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水の底には誰がいる?
21 コウをやる気にさせる方法
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「カッパって何?」
真夜はそう首を捻った。しかし彼女の内心は、闇の魔操師ヒルダとしての思惑で彩られている。
これはきっと、新たな魔物に関する情報だろう。何しろこの日本には、まだまだ未知の魔物が存在する。じきに行われる魔王軍の異世界侵攻のためにも、孝介の口から出る新情報は聞き逃すわけにはいかない。
「何だ、お前河童を知らねぇのか? ……まあ、お前の国じゃそんな妖怪はいなかったのかもしれねぇがな。河童ってのは、なんてぇかな……要は水棲の人型妖怪だ。川の中に棲んでいて、指の間には水掻きがあって、甲羅を背負った類人猿と言やぁいいか?」
「水棲の人型妖怪……それはたとえば、リザードマンみたいなもの?」
「何だそりゃ?」
「トカゲと人間を足して2で割ったような、二足歩行の魔物のことよ。ああ、でも甲羅を背負ってるって言ったわね。それじゃあ、サハギンのほうがより近いイメージかしら? 海や川から出てくる半魚人」
「まあ、そんな感じだ。陸でも水でも行動できる、両生類の妖怪だな」
孝介は「それで」とつなげ、
「この河童伝説が、デイラボッチのように日本全国で語り継がれてるわけだ」
「つまり、各地で目撃証言があるってことね?」
「ああ、河童のミイラまで存在するくらいだからな」
それを聞いた真夜は、
「本当!?」
と、声を上げた。
普段は魔物の気配がまったく見当たらないこの世界で、魔物のミイラがあるというのは驚くべきことだ。これは何が何でも調査しに行かなければならない。
「コウ、そのミイラはどこにあるの? 今すぐあのロードスターで行かないと!」
「何言ってやがる! そんな気軽に行ける距離じゃねぇんだよ。そのミイラってなぁ、佐賀県の酒蔵が所有してるものらしいんだがな」
「ロードスターで行けば2、3時間ってとこじゃないの?」
「名古屋と一緒にするな、バカ! 神奈川から佐賀っていやぁ、2泊はしねぇとクルマじゃ往復できねぇよ」
孝介に「バカ」と言われてしまった真夜は、
「なっ!? 私を侮辱したわね!」
と怒り、デイラボッチの絵を描いていた筆を手に取る。
赤い絵の具で、孝介の左頬に筆を滑らせた。流暢な手つきで「バカ」と書き込んでやる。
「コウのくせに生意気よ! バ~カ!」
*****
その日の午後、真夜はヒルダに戻り、「橋」を渡って闇の地に帰った。
魔王デルガドに、河童なる魔物の存在を報告するためだ。
「――なるほど、そのカッパとやらは異世界のサハギンというわけか」
デルガドは書斎の机で魔導書に目を通しながら、椅子の背後で跪くヒルダにそう返した。
「さようでございます、魔王様。しかもその河童は、亀の派生の魔物とか……」
「亀? それはつまり、硬い甲羅を持っているということか。この世界のサハギンよりも、防御に優れていると」
「いかにも。これは一刻も早い調査が必要かと思われます」
ヒルダの進言に対してデルガドは、
「うむ、よかろう。その異世界の魔物を調査してみよ、ヒルダ」
と、命じた。さらに、
「お前が異世界で意のままに操っているという男を酷使して、何が何でも魔物の生態を突き止めよ。必要とあらば、その男を捨て駒にしても構わぬ。異世界人の1人や2人、犠牲にしたところで何かあるというわけではあるまい」
冷酷な指示を口にした。ヒルダは微笑を浮かべ、
「仰せのままに」
そう返答した。
*****
「さあ、コウ! 今からあなたは、これを全部飲むのよ!」
