41 / 77
「橋」の管理人
41 天狗って一体何だろうな?
しおりを挟む
「天狗ってのはなぁ……一言じゃなかなか言い表せねぇんだよ。一体何なんだろうな?」
孝介は首を捻りながら真夜にそう返した。そして、
「ある時は奇跡を起こす魔法使い、またある時は人さらい、さらにまたある時は神様。天狗にも種類ってぇのがあるし、たった一言で“これが天狗だ”とは言えねぇんだ」
「ああ、そうだな。時代によっても解釈がある」
ジョーが孝介の言葉を補足するように、
「そもそも“天狗”ってのは中国由来の単語だし、だからって古代中国に日本のような天狗はいねぇ。そうさな……敢えて要約すれば、山岳信仰の象徴ってとこだな。世界がまだ広かった時代、あらゆる摩訶不思議は天狗がもたらしたものだと先人は解釈したんだ」
と、説明した。
「日本って国は、山地が7割ほどの国だ。インターネットどころかテレビも電話もロクな道路もなかった時代は、山は神聖な場所だった。天狗は山の支配者、と言うべきかな?」
「あなた、随分博識ですわね」
真夜がジョーにそう言うと、
「そりゃあお前ぇ、ジョーは日本史分野の大学教授だからよ。天狗云々の話は本職だ」
と、孝介が返した。
「そ、そうなの!?」
「がっはっはっはっはっ! マツ、それは誤解だぜぇ。俺にとっての本業はデリンジャー・カスタムズ、副業は日本史の研究、大学教授はそのついでだ」
そう笑うジョーを横目に孝介は、
「このオッサンはこれでも博士号持ってるからよ。日本史のことなら、何でも質問しな」
真夜に言いつけた。
歴史関連の大学教授ということは、この世界の神話や伝説のプロフェッショナルということか。ジョーがとてもそのような知識人には見えないが、とりあえず外見のことは置いておこう。大学教授と顔見知りになること自体は、むしろ好ましい出来事だ。
真夜は不敵な微笑を浮かべながら、
「どこに行けば天狗に会えるのですか?」
と、ジョーに質問した。
*****
「ジョーはすっかりお前のこと気に入ったみたいだぜ」
帰路に就いたロードスターのハンドルを握りながら、孝介はそう言った。
「若い娘が日本の迷信に興味を持つのはいいことだって、あいつ力説してたな。……まあ、お前が“若い娘”かどうかはさておき」
「何よそれ!」
真夜は孝介の顔を睨み、
「私はまだ若いわよ! 膝の動きはほんの少しだけ鈍くなったけど、体型は10年前と同じよ。私の身体は25歳なの」
と、言い放った。
「あーあー、そうかいそうかい。そのくせ最近“トイレ行ってもお通じがないの”とか何とか言ってやがるよな、お前」
「そっ! それは——」
「加齢は胃と大腸から来るんだぜ」
孝介のその言葉に、真夜はすぐさま反論できなかった。
ここ最近便秘気味なのは事実だし、ちょっとした不摂生ですぐに胃がもたれるようになった。そういえば先週、『みかみ』で仙次の作った天ぷらを食べ過ぎて、翌日ずっと胃酸が過剰分泌してしまうということもあった。10年前はそのくらいの無茶など問題にしなかったのに……。
やっぱり歳は取るものじゃないのかしら?
それはさておき。
「あの人が私に貸してくれた本、これを読めば天狗のことが大体分かるって言われたけれど——」
「ああ、それか。実はな、俺もそれ読んだことあるんだ。面白いぞ」
孝介は真夜の膝の上にある本を横目で見ながら、
「仙境異聞、か。ある意味で民俗学研究の必読書だな」
と、つぶやいた。
孝介は首を捻りながら真夜にそう返した。そして、
「ある時は奇跡を起こす魔法使い、またある時は人さらい、さらにまたある時は神様。天狗にも種類ってぇのがあるし、たった一言で“これが天狗だ”とは言えねぇんだ」
「ああ、そうだな。時代によっても解釈がある」
ジョーが孝介の言葉を補足するように、
「そもそも“天狗”ってのは中国由来の単語だし、だからって古代中国に日本のような天狗はいねぇ。そうさな……敢えて要約すれば、山岳信仰の象徴ってとこだな。世界がまだ広かった時代、あらゆる摩訶不思議は天狗がもたらしたものだと先人は解釈したんだ」
と、説明した。
「日本って国は、山地が7割ほどの国だ。インターネットどころかテレビも電話もロクな道路もなかった時代は、山は神聖な場所だった。天狗は山の支配者、と言うべきかな?」
「あなた、随分博識ですわね」
真夜がジョーにそう言うと、
「そりゃあお前ぇ、ジョーは日本史分野の大学教授だからよ。天狗云々の話は本職だ」
と、孝介が返した。
「そ、そうなの!?」
「がっはっはっはっはっ! マツ、それは誤解だぜぇ。俺にとっての本業はデリンジャー・カスタムズ、副業は日本史の研究、大学教授はそのついでだ」
そう笑うジョーを横目に孝介は、
「このオッサンはこれでも博士号持ってるからよ。日本史のことなら、何でも質問しな」
真夜に言いつけた。
歴史関連の大学教授ということは、この世界の神話や伝説のプロフェッショナルということか。ジョーがとてもそのような知識人には見えないが、とりあえず外見のことは置いておこう。大学教授と顔見知りになること自体は、むしろ好ましい出来事だ。
真夜は不敵な微笑を浮かべながら、
「どこに行けば天狗に会えるのですか?」
と、ジョーに質問した。
*****
「ジョーはすっかりお前のこと気に入ったみたいだぜ」
帰路に就いたロードスターのハンドルを握りながら、孝介はそう言った。
「若い娘が日本の迷信に興味を持つのはいいことだって、あいつ力説してたな。……まあ、お前が“若い娘”かどうかはさておき」
「何よそれ!」
真夜は孝介の顔を睨み、
「私はまだ若いわよ! 膝の動きはほんの少しだけ鈍くなったけど、体型は10年前と同じよ。私の身体は25歳なの」
と、言い放った。
「あーあー、そうかいそうかい。そのくせ最近“トイレ行ってもお通じがないの”とか何とか言ってやがるよな、お前」
「そっ! それは——」
「加齢は胃と大腸から来るんだぜ」
孝介のその言葉に、真夜はすぐさま反論できなかった。
ここ最近便秘気味なのは事実だし、ちょっとした不摂生ですぐに胃がもたれるようになった。そういえば先週、『みかみ』で仙次の作った天ぷらを食べ過ぎて、翌日ずっと胃酸が過剰分泌してしまうということもあった。10年前はそのくらいの無茶など問題にしなかったのに……。
やっぱり歳は取るものじゃないのかしら?
それはさておき。
「あの人が私に貸してくれた本、これを読めば天狗のことが大体分かるって言われたけれど——」
「ああ、それか。実はな、俺もそれ読んだことあるんだ。面白いぞ」
孝介は真夜の膝の上にある本を横目で見ながら、
「仙境異聞、か。ある意味で民俗学研究の必読書だな」
と、つぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる