ2世を信奉するピョートル3世が即位して勝手にプロイセンと停戦して、世界を驚かせた。
それもあってピョートル3世はすぐにクーデターを起こされ、妻のエカチェリーナ2世に取って代わられた。
ただ、皇帝が誰だろうと関係ない。俺達はもう絶対に戦いたくはない。
ということで、結局、俺達は撤退した。
そして、相変わらず靴はない。
フリードリヒは狂喜したらしい。
まあ、正直、俺達が残っていたとして、まともな戦いができたのかは疑わしいが、大々的に撤退したことでオーストリアもフランスも落胆したようで、結局停戦となった。ブランデンブルクでまたも奇跡が起きたと言われているらしい。
中世の傭兵になる奴に伝えておく。
替えの靴はしっかり用意しておけ。
武器や食い物は歩ければ何とかなる。
歩けなければ話にならない。
"女神の一言"
実際に靴がなくて悩まされた逸話は、フランス革命時のフランス軍の話だったのですが、ロシアにしてもそんなに変わりはないだろうと思います。
半年以上かけて歩いて戦場に向かうだけでも、もうやる気がなくなりそうですが、ロシア軍はこの50年後にも同じくらい遠いアウステルリッツ方面まで向かうことになります。
ちなみに、かのアドルフ・ヒトラーが最後の最後までベルリンで粘っていたのは、この僥倖の再現を期待していたというような話もあるようで、フリードリヒ2世の
でも、当時のロシア軍は当時よりは移動の負担が少なかったはずですし、多分靴ももう少しまともだったでしょう。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる