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悪女とハーレムその1・きっかけをつかめ

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 ワタクシの名前は奥洲郁子いくこ
 悪と愛に憧れる花の乙女ですわ!
 従兄の天成を舎弟にし、様々なエログロ怪奇譚などを買わせております。
 権力のためにライバルを毒殺しようとして失敗した悪女が処刑されるところなど、鼻血が出ますわ、ムフー。

 そんなワタクシが、ああ、何ということでしょう。
 車に撥ねられて死んでしまったというのです。
 美しい花は蕾のまま終わってしまった。
 嘆かわしいことですわ。
 世界の損失ですわ。

『……従兄もあれだが、従妹もかなり変わった奴だな』
「まあ、これは神様! ワタクシを理想の悪女として転生させるために来てくれたのですね!」
『いや、何に転生させるかまだ決めていない。何か希望はあるのか?』
「ワタクシは理想的な悪女になりたいのです!」
『……と言われても、正直よく分からんな。則天武后とか西太后になりたいのか?』
「あれは単なる悪人ですわ」
『日野富子とか?』
「あれは単に夫を尻に敷いてケチなだけですわ」
『……よく分からん。後宮に転生させてやるから、後は勝手に頑張ってくれ』

 かくして、ワタクシは後宮の姫の一人として転生いたしました!
 登れ皇后への階段!
 エース……ではなく、エンプレスを狙え! ですわ!

 ということで、ワタクシは三国志の勝者となった西晋の武帝の後宮に入ることになりました。
 隣にいるのはこの世界では同郷の生まれらしい蘭々です。いつも目に隈があるのが特徴的でぱっと見はパンダのような娘です。
 こんな冴えない身なりで後宮に入れられるなんて、可哀相な蘭々。
「ねぇ、郁子。私達、皇帝様の寵愛を受けることができるのかな?」
「当然ですわ! ワタクシの頭の中には既にエンプレスへの階段を昇る自分の姿がありありと映っています。武帝没後、晋は混乱しますが、それを支配するところまで含めて完璧ですわ!」
「でも、この後宮には一万人もの女がいるというのよ?」
「い、一万人……」
 そうでしたわ。
 自前で既に沢山入れていたところに、呉を滅ぼした時に、建業の後宮にいた五千人を追加して一万人になったとか。
 人数だけを聞くと中々凄いですわね。
 両国国技館を満員にするくらい愛妾候補がいると考えると鳥肌が立ちますわ。

「で、ね。私、色々と作戦を考えたの」
「ほほう、蘭々が、ですか? まあ、聞いてさしあげましょう」
「皇帝様はね、毎日のように後宮をうろついているから、ありきたりなことではダメだと思うのよ」
 確かにそうですわね。
 毎日毎日抱いているから、段々選ぶのが面倒くさくなってきて、最近では羊に任せているという話を聞いたことがありますわ。
「だから、最初が大切だと思うの。最初でガツンと掴まないと二度目のチャンスはないと思うわ」
「……お待ちなさい。一撃目に必死になると、自らの本質を伝え損ねる可能性がありますわ。自らの本質を忘れてはなりません」
「それではダメだと思うわ。インパクトがないと覚えられないよ」
 平行線ですわね。
 まあ、いいでしょう。
「で、やはり一万人もいるとなると、相手がどんなものなのか分からないと思うから、入口に何をしたいか書いておくべきだと思うの」
「入り口に書くわけですか?」
「そう。最初は何をして、最後はこうする。自分のおもてなしを全部書いてしまうわけ」
「お待ちなさい。そんなダラダラと長文を書いてしまうのははしたないことこの上ないですわ。入り口は簡潔にしておくべきですわ」
 大体、ワタクシのおもてなしとか言いますと、エログロ系とか加虐系になってしまいますわ。そんなものを書いたら、陛下にも同僚にも何と思われるか。
「それならそれでいいんじゃない? とんがった設定も悪くないと思うよ」
 ハッ! もしかして、ワタクシ、思ったことを口走っていた!?
 大体、何ですの? これ。まるでラノベ論ではないですか。
「似たようなものかもしれないわ。とにかく沢山いる中から選んでもらうという点では」
「ええい! お黙りなさい! 理想の悪女はテンプレなどに乗っかってはいけないのです! ワタクシはワタクシのやり方で栄光を掴んでみせますわ!」



"神の一言"
 この先の展開についてはご想像にお任せする、ということで。

 途中にもあったが、多すぎて羊に選ばせていたという話があり、それを知った女の一人が入り口に塩を置いて羊を止めたというような話もある。

 また、男の好みというものも千差万別なうえ、同一人物でも時期によって変わるということもある。
 この辺りは古代や中世に関しては中々ピンと来ないかもしれないが、エドワード7世のように愛人が写真で残っているケースを見れば一目瞭然だ。

 単純に美人ならいいというものでもないようで、時宜に適った容姿や人間性が要求されるのかもしれない。
 難しいものだ、な。
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