そこは夢の詰め合わせ

らい

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三角錐

89.見えない君へ

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「ねぇ・・・空は青い?夜空は綺麗?」

何故そんな当たり前のことを聞くのか?自分で見ればいいだろうに。しかし彼女は見ることができない。彼女は目が見えない。そして今日を持って、声すら発せれなくなる。

「なんでっ・・・なんでだよぉ・・・」

黒いフードを被った彼はその機械の手を強く握る。血は出ないけれど、壊れはしないけれど、そうしては居られないのだ。

何故彼女が、何故彼女なのか。それだけ、それだけの思いが強く心をむしばむ。そしてそれを分かっているかのように彼女は彼に言うのだ。

「大丈夫。私は大丈夫よ。だから顔をあげて?前を向いて?そして世界を歌ってよ。」

「うん。そうだね。君の為に世界を歌うよ」

目の見えない、声の発せない彼女の代わりに彼は世界を歌う。彼の声は配信と共にすぐに世界へ広がった。配信者としてではなく歌い手として。彼の歌は瞬く間に有名になった。しかし彼はただ一人のために歌っているのだ。

夜空の歌も、宵の歌も、朝焼けの歌も、青い空の歌も、夕焼けの歌も、青い海の歌も、散る桜の歌も、白い銀世界のような雪の歌も、全て。全ては彼女の為の歌である。

黒いフードは彼女のものである。黒いフードに機械の腕、それが彼。しかし彼女にはそんな彼すらも見えない。それでも世界を彼は歌い続ける。

「やっぱり君はいい歌を歌うよ。私の代わりにずっと世界を歌ってよ。」

「うん。もちろん。俺は君の為に歌うよ。」

彼はこれからもステージに立ち歌い続けるだろう。ファンはそれを聞くだろう。しかし彼が誰のために歌っているのかなんて、彼一人にしか分からない。

「世界はこんなにも広いってことを、俺は彼女に伝えなければならない。彼女のために、俺は歌い続ける。」
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