【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵!

ジャワカレー澤田

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巨人族の足跡

18 報告書は挿絵付きで

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 デルガドはヒルダが提出した報告書に目を通す。

 いや、「目を通す」どころではない。その驚くべき内容に、デルガドの目は釘付けになった。

 異世界の日本という国には、「デイラボッチ」と呼ばれる巨人が存在した。それはある時まで隆盛を誇り、一族を形成していた。

 デイラボッチの一族は、その威信を人間どもに示すために山を作ろうと考えた。大地から土を削り取り、巨大なもっこでそれを運んで「富士山」と呼ばれる山を築き上げてしまった。

 これを日本列島の中央に運ぼう。デイラボッチ一族は全員で力を合わせ、完成間もない富士山を持ち上げた。

 が、その道の半ばで休憩している間に、富士山が動かなくなってしまった。大きく太い根で地面に接着してしまったのだ。デイラボッチ一族がどんなに踏ん張っても、富士山は二度と持ち上がらなかった。

 これにより、デイラボッチ一族の威信は大きく傷つき、下り坂を転がり落ちるように一族は滅亡の道へ向かっていく——。

 ヒルダの報告書によれば、デイラボッチという巨人は既に絶滅しているという。闇の地の巨人族と交配させてより屈強な巨人を作るという構想はこれで実現不可能と判明したが、同時に今の異世界に巨人は存在しないことも分かった。闇の地から異世界へ侵攻する際、対巨人用部隊を編成する必要はないということだ。

 デルガドは氷のような笑みを浮かべ、そして大いに満足した。

 *****

 真夜はマンションの自室で絵を描いている。先日デルガドに提出した報告書に挿絵があれば、もっと見やすくなるだろうと考えたからだ。

 それも、写生の時の鉛筆画では物足りない。ここは極力いろんな色を付けよう。そう思い立った真夜は文房具店で絵の具と画用紙を買い、かつて栄えたはずのデイラボッチ一族の絵を9割方想像で描いてみた。

 家族全員で協力して富士山を作る場面の絵、それをみんなで持ち上げる場面の絵、そして旅の途中で休憩しながら昼食を食べる絵。今は富士山が持ち上がらず、みんなで泣いている絵を仕上げている最中だ。

「真夜、やっぱりお前は絵が上手ぇなぁ」

 真夜の部屋に入ってきた孝介が、そう声をかけた。

「鉛筆画も水彩画もできるってのは、なかなか大したもんだぜ。お前、もしかしたらこれで食えるんじゃねぇか?」

「え? 何言ってるのよ、コウ。これは売るために描いてるわけじゃないわ。偵察の成果を報告——」

「ちょっと貸してみな」

 孝介は真夜の言葉を遮り、完成間もない絵を1枚手に取る。

「へぇ~、デイラボッチの家族……か。あの時は女ならではの着眼点だとか言って褒めてやったが、ここまで来ると褒めるくらいじゃ足りねぇな。こりゃ本当に売れるかもしれねぇ」

「だから、売るために描いてるわけじゃ——」

「真夜、お前神保町に行ってみるか?」

 突然そう問われた真夜は、

「神保町?」

 と、首を捻った。

「大衆文芸館の本社だ。そこの児童書担当とちょっとした知り合いでな。お前のこの絵を見せてやりてぇと思ったんだ。上手くいけば、出版にこぎつけられるかもしれねぇ」

「コウ、さっきから言ってるでしょ? 私はこの絵を売るために描いてるわけじゃなく——」

「いいじゃねぇか、真夜。何事も挑戦だ。お前が嫌でも、俺がこの絵を神保町に持ってって直談判するつもりだ」

 妙に乗り気な孝介は、まるで真夜の背中を押すような口調でこう告げた。

「今からでも神保町に連絡するから、お前はテメェの名刺でも作っておけ。分かったな?」

<巨人族の足跡・終>
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