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「橋」の管理人
43 天狗になった少年
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『仙境異聞』は、江戸時代の国学者平田篤胤が書いたドキュメンタリー本である。
そう、これはドキュメンタリー即ちノンフィクションなのだ。
寅吉という名の少年を数年間自宅に住まわせ、彼から「仙境」という世界のことを質問して記述した本である。この寅吉は、東京都内にある寛永寺で遊んでいたところを謎の老人にさらわれ、壺の中へ入れられたという。
その壺は常陸国南台丈という山につながっていた。常陸国とは、今の茨城県である。東京都と茨城とでは相当な距離だが、寅吉は飛行機も電車もクルマもない時代にその間を一瞬で移動していたそうだ。
当初は江戸と南台丈を毎日往復していた寅吉だったが、やがて同じ常陸国の岩間山というところで天狗になるための修行をするようになる。しかも修行の合間にあらゆる国へ足を運んだとのこと。魔術を使って日本より東にある国にも行ったらしい。
さらに驚くべきは、寅吉が仙境に生息しているという怪人や魔物についても事細かに証言しているという点だ。先日調査した河童も出てくるし、人の顔に張りつく「ノブスマ」なる魔物も出てくる。鉄を食べる恐ろしい生き物も登場する。そして、仙境の文化や風習や生活様式なども寅吉は平田に説明している。呪術の詳しいやり方もきちんと話している。
これは見方を変えれば魔導書ではないか!? 真夜は上ブラウス・下ショートガードル姿のまま戦慄した。
「コウ、この件については明日から調査開始よ」
孝介をベッドに引きずり込んだ真夜は、彼の胴体に抱き着きながらそう告げた。
「まずは寅吉が謎の老人と最初に出会った寛永寺から行くわ。もしかしたら、今でも天狗が現れるかもしれないし」
「どうかねぇ」
孝介はショートガードルに包まれた真夜の尻を右手で撫でながら、
「あそこも今じゃ観光客のほうが多いからな。天狗もビビッてなかなか顔出さねぇんじゃねぇか?」
と、左腕で真夜の身体を抱き返す。
「それでも行くのか?」
「当然よ! 行かなきゃ何も分からないでしょ?」
「お前、俺よりもライターに向いてるぜ」
孝介はそう笑いつつ、真夜の目を見つめた。すると真夜も孝介の目をじっと見つめ返す。
2人の距離が徐々に近づき、やがて唇同士が重なった。
互いの口内で唾液が混ざり合い、それは夫妻をつなぐ糸になった。真夜は愛の糸を舌で丁寧に舐め取りながら、
「……コウ、私怖い」
と、打ち明けた。
「怖い?」
「コウと一緒にいられなくなることが、すごく怖い。だからコウ、これからもずっと一緒よ?」
「……ああ、分かってらぁ」
孝介は真夜の頭髪とショートガードルを撫でながら、
「俺もお前を失うのが怖い。心底愛した女をくだらない理由で手放すのは、もう御免だ」
そう返した。
そこから真夜は数秒かけ、ある違和感に気がついた。それは孝介が“もう”と言ったことだ。
「もう」って、どういうこと?
だがその疑問は、孝介にブラウスとブラジャーを解かれると同時に真夜の脳内から弾け飛んでいった。
そう、これはドキュメンタリー即ちノンフィクションなのだ。
寅吉という名の少年を数年間自宅に住まわせ、彼から「仙境」という世界のことを質問して記述した本である。この寅吉は、東京都内にある寛永寺で遊んでいたところを謎の老人にさらわれ、壺の中へ入れられたという。
その壺は常陸国南台丈という山につながっていた。常陸国とは、今の茨城県である。東京都と茨城とでは相当な距離だが、寅吉は飛行機も電車もクルマもない時代にその間を一瞬で移動していたそうだ。
当初は江戸と南台丈を毎日往復していた寅吉だったが、やがて同じ常陸国の岩間山というところで天狗になるための修行をするようになる。しかも修行の合間にあらゆる国へ足を運んだとのこと。魔術を使って日本より東にある国にも行ったらしい。
さらに驚くべきは、寅吉が仙境に生息しているという怪人や魔物についても事細かに証言しているという点だ。先日調査した河童も出てくるし、人の顔に張りつく「ノブスマ」なる魔物も出てくる。鉄を食べる恐ろしい生き物も登場する。そして、仙境の文化や風習や生活様式なども寅吉は平田に説明している。呪術の詳しいやり方もきちんと話している。
これは見方を変えれば魔導書ではないか!? 真夜は上ブラウス・下ショートガードル姿のまま戦慄した。
「コウ、この件については明日から調査開始よ」
孝介をベッドに引きずり込んだ真夜は、彼の胴体に抱き着きながらそう告げた。
「まずは寅吉が謎の老人と最初に出会った寛永寺から行くわ。もしかしたら、今でも天狗が現れるかもしれないし」
「どうかねぇ」
孝介はショートガードルに包まれた真夜の尻を右手で撫でながら、
「あそこも今じゃ観光客のほうが多いからな。天狗もビビッてなかなか顔出さねぇんじゃねぇか?」
と、左腕で真夜の身体を抱き返す。
「それでも行くのか?」
「当然よ! 行かなきゃ何も分からないでしょ?」
「お前、俺よりもライターに向いてるぜ」
孝介はそう笑いつつ、真夜の目を見つめた。すると真夜も孝介の目をじっと見つめ返す。
2人の距離が徐々に近づき、やがて唇同士が重なった。
互いの口内で唾液が混ざり合い、それは夫妻をつなぐ糸になった。真夜は愛の糸を舌で丁寧に舐め取りながら、
「……コウ、私怖い」
と、打ち明けた。
「怖い?」
「コウと一緒にいられなくなることが、すごく怖い。だからコウ、これからもずっと一緒よ?」
「……ああ、分かってらぁ」
孝介は真夜の頭髪とショートガードルを撫でながら、
「俺もお前を失うのが怖い。心底愛した女をくだらない理由で手放すのは、もう御免だ」
そう返した。
そこから真夜は数秒かけ、ある違和感に気がついた。それは孝介が“もう”と言ったことだ。
「もう」って、どういうこと?
だがその疑問は、孝介にブラウスとブラジャーを解かれると同時に真夜の脳内から弾け飛んでいった。
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