真夜はリビングのテーブル一面に栄養ドリンクを並べながら、孝介にそう命じた。
闇の地から神奈川の自宅に引き返した真夜は、その足で薬局に向かった。どうやらこの世界には男のやる気と体力を増強させる飲み物があるということを、真夜は事前に知っていた。そこでマカドリンクやら高麗人参ドリンクやらマムシドリンクやらナンタラカンタラ皇帝液やらを大人買いして、孝介に飲ませようと考えたのだ。
「これを全部、今ここで飲みなさい。さあ!」
「……お前はそんなに欲求不満なのか、真夜?」
「つべこべ言わないで飲むの! コウにはこれから、河童の調査に協力してもらわないといけないんだから」
真夜は瓶詰めのドリンクの蓋を1本ずつ開け、
「コウのことは、私が死ぬまでコキ使ってやるわ。どんなに嫌がっても命乞いをしても、コウは私の捨て駒なのよ。さあ、これを飲んで私に奉仕なさい!」
そう啖呵を切った。
「別に嫌じゃねぇけどよ」
孝介はとりあえずマムシドリンクを1本手に取り、勢いをつけて一息で飲んだ。
「……くわぁぁぁっ! こりゃなかなかベラボーなもんだ。よくこんな味の飲み物を商品化しようと思ったよなぁ。株主総会でボロクソに怒鳴られても反論できねぇ代物だ」
「ほら、もう1本」
「ったく、仕方ねぇなぁ。……ところで真夜、お前“男を元気にさせる”ってなぁどういう意味か、分かっててこんなことやってるのか?」
ふと、孝介は真夜にそう質問した。
「河童の調査に俺を協力させるってぇ理由でこういうことをしてるのは分かるが、“それ以前の話”ってのがあるだろ? そのあたり、お前だってガキじゃねぇんだから想像くらいつくはずだ」
「……分かってるわよ、そんなこと」
そうつぶやいた真夜は、ブラウスのボタンにゆっくり手をかけた。
1個、2個、3個とボタンを外すと、白いブラジャーに包まれた大きな乳房が2つ、勢いよく飛び出した。
「私だって、いろいろ準備してるんだから……。今夜は手を抜いちゃダメよ?」
と、赤面の真夜はブラジャーを下方にずらした。
真夜はそう首を捻った。しかし彼女の内心は、闇の魔操師ヒルダとしての思惑で彩られている。
これはきっと、新たな魔物に関する情報だろう。何しろこの日本には、まだまだ未知の魔物が存在する。じきに行われる魔王軍の異世界侵攻のためにも、孝介の口から出る新情報は聞き逃すわけにはいかない。
「何だ、お前河童を知らねぇのか? ……まあ、お前の国じゃそんな妖怪はいなかったのかもしれねぇがな。河童ってのは、なんてぇかな……要は水棲の人型妖怪だ。川の中に棲んでいて、指の間には水掻きがあって、甲羅を背負った類人猿と言やぁいいか?」
「水棲の人型妖怪……それはたとえば、リザードマンみたいなもの?」
「何だそりゃ?」
「トカゲと人間を足して2で割ったような、二足歩行の魔物のことよ。ああ、でも甲羅を背負ってるって言ったわね。それじゃあ、サハギンのほうがより近いイメージかしら? 海や川から出てくる半魚人」
「まあ、そんな感じだ。陸でも水でも行動できる、両生類の妖怪だな」
孝介は「それで」とつなげ、
「この河童伝説が、デイラボッチのように日本全国で語り継がれてるわけだ」
「つまり、各地で目撃証言があるってことね?」
「ああ、河童のミイラまで存在するくらいだからな」
それを聞いた真夜は、
「本当!?」
と、声を上げた。
普段は魔物の気配がまったく見当たらないこの世界で、魔物のミイラがあるというのは驚くべきことだ。これは何が何でも調査しに行かなければならない。
「コウ、そのミイラはどこにあるの? 今すぐあのロードスターで行かないと!」
「何言ってやがる! そんな気軽に行ける距離じゃねぇんだよ。そのミイラってなぁ、佐賀県の酒蔵が所有してるものらしいんだがな」
「ロードスターで行けば2、3時間ってとこじゃないの?」
「名古屋と一緒にするな、バカ! 神奈川から佐賀っていやぁ、2泊はしねぇとクルマじゃ往復できねぇよ」
孝介に「バカ」と言われてしまった真夜は、
「なっ!? 私を侮辱したわね!」
と怒り、デイラボッチの絵を描いていた筆を手に取る。
赤い絵の具で、孝介の左頬に筆を滑らせた。流暢な手つきで「バカ」と書き込んでやる。
「コウのくせに生意気よ! バ~カ!」
*****
その日の午後、真夜はヒルダに戻り、「橋」を渡って闇の地に帰った。
魔王デルガドに、河童なる魔物の存在を報告するためだ。
「――なるほど、そのカッパとやらは異世界のサハギンというわけか」
デルガドは書斎の机で魔導書に目を通しながら、椅子の背後で跪くヒルダにそう返した。
「さようでございます、魔王様。しかもその河童は、亀の派生の魔物とか……」
「亀? それはつまり、硬い甲羅を持っているということか。この世界のサハギンよりも、防御に優れていると」
「いかにも。これは一刻も早い調査が必要かと思われます」
ヒルダの進言に対してデルガドは、
「うむ、よかろう。その異世界の魔物を調査してみよ、ヒルダ」
と、命じた。さらに、
「お前が異世界で意のままに操っているという男を酷使して、何が何でも魔物の生態を突き止めよ。必要とあらば、その男を捨て駒にしても構わぬ。異世界人の1人や2人、犠牲にしたところで何かあるというわけではあるまい」
冷酷な指示を口にした。ヒルダは微笑を浮かべ、
「仰せのままに」
そう返答した。
*****
「さあ、コウ! 今からあなたは、これを全部飲むのよ!」
真夜はリビングのテーブル一面に栄養ドリンクを並べながら、孝介にそう命じた。
闇の地から神奈川の自宅に引き返した真夜は、その足で薬局に向かった。どうやらこの世界には男のやる気と体力を増強させる飲み物があるということを、真夜は事前に知っていた。そこでマカドリンクやら高麗人参ドリンクやらマムシドリンクやらナンタラカンタラ皇帝液やらを大人買いして、孝介に飲ませようと考えたのだ。
「これを全部、今ここで飲みなさい。さあ!」
「……お前はそんなに欲求不満なのか、真夜?」
「つべこべ言わないで飲むの! コウにはこれから、河童の調査に協力してもらわないといけないんだから」
真夜は瓶詰めのドリンクの蓋を1本ずつ開け、
「コウのことは、私が死ぬまでコキ使ってやるわ。どんなに嫌がっても命乞いをしても、コウは私の捨て駒なのよ。さあ、これを飲んで私に奉仕なさい!」
そう啖呵を切った。
「別に嫌じゃねぇけどよ」
孝介はとりあえずマムシドリンクを1本手に取り、勢いをつけて一息で飲んだ。
「……くわぁぁぁっ! こりゃなかなかベラボーなもんだ。よくこんな味の飲み物を商品化しようと思ったよなぁ。株主総会でボロクソに怒鳴られても反論できねぇ代物だ」
「ほら、もう1本」
「ったく、仕方ねぇなぁ。……ところで真夜、お前“男を元気にさせる”ってなぁどういう意味か、分かっててこんなことやってるのか?」
ふと、孝介は真夜にそう質問した。
「河童の調査に俺を協力させるってぇ理由でこういうことをしてるのは分かるが、“それ以前の話”ってのがあるだろ? そのあたり、お前だってガキじゃねぇんだから想像くらいつくはずだ」
「……分かってるわよ、そんなこと」
そうつぶやいた真夜は、ブラウスのボタンにゆっくり手をかけた。
1個、2個、3個とボタンを外すと、白いブラジャーに包まれた大きな乳房が2つ、勢いよく飛び出した。
「私だって、いろいろ準備してるんだから……。今夜は手を抜いちゃダメよ?」
と、赤面の真夜はブラジャーを下方にずらした。
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